内視鏡微細診断

内科学 第10版 「内視鏡微細診断」の解説

内視鏡微細診断(消化管の画像診断学)

(2)内視鏡微細診断
 消化管(食道・胃・十二指腸小腸大腸)の内視鏡診断は,大きく分けて「病変の発見(detection)」と「質的診断(characterization)」の2つのステップからなる.消化管における粘膜病変を,より早期に発見し,より正確な質的診断をするために,さまざまな新しい技術が開発され内視鏡観察に応用されている.
a.画像強調内視鏡
 粘膜病変のコントラストを上昇させる技術を用いた内視鏡観察法は,近年,画像強調内視鏡(image enhanced endoscopy:IEE)と総称されている(Kaltenbachら, 2008).現在までさまざまな技術が開発され内視鏡機器に搭載されてきた.しかし,一般の日常臨床に応用されている画像強調内視鏡は,消化管粘膜に色素を散布して表面構造のコントラストを上げる色素内視鏡dye-based IEE (chromoscopy)や通常の白色光と異なる特殊な光を投射する光学的手法を用いた画像強調内視鏡(equipment-based optical IEE)である.
b.拡大内視鏡
 発見した微細な粘膜病変の質的診断のために,内視鏡の先端に可動式レンズを組み込み,光学的に拡大倍率を上げ,粘膜病変の毛細血管上皮などを顕微鏡レベルで観察できる拡大内視鏡も一般臨床において使用されている.
c.色素内視鏡
 色素内視鏡に用いる色素は,検査目的や臓器により異なる.食道の重層扁平上皮内にはグリコーゲンが多量に含まれる.内視鏡観察時にヨウ化カリウム液を食道内腔に散布し上皮内でヨウ化カリウム・グリコーゲン反応を惹起させると,食道上皮は褐色染色される.一方,癌上皮,びらん・潰瘍などの上皮欠損部分,異所性胃粘膜などは不染となる.ヨウ化カリウム染色は食道表在癌(扁平上皮癌)の発見や質的診断(範囲診断)に汎用されている(図8-1-6).胃・十二指腸・小腸・大腸には,インジゴカルミンという非吸収性の青色の色素液を散布し(図8-1-7),病変の表面構造のコントラストを上げる方法が日常臨床に用いられている.おもに平坦な病変の発見や質的診断に応用されている.大腸では,孤発性の上皮性腫瘍に対し,吸収性のクリスタルバイオレットを散布し上皮の染色を行い,腺開口部形態(pit pattern)を拡大観察する方法が,質的診断に応用されている(図8-1-8).
d.狭帯域光観察
 光学的手法を用いた画像強調内視鏡には,現在,狭帯域光観察(narrow-band imaging:NBI)という近年開発された技術がある(オリンパスメディカルシステムズ株式会社).その原理は,毛細血管や細静脈を流れる赤血球中のヘモグロビンに,強く吸収される波長からなる狭い波長帯域の光(狭帯域光)を投射すると,ヘモグロビンに強く吸収され,粘膜表層の毛細血管をはじめとする微小な血管像を明瞭に描出できることにある.さらに,狭帯域光は粘膜で強く反射され散乱も少ないため,腺上皮における腺窩辺縁上皮などの微細構造を描出する臨床効果も有している(八尾,2009).
 従来の白色光を用いた内視鏡観察法に比較して,NBIは以下の点ですぐれている(八尾ら,2011).咽喉頭部・食道(重層扁平上皮)においては,NBIによる平坦な扁平上皮癌の発見(図8-1-9)やNBIを拡大内視鏡観察に併用した場合に扁平上皮癌の質的診断が可能で,胃や大腸(腺上皮)においては,NBIを拡大内視鏡に併用した場合,平坦で小さな早期胃癌の質的診断(図8-1-10),大腸の腫瘍性病変の質的診断に有用である.これらの微細な粘膜病変の診断は従来の内視鏡観察のみでは不可能であった.
 また,NBIに必要な操作は,検査中に内視鏡手元操作部のスイッチを押し内視鏡先端から投射する光を変更するのみである.したがって,本観察法の利点は,人工的な色素などを人体に散布する必要がなく,簡便で侵襲がないことである.[八尾建史]
■文献
Kaltenbach T, Sano Y, et al: American Gastroenterological Association (AGA) Institute technology assessment on image-enhanced endoscopy. Gastroenterology, 134: 327-340, 2008.
八尾建史編著:胃拡大内視鏡,pp1-230,日本メディカルセンター,東京,2009.
八尾建史,高木靖寛,他:色素内視鏡,画像強調内視鏡および拡大内視鏡.臨床外科,66: 1580-1588,2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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