精選版 日本国語大辞典 「警察」の意味・読み・例文・類語
けい‐さつ【警察】
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社会秩序の維持および国民生活の安全を確保することを目的とする行政作用、またはこれを担当する行政機関をいう。警察法が「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする」(2条1項)旨規定する場合における「警察」とは、行政作用の一種としての警察を意味し、他方、同法が「都道府県警察は、当該都道府県の区域につき、第2条の責務に任ずる」(36条2項)旨規定する場合における「都道府県警察」とは、警察作用を担当する行政機関としての警察機関を意味する。
[関根謙一]
〔1〕国民生活の安全および社会秩序の維持を確保することを目的とする行政の手段としては、古代とくに816年(弘仁7)ころに検非違使(けびいし)庁が創設されて以来明治維新に至るまでの間は、主として犯人の追捕(ついぶ)と糾弾の方法によっていた。もちろん、明治維新以前においても、自身番・木戸番の制度や、賭博(とばく)・売春の取締り、淫祠邪教(いんしじゃきょう)の取締り、鉄砲の取締り等、今日「警察」に属すると考えられている行政上の制度や作用が存在していたが、これらは、「警察」という特別な行政の一部門として観念されることなく、多くは「取締り」の観念の下に、主たる手段である犯人の追捕・糾弾の作用とともに、渾然(こんぜん)一体をなして一般の行政に属せしめられていたのである。
明治以降、権力分立思想に基づく法制が整備されるに及んで、国民生活の安全および社会秩序の維持の確保の手段は、行政権に属する作用と司法権に属する作用とに二分され、それまでのおもな手段であった犯人の追捕・糾弾の方法による作用が司法権に属させられることとなるとともに、新たに、命令強制の方法による作用が行政権に属させられることになった。前者を「司法警察」とよび、後者を「行政警察」ないし単に「警察」とよぶ。これは、フランス型の権力分立思想に基づく制度に倣ったものであり、ここに、三権分立を制度的前提として行政権に属する作用としての近代的な「警察」の観念が成立するのである。
〔2〕1872年(明治5)10月太政官(だじょうかん)布告第17号をもって公布された司法省警保寮職制第2章第2条は「警保寮ヲ置クノ趣意ハ国中ヲ安静ナラシメ人民ノ健康ヲ保護スル為(ため)ニシテ安静健康ヲ妨クル者ヲ予防スルニアリ」と規定して、その後における警察の観念の萌芽(ほうが)を示しているが、まだこの段階では、「行政警察」と「司法警察」との区別が確立しておらず、行政権に属する作用としての「警察」の観念が明確に意識されているものではなかった。
〔3〕1874年(明治7)1月に、警保寮が司法省から内務省に移管されたが、その際に太政官から発せられた警保寮職制並事務章程は、フランスの制度に倣って「行政警察」と「司法警察」とを明確に区別するに至った。さらに、1875年(明治8)3月太政官達第29号をもって発せられた行政警察規則は、行政警察の概念内容をいっそう明確に示すに至り、ここに、行政権に属する国家作用としての「警察」の観念が成立したのである。
[関根謙一]
明治憲法下における「警察」の概念については、概念構成の方法論に関する対立に基づき、「学問上の警察の概念」と「法上ないし法制上の警察の概念」との対立があり、両者の間における論争は、最後まで結着をみるに至らなかった。
〔1〕「学問上の警察の概念」とは、主として美濃部達吉(みのべたつきち)が、明治憲法第9条の規定の解釈との関連において、主張する警察の概念である。明治憲法第9条は、「天皇ハ法律ヲ執行スル為ニ又ハ公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ増進スル為ニ必要ナル命令ヲ発シ又ハ発セシム」と規定していた。美濃部は「公共ノ安寧秩序ヲ保持スル為ニ必要ナル命令」とは保安目的の命令であり、「臣民ノ幸福ヲ増進スル為ニ必要ナル命令」とは福利目的の命令であるが、そのいずれの目的の命令も、内務行政の目的の範囲に属する命令であり、警察目的の命令であるとした。すなわち、明治憲法第9条に規定する命令の目的の範囲は「警察」の目的の範囲と「完全相一致スル」ゆえに、「憲法第九条ハ畢竟(ひっきょう)スルニ執行命令及行政規則ノ外ニハ唯(ただ)警察命令ノ大権ヲ認メタルモノニ外ナラス」とした。他方において美濃部は、警察の概念について、「法律上ノ観点ヨリ謂(い)ハハ其ノ目的ノ積極的ナルト消極的ナルトニ依(よ)リテ其ノ行為ノ法律上ノ性質ヲ区別スヘキ理由ヲ看出スコトヲ得」ないがゆえに、「警察トハ、社会生活ノ秩序ヲ維持スルガ為ニ国家ノ一般統治権ニ基キ人民ニ命令シ強制シ其ノ自然ノ自由ヲ拘束スル作用ヲ謂(い)フ。」(『日本行政法』中巻)ものと定義すべきであると主張するとともに、警察の概念において、「第一ノ要素トシテ挙ケラルルモノハ命令及強制ノ権力ニ依ル作用ナルコト」にあるのであって、その目的が保安目的であるか福利目的であるかを問わず、命令強制の権力作用は警察に属する作用であるのに対し、非権力的作用は、その目的の積極的であるか消極的であるかを問わず、警察作用ではなくて「保育」の作用である、とした。
〔2〕以上みてきたように美濃部によれば、明治憲法第9条の解釈に関して、ひとまず、保安目的の命令も福利目的の命令もともに警察命令であるとするのであるが、ここで、ただちに、警察権の限界の理論、とくに目的に関する限界(いわゆる「消極目的の原則」)の理論を持ち込んで警察命令制定権の範囲の縮小を試みるのである。すなわち、博士によれば、警察命令は、法規命令たる性質を有する命令であるが、法規すなわち個人の自由を制限する規律を定めることができるのは、ただ消極目的すなわち保安目的の分野に限られるのであって、福利目的のような積極目的の分野においては、法規命令を制定することができず、行政規則のみを制定することができるにすぎない、とする。その結果、明治憲法第9条の独立命令制定権は保安目的の分野においてのみ法規命令を制定することを承認する規定であるということになるが、このことは、警察命令制定権に「警察権の限界」の理論を適用した結果にすぎない、とするのである。このように、明治憲法第9条の独立命令は警察命令であると主張することによって美濃部は、この独立命令制定権に警察権の限界論を適用し、その結果、福利目的のための法規命令の制定の可能性を理論上封ずることができたのである。
美濃部による「警察権の限界論」は、明治憲法第9条の独立命令制定権の範囲を限定し、警察命令を制定する場合における準則としての機能をもたせようと試みたため、いろいろと変遷したが、最終的には、(1)目的に関する限界(いわゆる「消極目的原則」)、(2)警察公共の原則、(3)警察の比例の原則、(4)警察責任の原則、の4原則にまとめられるに至った(『日本行政法』下巻)。
〔3〕美濃部による警察概念は、「学問上の警察の概念」といわれるが、「学問上」といわれるのは、学問的分析の手段として概念を構成する場合には、法律上の観点からみて共通の性質の作用であって、共通の法理・法原則に服する作用は共通の概念の下に包摂せしめることが望ましいわけであるが、この場合における「警察」の概念も、このような観点から学問上の分析道具として思弁的に構成された概念であって、実定法上の「警察」とはなんら関係のない概念である、との理由からであった。そして、この場合における「警察」に属する作用に共通する法律上の性質とは、目的、手段、権力の3点における性質のことであり、共通の法理・法原則とは、主として「警察権の限界論」に由来する法原則を意味していた。
美濃部の見解に対しては、大要次のような疑問が提起されていた。
(1)警察の「概念」においては、福利目的も保安目的も、すなわち積極目的も消極目的も、いずれも警察目的に含まれるとしながら、「限界論」においては、消極目的の原則を掲げて、結局、警察目的を保安目的のみに限定するのはなぜか。
(2)「学問上の警察」概念とは、目的のいかんを問わず、ただ、手段が命令強制の権力作用である、というにすぎないのではないか。
(3)美濃部が前記のような主張をするのは、明治憲法第9条の解釈において、保安目的の命令についてのみ法規的事項を定めることができるが、福利目的の命令については単なる行政規則しか制定することができない、と主張するためではないか。
(4)要するに、「学問上の概念」とはいうものの美濃部の警察の概念はそのユニークな憲法解釈の方法と結合されており、明治憲法第9条の独立命令制定権の範囲を制限するために考案されたイデオロギー的性格を有する概念であって、このような概念構成の方法は、現行法体系の統一的理解と整序を目的とする法律学における概念構成の方法として根本的に誤っているのではないか。
[関根謙一]
佐々木惣一(そういち)による「警察の概念」は、「学問上の概念」に対する以上のような疑問から出発する。
〔1〕佐々木説では、警察の概念を明らかにするには、厳正に法が警察として思考するものをみるほかはなく、法を認識する者が自身で学問上の概念として構成するものや、法を認識する者が警察なる語に与える意義などは、けっして法上の概念とはいえないのであって、警察の概念を構成することは、わが国の現行法制が警察という語をもっていかなるものを示しているかを明らかにすることにほかならない、と主張したうえ、現行法制上根拠とすべき基本法は、1875年(明治8)の行政警察規則である、とする。佐々木が行政警察規則を根拠として構成した警察の概念は、次のとおりである。「警察とは、国家が、一般統治の下にある社会生活の秩序の障害を除去するが為に、その障害の原因たる事実に対する干与を、権力を用いて人の自然の行為の自由を制限することを中心として、為す所の包括的な活動をいう。」(『警察法概論』)。佐々木は、これを警察の「法上の概念」ないし「法制上の概念」であるといい、わが国の制度における警察の概念は、この意味における法制上の概念以外にはなく、学問上の概念なるものは存在しない、と主張したのである。
〔2〕「学問上の概念」と「法制上の概念」の相違点は、主として警察概念の構成要素としての「警察の目的」の内容とその要素が概念構成において占める重要性との2点における差異にある。「学問上の概念」における警察の目的には福利目的が含まれると同時に、目的の要素が警察概念の構成において占める重要性は、手段の要素に比較して軽い。これに対して、「法制上の概念」における警察の目的は保安目的に限定されるが、その目的の要素が警察概念の構成において占める重要性は、手段の要素に比較して重い。たとえば、「学問上の概念」論者は、警察概念の構成にあたり、保安目的と福利目的との間に差別をしないが、他方、手段による差別を導入して、同一の目的の作用であっても、権力作用を手段とするものを「警察」とよび、非権力作用を手段とするものを「保育」とよぶのである。これに対して「法制上の概念」論者は、保安目的の作用であるか福利目的の作用であるかの区別に基づき、前者を「警察」とよび、後者を「化育」ないし「育成」とよぶのであって、この場合においては、手段が権力的であるか否かはかならずしも重要な要素ではなく、警察の手段についても、包括的にみれば権力作用を中心としているが、個別的には非権力作用をも含むものであり、他方、「化育」行政においても、非権力的作用の手段のみならず、権力作用の手段をも含みうる、とするのである。
〔3〕要するに、「法制上の概念」は、実定法上の概念としての警察の概念内容を確定することを主たる目的として構成されたものであり、「学問上の概念」のように憲法上の独立命令制定権の範囲に限定を加えることを目的として構成されたものではなかったから、「学問上の概念」論者にとって警察命令を制定する場合における立法原則として重要な機能を有する「警察権の限界論」は、「法制上の概念」論者にとっては、さしたる重要性を有する理論ではなかった。それは、せいぜい、実定法上の文言たる「不確定概念」の解釈の基準としての機能を有するにすぎない理論であった。したがって、「法制上の概念」を前提とする「警察権の限界論」においては、「学問上の概念」を前提とする限界論において主として警察命令に関する立法上の原則としての機能を有するものとして主張される(1)消極目的の原則と、(2)警察責任の原則の二つの原則については、これを認める必要がなく、ただ、実定法上の不確定概念を確定するための解釈基準としての機能をもあわせ有する(1)私生活自由の原則(警察の合目的性に基づいて生ずる限界)と、(2)警察比例の原則(警察の手段の必要性に基づいて生ずる限界)の2種類の限界の存在を承認するのみである。
〔4〕第二次世界大戦前においては、「学問上の警察の概念」が、学説としては少数説であったにもかかわらず、警察の実務を支配していた。戦前、衛生、営業、交通等の各行政分野で、牛乳営業取締規則、道路取締令、労働者募集取締令等の内務省令や、料理屋飲食店営業取締規則、浴場及び浴場業取締規則等の庁府県令が明治憲法第9条の規定に基づく警察命令として多数制定されたが、これらはいずれも、「学問上の警察」およびこれを前提とする「警察権の限界」についての理論に基づいて制定されたものであった。
[関根謙一]
新憲法の施行に伴い、戦前「警察の概念」を構成するうえにおいて重要な役割を演じていた明治憲法と行政警察規則が廃止された。そして、新憲法においては、独立命令たる警察命令の制定権が否定されて、立法権は国会の独占するところとなった。その結果、警察命令制定権の範囲を制限する機能を有していた「警察権の限界」の理論と、この理論を誘導する機能を有していた「学問上の警察」の概念は、いずれも、その主たる機能を失うことになった。また「法制上の警察」の概念も、その概念構成の根拠であった行政警察規則が廃止されたため、その根拠を失うことになった。他方、新憲法は、その権力分立思想についても変更を加え、戦前の大陸型権力分立思想から英米型の権力分立思想に転換したため、戦前、司法権に属する作用とされ、「司法警察」の名でよばれていた犯罪捜査の事務が、戦後は行政権に属するものとされ、警察機関が担当することとされるに至った(警察法2条、刑事訴訟法189条)。これに伴い、「司法警察」の概念が消滅したため、司法警察の対立概念であった「行政警察」の概念も、また、存在根拠を失うことになった。現行警察法においては、警察の目的を「個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持する」(1条)ことと規定するとともに、冒頭に記したように、警察の責務に関し、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする。」(2条1項)とのみ定めて、手段に関する規定を置いていない。警察機関は、この目的および責務を達成するため、権力的手段のみならず、誘導、助言、勧告、指導、情報およびサービスの提供、金銭の給付等の非権力的な各種の手段を講じて、「国民の幸福の増進」と「公共の福祉の実現」に努力している。権力的手段を用いる場合には、その手段の行使について、法令上に根拠を有しなければならないことはいうまでもない。そのような法令としては、警察官職務執行法、刑事訴訟法のほか、道路交通法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、銃砲刀剣類所持等取締法、警備業法等、多数の例がある。
なお、警察の手段の変遷について一言付け加えておく。明治以前においては、治安維持の作用は、主として犯人の追捕・糾弾の手法によっていたが、明治憲法下においては、犯人の追捕・糾弾の手法は従たる地位に退き、これにかわって、行政上の命令強制の権力作用が主たる手段としての地位を占めていた。新憲法下の警察行政においては、このような行政上の権力作用の手段もまた従たる地位に退かんとし、かわりに、非権力作用たる助言、指導、勧告、情報およびサービスの提供、金銭の給付等の作用が警察の手段として主要な地位を占めようとしている、といってよいであろう。
[関根謙一]
明治憲法下においては、警察の事務は国の事務であり、警察の組織は内務省に従属する国家行政組織であり、警察官はすべて内務大臣の指揮監督に服する国の官吏であった。明治憲法下におけるこの国家警察の制度は、戦後においては、自治体警察を基本とする警察制度へと根本的に改められることになった。
〔1〕1948年(昭和23)に施行された旧警察法は、当時日本を占領していた連合国最高司令部(GHQ)の指令に基づき、市および人口5000人以上の市街的町村においては、当該市町村の区域を管轄する市町村警察を設置することとし、あわせて、それ以外の田園地帯を管轄する国家警察(国家地方警察)を各都道府県ごとに設置することとする、という自治体警察と国家警察との二本立ての制度を設けた。その結果、全国に1605の自治体警察と46の都道府県国家地方警察とが併立することになったが、この制度は、警察行政についての政治的中立性と民主的管理の確保を図るうえで長所を有する反面、非能率かつ不経済であるのみならず、わが国の実情にかならずしも適合していないという短所を有する制度であった。そこで、占領解除後の1954年に、旧警察制度の長所を生かすとともに、その短所を補うとの趣旨の下に制定されたのが、現行警察法である。
〔2〕現行警察制度のおもな特色は、次の2点に存する。第一の特色は、国の警察機関と都道府県の警察機関との2種類の警察機関を設けたことである。すなわち現行警察法は、警察の事務が、国家的性格と地方的性格をあわせ有する特殊な性質の事務であって、一義的に国家的性格の事務であるとも地方的性格の事務であるともいいきれない事務であるとの認識にたち、この事務を原則として都道府県に団体委任し、都道府県警察を警察行政の基本単位とすることとした。また、国の警察機関を設けて、国家的見地または全国的見地から都道府県の警察行政について統轄・調整その他の関与を行うことにより、各都道府県警察における警察事務の均質性と警察行政の統一性を確保するとともに、皇宮警察に関する事務のように、国家的見地からとくに国に留保する必要がある警察事務については、都道府県に委任することなく、国の警察機関がこれをつかさどることとした。その結果、国の警察機関と都道府県の警察機関との2種類の警察機関が存在することになったが、この2種の警察機関は、警察行政の円満な管理と運営を図ることを共通の目的として有機的に結合されており、旧警察法下における自治体警察と国家地方警察との間の関係のように、相互に無関係な独立の警察機関として並存しているわけではない。
現行警察制度の第二の特色は、国および都道府県のいずれの警察機関においても、行政組織の構造が管理機関と実施機関との2種類の行政機関から構成される複合的な構造を有していることである。すなわち、国の警察機関については、管理機関としての国家公安委員会と実施機関としての警察庁を置くこととし、都道府県の警察機関については、管理機関としての都道府県公安委員会と実施機関としての都道府県警察を置くこととした。そして、警察庁または都道府県警察がつかさどる事務については、国家公安委員会または都道府県公安委員会がこれを管理するものとし、他方、国家公安委員会または都道府県公安委員会がつかさどる事務については、警察庁または都道府県警察本部がこれを「補佐」するものとして、相互の有機的な結合を図り、もって警察行政の運営において政治的中立性と民主的管理を確保するとともに、能率的な運営を期することとしている。
[関根謙一]
行政法学においては、警察とは、消極的な社会目的のために、命令・強制によって人民の自然の自由を制限する一般統治権の作用をいう。実定法上警察機関の職務とされているものには限られない。この警察権については伝統的に次のような限界があるとされてきた。
[阿部泰隆]
警察権の目的を社会秩序の維持や災害防止など消極的なものに限定し、福祉の増進や私的競争関係への介入を目的としてはならないとするもので、たとえば、旅館業、飲食店営業の許可は公衆衛生の確保を目的とするだけで、業者間の過当競争による共倒れは法の規制の枠外である。
[阿部泰隆]
警察権は、客観的に公共の安全・秩序に対する障害を生じ、または生ずるおそれがあるときに、その状態の発生に客観的に責任ある者にのみ発動できる。主観的な責任を問うものではないから、その障害の発生について責任のない者に対しても警察権を発動できる。たとえば、延焼のおそれのある建物を取り壊す破壊消防(消防法29条2項)がある。
[阿部泰隆]
警察権は私生活、私住所に侵入してはならず、民事上の法律関係に干渉してはならない。もっぱら社会公共に対する障害の防止に努めるべきである。たとえば、交通事故については、警察官が調べるのは刑事上の側面のみで、民事上の損害賠償には介入しない。このことは逆に、刑事事件にならないと警察が市民を守らないという問題をも惹起(じゃっき)する。
[阿部泰隆]
警察権の発動は、発動を必要とする事態の重大性の程度と均衡を失しないようにしなければならない。いわゆる、雀(すずめ)をねらって大砲を打つな、との原則である。ささいな違反を理由に営業免許などを取り消すとか、デモ隊にピストルを発射するのもそうである。
以上の警察権限界の法理は、もともと広範な行政の自由裁量的権力行使を制限するための理論上の産物であったが、しだいに法律の定める原則となった。それとともに法律はこの原則の例外を定めることも少なくない。たとえば、行政が公害被害者の救済、日照被害のような私人間の紛争の調整に乗り出すのは警察公共の原則の例外である。したがって、警察権の限界の法理は今日文字どおりには妥当していない。
[阿部泰隆]
これは、行政活動により権利利益を侵害される国民の救済一般と異なるところはない。すでに違法に権利を侵害された場合には国家賠償により金銭的填補(てんぽ)を求めるしかない。違法不当な行政処分については行政不服審査、違法な行政処分については取消訴訟により行政処分を取り消してもらうことになる。たとえば、無実の罪で、証拠も足りないのに逮捕されたり、静かにデモしているのに警棒で殴られれば損害賠償を求めうるし、許可申請が違法に不許可になれば損害賠償とともに、取消しを求めることができる。
[阿部泰隆]
『田上穣治著『警察法』新版(1983・有斐閣)』▽『杉村敏正他著『警察法入門』第2版(1981・有斐閣)』▽『宍戸基男他著『新版警察権限法注解』上下(1976、77・立花書房)』▽『広中俊雄著『戦後日本の警察』(岩波新書)』
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
地震や風雨などによる著しい災害のうち、被災地域や被災者に助成や財政援助を特に必要とするもの。激甚災害法(1962年成立)に基づいて政令で指定される。全国規模で災害そのものを指定する「激甚災害指定基準に...
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