肥料三要素の一つである窒素を主成分とする肥料の総称。植物は窒素源を主としてアンモニアと硝酸の形で吸収利用するので、窒素肥料もアンモニア態か硝酸態のもの、あるいは土壌に施用されたあとで短期間にこれらの形に変化するものが使用されている。現在、日本で使われている窒素肥料を窒素の化合形態によって分類すると、無機質の硝酸塩類、アンモニウム塩類、尿素、シアナミド態窒素肥料、緩効性窒素肥料があり、また動植物の有機質肥料にも窒素肥料とみられるものが多い。
[小山雄生]
硝酸アンモニウム(硝安)、硝酸ソーダ(チリ硝石)などがあり、いずれも水溶性の速効性肥料である。畑作物の追肥用として好適であるが、土壌に吸着されにくく雨水で流されやすい。また水田では窒素ガスに還元されて大気中に失われやすいので、水稲に使用することは不利である。吸湿性が強く取扱いや貯蔵に不便であるため需要はあまり多くない。
[小山雄生]
水溶性で速効的であるが、土によく吸着されるので流亡しにくく、吸湿性もあまり大きくないのでもっともよく使われている。おもなものに硫安、塩安、リン安などがあり、陰イオンの違いによって肥効に多少の差がある。たとえば、硫安は秋落ちしやすい老朽化水田には向かず、塩安はいも類などデンプン質作物には向かない。
[小山雄生]
有機物であるが肥効は通常の場合アンモニウム塩と大差がない。水溶液がイオンでないため土壌に吸着されにくく雨水で流されやすい。しかし施用後は炭酸アンモニウムに変わり、土に吸着されやすくなる。窒素当りの値段は安く、生理的にも中性で葉面散布にも使用できる利点がある。
[小山雄生]
石灰窒素があり、アルカリ性で肥効はアンモニウム塩に比べすこし遅い。生物に有毒で、この毒性を利用して微生物や小動物を制御するのに使われるなど農薬効果をあわせもつ特徴のある肥料である。
[小山雄生]
肥料成分の流亡を防ぐため開発された窒素肥料でグアニル尿素(ジシアンジアミドを酸性溶液中で加水分解して得た塩)、ウレアホルム(ホルムアルデヒド加工尿素)、IB(尿素とイソブチルアルデヒドの混合物)などがある。土の中で分解してアンモニアを生成するのが遅く、窒素成分がゆっくりと効く。肥効をコントロールしやすいコーティング肥料(被覆肥料)の利用が増えている。
[小山雄生]
魚肥、油かす類があり、有機質で土壌中で微生物によって分解されアンモニアに変化してから植物に利用されるので緩効的である。したがって濃度障害をおこさず、肥効が長続きする安全で使いやすい肥料であり、またリン酸やカリなどの成分もいっしょに含まれているので、おもに園芸作物や永年作物などに使われている。高価なため消費量はそれほど多くない。
全般に肥料は複合化されて使用される傾向にあるので、単肥としての使用は減っているが、窒素肥料は追肥用に単肥としても用いられる。
[小山雄生]
植物に利用できる形態の窒素化合物を含有する資材を窒素肥料という。窒素はタンパク質,核酸,アミノ酸などに含まれる植物の重要元素であり,その欠乏は植物の生育を顕著に抑制する。肥料として広く用いられている窒素化合物としてはアンモニウム塩類,硝酸塩類,尿素,石灰窒素であり,そのほかに尿素とアルデヒド類との誘導化合物のウレアホルム,イソブチリデンダイウレア,クロトニリデンダイウレア,グアニル尿素などの緩効性合成有機質窒素肥料もある。また,油かすや魚肥など動植物質の天然有機質肥料も主としてタンパク質やアミノ酸の形で窒素を含んでおり,窒素肥料となる。合成有機質窒素肥料や動植物質の有機質肥料は土壌中で微生物などの働きによって,あるいは化学的に分解され水溶性窒素化合物となって植物に利用されるので,肥効は緩やかでゆっくりと現れる。
19世紀半ばまでは窒素肥料として用いられたのは動植物質有機質肥料だけであったが,1802年にペルーでグアノ(海鳥糞の堆積物)が発見されて肥料に利用されはじめ,また,30年ころにはチリのチリ硝石NaNO3が肥料として利用されるようになった。化学的に合成された窒素肥料としては1906年に石灰窒素がつくられ,13年にはハーバー=ボッシュ法による合成硫安製造の工業化が開始され,しだいに化学肥料が窒素肥料の主体となった。
窒素は多くの農作物で最も不足しやすい成分であるが,多すぎると作物の徒長や品質の低下を招き,ときには土を劣悪化し,また土から流亡して周辺の河川水や地下水を汚染し水質を低下させ,あるいは土からガス体のN2O,NO2,NH3などとして揮散し作物に被害を与える。このため窒素肥料の施用には肥料の種類とその性質,施用量と施用時期の選択が重要である。
硫安のようなアンモニウム塩の肥料は速効性なので元肥にも追肥にも用いられるが,土を酸性化しやすく,またアルカリ土壌に施用したり石灰肥料と混合するとガスになって揮散する。硝安など硝酸態の肥料も速効性で元肥にも追肥にも利用される。土を酸性化しないで,むしろアルカリ性にするが,水田に施与すると脱窒によって揮散するので用いない。尿素も速効性であり,土を酸性化しない。窒素含有率が高いので高度化成肥料に広く利用される。また緩効性合成窒素肥料の原料として用いられている。緩効性合成窒素肥料や有機質肥料は肥効が緩やかなので過剰施用のおそれは少ないが,追肥としては用いられず,もっぱら元肥で用いられる。
土壌に施用された成分のうち,何%が実際に植物に吸収されるかという利用率をみると速効性窒素肥料は30~50%,有機質肥料ではそれよりやや劣り,30%前後である。利用率は作物の種類や,土壌の性質,肥料の施用方法や水の用い方で変わる。施用量は植物によって異なる。マメ類が最も少なく10a当り3kgほどであり,最も多いチャは50kgをこし,年々施用量が増大している。多くの作物では10~20kg/10aである。
執筆者:茅野 充男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
窒素分を含む肥料の総称.肥料用窒素化合物は,アンモニウム塩,硝酸塩,尿素,石灰窒素,各種アミノ化合物,タンパク質類などである.いわゆる各種の肥やし,魚肥,大豆かすは窒素肥料であり,自給肥料である.化学肥料としての窒素肥料は19世紀のはじめにチリ硝石が発見され,ヨーロッパで利用されたことにはじまる.その後,石炭乾留副生硫安が用いられたが,20世紀のはじめに空中窒素の固定工業が発達し,合成硫安,石灰窒素が大量に生産されるようになった.現在用いられているおもな窒素肥料の成分,特色を以下に示す.
(1)無機性窒素の形をもつもの:硫安;結晶または粒状.N約21% 含む.アンモニア性窒素で水溶性,即効性.酸性肥料であるため連用すると土壌を酸性にする.塩安;N約24% 含む.肥効は硫安と同じ.無硫酸根肥料として老朽化水田に適する.硝安;硝酸性窒素でN約34% 含む.生理的中性で畑地によいが,硝酸性は土壌に吸収されにくく流逃が多く,稲作に不適.そのほか重炭安(炭酸水素アンモニウム,N 18%),チリ硝石(主成分NaNO3,N 15~16%),硝酸石灰(硝酸カルシウム),硝酸カリウム,アンモニア化草炭(草炭にアンモニアを作用させたもの,N 15~19%),下肥,馬小屋肥(N 0.4~0.6%)などがある.
(2)有機性窒素をもつもの:尿素;CO(NH2)2.結晶または粒状.N約46%.生理的中性で土壌を悪化させず,無硫酸根で老朽化水田に適する.葉面散布にも用いる.土壌中で分解が速く,アンモニアを生じ肥効を呈する.石灰窒素;カルシウムシアナミドCaCN2を主成分とし,副成分に石灰などを含む.粉末や粒状の肥料でN 20~23%.施肥直後の石灰窒素そのものは作物に有害であるが,土壌中ですみやかに分解してアンモニアを生じ肥効を呈する.即効性.塩基性で酸性土壌に適する.
(3)アミノ性窒素をもつもの:尿素とホルムアルデヒドの縮合物(ウラホルム,N 40%).
(4)タンパク質性窒素をもつもの:魚肥(N ~40%),大豆かす(N 4~8%).
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…化学肥料工業の基礎は,1843年イギリスのJ.B.ローズがドイツのJ.vonリービヒの農業化学理論を応用し,過リン酸石灰の製造を開始したときに築かれた。19世紀の間,工業製品としての肥料は過リン酸石灰のみであったが,20世紀に入ると窒素肥料の工業的製造法が相次いで開発された。すなわち,電弧法による硝酸製造,フランク=カロー法による石灰窒素の工業化,そして1913年に工業的生産が開始されたハーバー=ボッシュ法によるアンモニアの合成は,その高圧合成の技術によって,その後の化学工業の発展に大きな影響を及ぼすこととなった。…
※「窒素肥料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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