雌雄の性が分化している生物において,性の決定と分化を遺伝的に制御している1対または複数対の染色体を性染色体という。この染色体は1891年ヘンキングH.V.Henkingによってホシカメムシで発見されたが,それが性決定に重要な役割を果たすことを最初に指摘したのは,バッタ類の染色体を研究したマックラングC.E.McClung(1902)である。
性染色体は,それ以外の常染色体autosomeと比較してその染色性や行動がことなり,とくに高等動物では核分裂の間期や前期で異常凝縮などがみられる。性染色体の形態から雌が同型(ホモ)で,雄が異型(ヘテロ)の染色体をもつとき,雄にある異型染色体をY染色体,雌雄双方に存在する同型の染色体をX染色体とよぶ。この型においては成熟分裂(減数分裂)の結果,雌ではXのみ,雄ではXまたはYをもつ2種類の生殖細胞が形成される。この型の性決定様式をXY型とよび,キイロショウジョウバエ,ヒト,アサなどの場合がその典型的な例である。ヒトでは女は44A+XX,男は44A+XY(Aは常染色体を示す)で表される。しかし雄でY染色体が見いだされない場合があり,これをXO型といい,ナキイナゴなどバッタ類にこの型が多い。これとは逆に,雌が異型,雄が同型の場合がある。異型の染色体をZW,同型のそれをZZで表し,この性決定様式をZW型というが,カイコ,ニワトリ,タカイチゴなどがその例である。種子植物の性染色体にはそのほかいろいろな複合型が知られており,一般的にはXnYn型で示され,XとY,あるいはXまたはY染色体が複数になっている場合である。例えばスイバでは雌は2n=14=12A+XXで,雄は2n=15=12A+XY1Y2で,雄株はY染色体を2本もっている。またホップでは雌植物は16A+X1X1X2X2,雄植物は16A+X1Y1X2Y2で示される。
性染色体による雌雄の性決定機構をキイロショウジョウバエ(XY型)を例にとって述べるとつぎのようになる。この種では体細胞において,雌は6A+XX,雄は6A+XYという染色体構成をもつ。成熟分裂の結果生じた卵には3A+Xの1種しかできないが,精子には3A+Xと3A+Yの2種を生じ,3A+Xの精子で受精がおこると雌を生じ,3A+Yの精子が受精にあずかると雄を生ずる。この受精はほぼランダムにおこるので,生じてくる雌と雄の比率(これを性比という)は1:1になる。
性染色体の上に座位を占める遺伝子の遺伝様式は,常染色体の上にあるそれらとは異なる遺伝様式をとり,これを伴性遺伝という。ヒトの血友病や色盲などの遺伝子はその典型的な例であるが,上に述べたキイロショウジョウバエで,性染色体のX染色体に座位する白眼遺伝子の遺伝様式を示すと図のようになる。このように性染色体に座位する伴性遺伝子は,雌・雄という性型に依存した遺伝子の伝達と分離をおこすのが特徴である。
執筆者:阪本 寧男
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雌雄の性の決定に関与する特別の染色体をいい、ほかの常染色体に対する語。雌雄両性に分化した高等生物では、相同の二組の染色体(常染色体)のほかに、性の決定に関与する一対の染色体(性染色体)を含んでいる。性染色体に関与する性決定様式には雄ヘテロ型と雌ヘテロ型の二通りがある。雄ヘテロ型の性決定様式をもつ生物では雌はX染色体を2個もち雄は1個しかもたない。Xの相手に異型のY染色体をもつ場合をXY型、および相手の染色体がないものをXO型とよぶ。哺乳(ほにゅう)動物の多くはXY型で、昆虫類のバッタ類ではXO型が多い。後者の場合に雄の染色体数はつねに奇数である。たとえば、雄ヘテロ型の性決定は、ヒトでは染色体数が46本でXY型、クマネズミでは42本でXY型であり、イナゴでは23本でXO型である。
X染色体には性を決定する遺伝子をもつが、Y染色体の性決定への関与は生物種により異なっている。たとえば、ショウジョウバエの雄はXY染色体をもつが、Yが欠失してXOとなっても雄になる。雌はX染色体を2個もつが、XXYでも完全な雌になる。しかし、ヒトのY染色体には雄性決定に関与する遺伝子が含まれている。したがって、ヒトではYを失いXが1個(XO)になると発育不完全な女性型(ターナー症)となり、またXを1個余分に含みXXY型となると発育不完全な男性(クラインフェルター症)になる。メランドリウムという植物もこのタイプである。哺乳動物では雌性の2個のX染色体のうち、いずれか1個は不活性になっているということを1961年にイギリスのライオンが発見したので、これをライオン現象とよんでいる。不活性化したX染色体は分裂休止期では凝縮して性染色質(またはバーボディ)になって休止核中に存在する。したがって、女性の休止核細胞中にはつねに1個の性染色質をもつが、男性にはない。この原理を応用して、最近では運動選手などの性別の判定に実際に使用されている。
雌ヘテロ型の性決定様式ではXY染色体に対してZWとよぶことがある。性決定様式は雄ヘテロ型と逆で、卵子に二型(XYまたはZW)、精子はつねにX(またはZ)を1個もつ1種類しか生じない。鳥類や爬虫(はちゅう)類および昆虫類では鱗翅(りんし)類(チョウ、ガ類)と毛翅類(トビケラ類)はこの型である。たとへば、ニワトリの雌ヘテロ型の性決定は、染色体数が78本でXY型である。
[吉田俊秀]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…常染色体上の遺伝子で支配される形質は両親からきた二つの対立遺伝子の支配下にあり,その遺伝は常染色体遺伝とよばれる。これに対し,後述するように,性染色体上の遺伝子で支配される形質は伴性遺伝をする。常染色体や性染色体上の遺伝子とその支配形質はメンデルの法則に従い遺伝する。…
…この病気は,メンデルの遺伝の法則にしたがうので,メンデル遺伝病Menderian diseaseとか古典的遺伝病とか呼ばれる。ヒトの染色体は46本あり,うち44本は男女同じで常染色体と呼ばれ,残り2本は,男でXY,女でXXの構成をもち,性染色体と呼ばれる。メンデル遺伝病には次のような遺伝形式をとるものがある。…
…精巣では,小型で運動性をもった精子が形成され,卵巣では大型で栄養に富んだ卵(らん)が形成される。
[性の決定]
一般に性は,精子と卵とが受精したときの性染色体の構成によって決まる。多くの動物では,性染色体として雄はXとYをもち,雌はXを2本もつ。…
…短腕/長腕の比がほぼ1のとき中部動原体染色体,1/2より大きいとき次中部動原体染色体,1/2より小さいとき次端部動原体染色体,短腕が欠けているとき端部動原体染色体という。(2)性染色体と常染色体 性と結びついて染色体に2型がある場合,それを性染色体という。これに対し,雌雄両性の間に違いのみられない相同染色体を常染色体autosomeという。…
※「性染色体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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