性染色体にある遺伝子によっておこる遺伝現象。性の区別のある生物の雌雄は、主として染色体の組合せによって決まるが、雌雄に共通に存在する性染色体(哺乳(ほにゅう)類やショウジョウバエなどのX染色体や鳥類やカイコなどのZ染色体)上の遺伝子によっておこる遺伝をとくに伴性遺伝といい、どちらか一方の性のみにある染色体(哺乳類やショウジョウバエなどのY染色体や鳥類やカイコなどのW染色体)上の遺伝子によっておこる遺伝を限性遺伝といって区別する。
伴性遺伝の例としては、ショウジョウバエの白眼whiteや棒眼bar、ヒトでは先天性色覚異常や血友病、グルコース6-リン酸脱水素酵素欠乏症(赤血球中に存在する酵素で、この酵素を欠失すると貧血をおこしたり、ある薬品に対して感受性が大きくなる)、多発性末梢(まっしょう)血管拡張症(オスラー症ともいう。末梢血管壁が薄いため、血管がふくれて出血をおこし、顔面、唇、舌などに赤い点を生じ、内臓にも出血をおこす)などがある。
血友病は、血液の中の凝固因子がないため、小さな傷でも出血が止まらないで死亡することもある病気である。血友病のよく知られた家系は、イギリスのビクトリア女王に始まるヨーロッパの各王族の家系である。血友病遺伝子のヘテロの保因者であったビクトリア女王には、息子1人と保因者の娘があった。娘を他国へ嫁がせる王室のしきたりのために、血友病遺伝子は、ドイツ、プロシア、スペインからロシアにおよぶヨーロッパの各王室に広まった。
伴性遺伝子には顕性のものと潜性のものとがあり、顕性の場合には、この遺伝子が存在する性染色体を2本もつ性では、1本もつ性よりも、その形質が強く現れることが多い。潜性の場合には、この遺伝子が存在する性染色体を2本もつ性では、正常遺伝子とのヘテロ型では発現しない。ヒトの色覚異常のうち赤緑色覚異常がX染色体上の潜性遺伝子によっておこり、女性ではこの遺伝子をヘテロにもちながら発現しないため、X染色体を1本しかもたない男性よりも、表現型としての出現頻度が低いのもこのためである。
[黒田行昭]
『駒井卓著『人類の遺伝学』(1966・培風館)』▽『R・H・タマリン著、木村資生監訳、福田一郎他訳『遺伝学』上(1988・培風館)』▽『黒田行昭編著『21世紀への遺伝学1 基礎遺伝学』(1995・裳華房)』
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性染色体の上に座を占める遺伝子の遺伝様式は,常染色体上の遺伝子の遺伝様式と異なり,性型に依存した遺伝子の伝達と分離をおこなう。これを伴性遺伝とよぶ。ヒトの色盲や血友病は伴性遺伝の典型的な例であるが,劣性遺伝子によって支配される色盲を例にしての遺伝様式を示すと図1~3のようになる。図1で明らかなように,色盲の母と正常の父の組合せから生まれた息子はみな色盲になるが,娘は色盲の遺伝子をヘテロ(異型)にもっているので,見かけは正常である。父が色盲であっても母が正常であれば(図2),色盲の子どもは生まれない。見かけは正常であるが,色盲遺伝子をヘテロにもつ女性が正常な男性と結婚すると(図3),生まれてくる娘はすべて正常であるが,その半数は色盲遺伝子をヘテロにもっている。これに対して,生まれてくる息子の半数に色盲が発現してくる。このように色盲は母→息子,父→娘というように入れちがいに伝えられるので,伴性遺伝を十文字遺伝criss-cross inheritanceともいう。
執筆者:阪本 寧男
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(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
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…常染色体上の遺伝子で支配される形質は両親からきた二つの対立遺伝子の支配下にあり,その遺伝は常染色体遺伝とよばれる。これに対し,後述するように,性染色体上の遺伝子で支配される形質は伴性遺伝をする。常染色体や性染色体上の遺伝子とその支配形質はメンデルの法則に従い遺伝する。…
…カイコ以外の家畜や農作物では限性品種は作られていないが,類似するものとしてニワトリの自家性別品種がある。これは,採卵用のニワトリを得るため雛を毛色で雌雄鑑別するもので,伴性遺伝を利用している。すなわち,X染色体上にある毛色の遺伝子を雌雄ともにもたせると,雌(XX)は毛色が淡く雄(XY)は濃くなり,9割以上の精度で鑑別できるが,実用形質が劣るため現在では利用されていない。…
…この受精はほぼランダムにおこるので,生じてくる雌と雄の比率(これを性比という)は1:1になる。 性染色体の上に座位を占める遺伝子の遺伝様式は,常染色体の上にあるそれらとは異なる遺伝様式をとり,これを伴性遺伝という。ヒトの血友病や色盲などの遺伝子はその典型的な例であるが,上に述べたキイロショウジョウバエで,性染色体のX染色体に座位する白眼遺伝子の遺伝様式を示すと図のようになる。…
※「伴性遺伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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