日本大百科全書(ニッポニカ) 「十文字遺伝」の意味・わかりやすい解説
十文字遺伝
じゅうもんじいでん
criss-cross inheritance
性染色体上にある遺伝子によって支配される遺伝(伴性遺伝)の際に、母親に現れていた形質が息子に、また父親に現れていた形質が娘に現れ、親の代と子の代とで形質の現れ方が男女逆になるような場合を十文字遺伝という。アメリカのブリッジェスC. B. Bridges(1889―1938)によって名づけられた(1913)。ショウジョウバエのX染色体上の遺伝子の白眼は、赤眼(野生型)に対して潜性であり、白眼の雌に赤眼の雄をかけ合わせると、その子は、雌はすべて赤眼、雄はすべて白眼となり、雌雄で現れ方が逆になる。ニワトリのプリマスロックのさざ波状斑紋(はんもん)と黒色ランシャンの黒色とのかけ合わせでもこの現象がみられる。ヒトのABO血液型は、X染色体上にある遺伝子によって支配されているが、両親の組合せによっては十文字遺伝がみられる。たとえば、O型の女性とA型の男性との間に生まれた子供は女の子がすべてA型、男の子がすべてO型となり、十文字遺伝の現象がみられる。色覚異常の場合にも色覚異常の女性と健常の男性の間に生まれた子供は、女の子は健常、男の子は色覚異常となる。
[黒田行昭]
『山口彦之著『遺伝学』(1982・裳華房)』▽『黒田行昭編著『21世紀への遺伝学1 基礎遺伝学』(1995・裳華房)』