改訂新版 世界大百科事典 「全層施肥」の意味・わかりやすい解説
全層施肥 (ぜんそうせひ)
水田の作土層(耕起される土層)全層に窒素肥料が混合するように施肥する方法をいい,窒素肥料の脱窒を防止し,水稲による窒素の利用率を高めるのに役だつ。水田では土層のごく表層の部分は,空気中の酸素が灌漑水を通して供給されるために酸化的状態にあるが,それより下層では還元的状態にある。したがって水田作土層の表層のみに硫安のような窒素肥料が施されると,そこでアンモニウムイオンは硝化されて硝酸イオンになる。それが水の移動に伴って下層の酸素の少ない還元的な層にうつると,そこで硝酸は脱窒され窒素ガスN2あるいは酸化窒素ガスN2Oに変化して大気中に揮散する。作土全層に施肥すれば下層に混入した硫安などの窒素肥料はアンモニア態のまま土壌に吸着保持される。全層施肥を行うには灌水前の耕起砕土の際に肥料を施し,施肥後3~4日で灌水する。灌水が遅れるとアンモニウムイオンは硝酸イオンに変化し,ここで灌水すると流亡・揮散してしまうので注意が必要である。
執筆者:茅野 充男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報