昔話。動物社会の競走を主題にした動物昔話。国際的には〈hare and tortoise race〉と呼ばれる。イソップ寓話にある。日本では1593年(文禄2)天草で刊行された《伊曾保物語》にその最初の形が認められる。ウサギと亀の駆け競べを語るが,俊敏なウサギが途中で昼寝をして鈍重な亀に負けるという物語。最後にウサギの慢心を戒め,亀の努力をたたえる教訓を語る場合が多い。この昔話は他にハリネズミ・カエル・カニと小鹿・キツネ・小鳥などの競走を内容にする。いずれの場合にも,形状や性状の対照的な動物を配して,条件の整わないほうに勝利がもたらされると語る。日本では〈蚤(のみ)と虱(しらみ)の駆足〉〈蜈蚣(むかで)と蛞蝓(なめくじ)の競走〉などが顕著な例である。この昔話は,競走の目的や勝利によって得る利益を語らない。それは,競走によって神意を占った,古い素朴な行動様式の仮託と解釈され,競走中に眠ったウサギの失敗は,課せられた禁止事項を破った者への懲戒とも説かれる。
執筆者:野村 敬子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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