医療安全調査委員会(読み)いりょうあんぜんちょうさいいんかい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「医療安全調査委員会」の意味・わかりやすい解説

医療安全調査委員会
いりょうあんぜんちょうさいいんかい

医療機関における診療行為のなか患者が死亡したときに、その原因を究明し、再発防止に役だてることを目的とする公的な組織厚生労働省が設置のための法案を準備しているが、医療関係者の意見がまとまらず、2009年(平成21)夏の時点で法成立のめどは立っていない。航空機事故の原因調査組織などになぞらえて「医療版事故調査委員会」などとよばれることもある。

 診療行為中の医療事故については、患者を取り違えた、薬を間違えたなど明白な過失を除くと、その原因がどこにあるのかがわかりにくい。刑事裁判民事裁判などによって真相を究明しようとする例はあるが、責任追及に走ってしまうなど、医学的な原因究明にはつながらないことも多い。患者側はなにもわからないまま放置されることも珍しくなく、医療者側も通常の医療をしたつもりなのに責任を問われ、疲弊するといったことが起こる。

 そこで、第三者の専門家らで組織する調査委員会を全国に設置し、調査委員会が事故の原因を分析し報告書をまとめる方式が考えられた。報告書は公表され、再発防止などに役だてられる方向である。事故のなかに重大な過失や故意によるものがあった場合は警察に通報することもありうる。

 福島県立大野病院の産婦人科医師が帝王切開手術を受けた患者を死亡させたとして、2006年2月、業務上過失致死などの容疑で逮捕された。これに対して全国の医師から「通常の医療をしたが、結果的に患者が亡くなった不幸な事例であり、これで刑事責任を問われたのでは医療行為はできない」という猛反発が起こった(地裁判決は無罪検察は控訴せず)。この事件で医療安全調査委員会の設置議論が加速した。しかし、厚生労働省の設置案に対して、医療側からは「刑事責任の追及につながる」「医療が行政干渉を受ける」などの反発が根強い。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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