約2600年前に古代ギリシャの人、イソップが作った話が元になったといわれる。「ウサギとカメ」「北風と太陽」など400以上のお話がある。動物などが主人公の物語を通して、人がどう生きるべきかなどの教訓が書かれ、世界中で読まれている。
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ギリシアのイソップ(アイソポス)が作ったと伝えられる動物寓話集。動物などの性格や行動に託して,ギリシアの一般大衆に,いかにすれば人は平穏無事に人生をおくることができるかを教える処生訓であった。この寓話形式はすでにヘシオドス(《農と暦(仕事と日々)》202~212行),アルキロコス(断片86,89)などによって使用され,前6世紀ころイソップによって大成された。その後,前5~前4世紀に流行をみ,また文人などにも愛好されて,アリストファネスやクセノフォンなどが著作の中でイソップの名とともに動物寓話に言及している。ソクラテスは獄中にあってイソップの寓話を詩文に移していたとプラトンは伝えている。イソップは民衆に寓話を語り聞かせただけで,実際には文字にしなかったと言われている。しかし,イソップの名があまりに有名であったため,イソップの作品の改作や模倣,別人の作品や外国に起源をもつ類似の物語までもイソップの作品の中に混入される結果となった。このような過程を経て,これらのいわゆる《イソップ物語》は,ローマ時代に至ってラテン語に移され,人気を得ることとなった。そして現代に至るまで種々の翻訳や改作が行われ,また類似の物語(J.deラ・フォンテーヌの《寓話》など)が生み出されて,老若を問わず親しまれている。
《イソップ物語》の最初の集大成はファレロンのデメトリオスによってなされたと3世紀の伝記作者ディオゲネス・ラエルティオスは伝えている。散文体であったらしいが伝存しない。しかし,今日に伝わる《イソップ物語》の中核をなすものと思われる。伝存する最古の集成は《アウグスタナ》の名で知られる1世紀ころのもので,約230編から成る。次に古い集成は2世紀末のローマ人バブリオスがコリアンボス調の詩形に改作したもので,古代において人気を博した。本来10巻のうち2巻のみが現存する。これは1843年に発見されてギリシア語原典の底本となった。ビザンティン時代には上述の《アウグスタナ》が,さまざまに短縮,改作された物語を生み,100以上に及ぶ写本がイソップの名で今日に伝わっている。以上の諸集をもとにプラヌデスが《アクルシアナ》と題する寓話集をイソップの伝記を付して編纂した。
2世紀の随筆家ゲリウスの引用から,前3世紀の詩人エンニウスがすでに《イソップ物語》をラテン詩に移したことが知られる。しかし,最も有名なものはファエドルスによるイアンボス調のラテン語訳である。これは現存する。4世紀のアウィアヌスAvianusはエレゲイア調の詩文に改作し,42編が伝わっている。9世紀に至ってディアコヌスIgnatius Diaconusがコリアンボス調の詩文に改作し,53編が現存する。なお,1952年のB.E.ペリーによる《イソップ物語》は,イソップの伝記とともにギリシア語とラテン語の寓話725編を集録している。
→伊曾保物語 →寓話
執筆者:高橋 通男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物その他の世界に仮託して人間生活の諸相を描いた古代ギリシアの寓話(ぐうわ)集。アイソポスの作と伝えられる。彼の伝記のなかに収められていた寓話が、そこから独立して一つにまとめられたものであろう。すでに紀元前5世紀に「アイソポスの物語」として特定の動物寓話集が存在していたらしく、喜劇詩人や弁論家に愛好された。これらの物語は、一般民衆の生活を基盤としていて、ホメロスの叙事詩が英雄、貴族の文学とすれば、これは虐げられた弱者の文学である。時代の思想や宗教の求める規範とはかかわりのないところで、覚めた目で人間生活が描かれ、この点にもギリシア人の精神を象徴するような合理主義的思考が現れている。庶民の生きるための知恵の結晶したもので、それだけに広く親しまれたのであろう。この動物寓話の人気が高まるにつれて、これ以外の寓話、アフリカや小アジアの外来の寓話もアイソポスの寓話集のなかに組み込まれていった。伝承上の最初の寓話集の編集者はアリストテレス門下のデメトリオスとされるが、伝存していない。現在伝わっている最古のギリシア語テキストは紀元後2~3世紀のものである。最初から、親しみやすい明快な散文で書かれていたようであるが、これを韻文に直す試みも何度か行われた。その代表的な例は2世紀のバブリオスの寓話詩である。また、ローマでは早くから紹介されていたが、帝政初期にファエドルスがラテン語の詩形で寓話集を発表した。これらの詩は、ビザンティン時代とヨーロッパ中世を通じて、イソップ集の伝承に大きな役割を果たした。
このようにしてアイソポスの寓話集は、ギリシア民族の文学遺産だけにとどまらず、中世を経て、ルネサンス期における高い評価を得て、世界文学の一つとしての地位を占めるようになった。わが国ではすでに16世紀の末にローマ字で印刷された『エソポのファブラス』が出版され、続いて仮名草子として『伊曽保(いそほ)物語』も出版された。江戸時代を通じて、一般的にはならなかったようであるが、明治初期に、英語版の翻訳を通して再度イソップ物語が紹介され、小学校教科書に用いられるほど普及することになった。現在では、外国の、しかも古代ギリシアの話とは思われないほどに、日本人の心に身近な物語として親しまれている。わが国での受容のあり方からみても、アイソポスの寓話集が他に例をみない長い生命力を保ち、世界文学としての万人共通の深い基盤のうえにあることがうかがわれる。
[橋本隆夫]
『山本光雄訳『イソップ寓話集』(岩波文庫)』▽『渡辺和雄著『イソップ寓話集』全二冊(1982・小学館)』
…3巻。《イソップ物語》の翻訳であるが,全部で94話。最初の30話はイソップの逸話,のちの64話が動物の寓話である。…
… ジャータカはインド各地の昔話や寓話にもとづいているため,共通の説話がヒンドゥー教やジャイナ教の聖典中にも見いだされる。これらの民話を集成した《パンチャタントラ》は,のちにシリア語やアラビア語に訳されて西方に伝播し,《イソップ物語》や《アラビアン・ナイト》,さらには《グリム童話》,J.deラ・フォンテーヌの《寓話》などに影響を与えた。また,日本へも前述の漢訳文献を通じて《今昔物語集》などに入っている。…
…たぶんギリシア化したローマ人で,韻律と言語の分析から2世紀ごろの人と推定される。《イソップ物語》をコリアンボス調の詩文に直した。〈軽率な夫婦〉など幾編かの新しい寓話を付加したが自作かどうか明らかでない。…
…次に,ジャータカ(本生話)は,釈迦が釈迦族の王子としてこの世に生をうける以前,天人,国王,大臣,長者,盗賊,あるいは兎,猿,象,孔雀などの姿で菩薩のすぐれた自己犠牲の行為を行ったことを物語る教訓説話で,その中には多くの民間説話,寓話,伝説がおさめられている。これは,経蔵中の〈クッダカ・ニカーヤ〉におさめられているが,他のインド文学の作品や《イソップ物語》《千夜一夜物語》にも共通する説話を保有する点で,世界文学史上においても重要な文献である。このほか,叙事詩形式のものとして,スリランカにおける仏教教団の歴史を描いた《ディーパバンサ》《マハーバンサ》をあげることができる。…
※「イソップ物語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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