●色覚とは
眼のなかで光を感受する網膜には、短・中・長波長の3種類の光を吸収する視物質をもつ
外界から入る色の情報は、この3種類の錐体の相対的な活動性の違いとして感受され、小型の
色覚として感受するすべての色は、これら3種類の錐体が司る3原色を組み合わせることで表現できます。この色覚の特性は、錐体細胞に視物質を発現させる遺伝子の特性で決まっています。
●色覚の遺伝子
光を感受する視物質は、オプシンという膜蛋白質とレチナール(ビタミンA誘導体)が結合した物質です。主に、短(419nm)・中(532nm)・長波長(538nm)の3種類の光を吸収します。
オプシンには、
ロドプシンは第3染色体、青錐体オプシンは第7染色体に配置され、緑・赤錐体オプシンはX染色体に配置されています。X染色体上で、ひとつの赤錐体オプシンの下流に緑錐体オプシンが1コピーないし数コピー配置されています。これらのオプシンのうち、色覚に関与するのは3原色に相当する錐体オプシンです。
私たちが属する哺乳類は、実は多くが2種類の錐体オプシンしかもちません。これは、3ないし4種類の錐体オプシンをもつ
しかし、哺乳類のなかで霊長類に属するサルとヒトだけが、もうひとつのオプシンを再び獲得しています。それがX染色体上に緑・赤のオプシンが並んで配置され、この2つのオプシンの形がほとんど同じで、主に2カ所のアミノ酸が異なることで吸収波長が微妙に変わる理由かもしれません。
この遺伝子に変異が生じると、オプシンの発現が止まったり、異なる波長を吸収する視物質になったりします。これがいわゆる
●色覚異常の分類
色盲は俗語で、一般には色覚異常と同義に使われていますが、医学的には色覚異常を2色型色覚(色盲)と異常3色型色覚(色弱)に分類して区別します。
さらに原色の種類から、赤色の異常を第1、緑色では第2、青色では第3として、たとえば赤色の色覚異常を第1異常とし、第1色弱と第1色盲とに分類します。また、眼の病気で、後天的に錐体細胞や網膜神経節細胞の異常から色覚に影響する時は青色の色覚に変化が出やすく、第3異常を示すことが多いとされます。
●仮性同色表
色の感じ方を表現するのには、
色相は、判別しやすい組み合わせを対角上に配した環状で表現され、
世界的に評価を受けている石原式色覚検査表は検出感度が高く、スクリーニング(ふるい分け)として最もポピュラーです。ほかに、実用的な面から標準色覚検査表、東京医科大学式色覚検査表、大熊式色覚検査表が考案されています。
しかし、仮性同色表は混同軸の存在を発見しやすい反面、分類や程度判定には不向きな方法です。
●色相配列試験
色相環を色相順に並べさせるのが色相配列試験です。
色相環のゆがみの程度を、混同軸方向での誤答頻度として判定できるため、程度判定として用いられます。逆に軽度の異常は見逃してしまうので、スクリーニングには用いられません。
色相環を15の小さい
●色合わせ試験
前述の2つの試験で、混同軸の存在と程度を分類すると、最終的にどの遺伝子の変異がどの程度起こっているかを決定する段階に入ります。これが、現実にどの色を同じと感じるかという色合わせ(混色)試験で、色覚異常つまり色盲色弱の確定診断になります。
色合わせは、3原色によってすべての色を表現できるという原理から、任意の2原色を用いて、その軸上の色合わせ(混色)が可能です。しかし、実際は赤緑色覚異常が多いことから、レーリー均等と呼ばれる赤色と緑色の混色と黄色を、どの程度の混色比で判別可能かを試験します。多くはアノマロスコープを用いて検査します。
オプシンを発現しない色盲では、混色比をいずれにしても黄色に感じます。黄色が一定の明るさで均等になると第2色盲で、均等になる混色比と黄色の明るさとが関係する場合は第1色盲になります。
変異オプシンを発現する色弱では、混色比と黄色の明るさが正常とは異なる位置を示し、位置から第1色弱と第2色弱が判別されます。
●ランタンテスト
交通関係者の信号灯の色光識別能力に関する職業適性判定検査として、ランタンテストがあります。ランタン型の色覚検査器で色光などの色指標を与え、色名で答えさせる試験です。被験者が納得できる点で、説得力のある方法です。
先天性色覚異常のなかで多いものは赤緑色覚異常です。X染色体上に変異があるので
2002年までは学校健診で色覚検査が行われていたため、異常が見つかった人が色覚異常の確定診断のために眼科を訪れていました。しかし、確定診断に必要なアノマロスコープを装備する眼科は多くないため、実際は不十分な診断が行われ、非常に問題でした。
2003年以降、学校健診での色覚検査は廃止され、希望者のみが検査を受けるようになりました。検査で異常が出たら、専門の医療機関で遺伝子相談や職業適性についてのアドバイスを受けることが可能になっています。
松下 賢治
色の見え方の異常で、生まれつきのものは遺伝性です。男性では4~6%、女性では0.4~1.3%にみられるといわれ、軽症のものを含めるとたいへん多いことが知られています。
網膜には、赤、緑、青を認識する3種類の細胞(
ヒトの赤と緑の錐体視物質の遺伝子はとても似ているうえにX染色体の長腕上に並んでいるため、遺伝子組換え時に異なった構造を容易に引き起こします。結果として異なる視感度をもった視物質を作り出します。X染色体が1本の男性においては、この影響をより大きく受けるので、女性に比べて赤と緑の色覚異常を引き起こしやすくなります。
重篤な色覚異常を除くと、症状を訴える前に親が異常に気づいたり、検査によって色覚異常が明らかになったりします。眼科で精密検査をすれば、色覚異常の種類や、程度を診断することができます。すべての面で色覚異常を差別しない流れですが、1色覚のように重篤な色覚異常もあるので注意は必要です。
有効な治療法はありません。赤と緑の色覚異常であれば、あまり心配する必要はありません。現在では、動力車操縦者や航空管制官等、ごく一部の職業につく場合にしか、制限はありません。
堀田 喜裕
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報
色の区別ができないか,困難な状態をいう。一般には色盲color blindnessあるいは色弱color weaknessとして知られるが,最近は色覚異常としてまとめることが多い。先天性と後天性のものがあるが,大部分は先天性のもので,これは色覚の機能不全による。
一色型色覚,二色型色覚および異常三色型色覚に分類される。一色型色覚は1色しか判別できないもので,いわゆる全色盲,全色弱がこれにあたり,二色型色覚は部分色盲ともいわれ,赤緑色盲および青黄色盲が含まれる。異常三色型色覚は,いわゆる色弱のことで,赤緑色弱と青黄色弱とがある。さらに,二色型色覚と異常三色型色覚については,表のように分類される。しかし,赤緑色盲と赤緑色弱との境界は,日常生活のうえでは画然としてはいないので,赤緑色覚異常とまとめて呼ぶことがある。この赤緑色覚異常が先天性色覚異常の大部分を占めており,青黄色覚異常はきわめてまれである。赤緑色覚異常には赤色盲と緑色盲が含まれ,ともに赤緑色覚が不完全であり,赤色盲は赤色とその補色の帯青緑色との区別がつかず,緑色盲は緑色とその補色の帯紫赤色との区別がつかない。しかし,色盲の人が色をどのように感じているかは,ほんとうのところはわかっていない。赤緑色覚の異常のほかは異常なく,視力やそのほかの機能の障害もない。色弱は色盲より程度が軽いといわれているが,両者の区別は明確ではなく,日常生活のうえでは,第1と第2,色盲と色弱の区別ができないとされている。また,日常生活で第三者が色覚異常と気づくことは少ない。まれに,図画を描かせたとき木の葉の色をまちがえたり,靴下や箸(はし)の色を誤って異なった色のものを同じ色のものと思って使っていることで気づくことがある。
一色型色覚である全色盲および全色弱は,赤緑色覚異常とはまったく異なったものである。全色盲は杆体一色型色覚と呼ばれ,錐体の機能のまったく欠如しているものである。したがって,色覚をまったく感じないほか,視力が通常0.1以下で,明るいところでは見えない,いわゆる昼盲があり,非常にまぶしがり,眼振がある。全色弱は,錐体一色型色覚と呼ばれ,色覚はまったく感じないが,視力そのほかの異常はない。しかし,全色弱は非常にまれとされている。
先天性の色覚異常は遺伝によるものが大部分で,全色盲は常染色体劣性遺伝とされており,両親が血族結婚のものに多くみられる。赤緑色覚異常はX染色体劣性遺伝であり,伴性劣性遺伝といわれるように,男と女とでは色覚異常発現の頻度が異なる。日本人では,男子は4~5%,女子はその1/10以下の頻度で赤緑色覚異常の先天性色覚異常者が発現している。これはX染色体劣性遺伝では,X染色体に色覚異常の遺伝子があった場合,男子ではX染色体が1本しかないので,すべて色覚異常となるが,女子ではX染色体が2本あるため,そのうち1本のみに色覚異常の遺伝子があっても発現しないで,保因者となるためである。したがって,女子が色覚異常となるためには,父親が色覚異常で,母親は色覚異常か保因者でなければならないが,男子では父親が正常であっても,母親が色覚異常であればすべてが,保因者であれば2人に1人が色覚異常となる。全色弱および青黄色覚異常については,非常にまれなもので,遺伝形式もわかっていない。
後天性の色覚異常は,網膜や視神経の疾患によって起こり,もとの疾患によってさまざまな色覚異常が起こる。この場合,色覚ばかりでなく視力も障害されるのが通常である。
臨床上は色盲表およびアノマロスコープanomaloscopeによって,赤緑色覚異常の分類が行われるが,この分類は日常生活での不便さとは必ずしも一致しない。そこで,職業の適性検査などでは,ランターン試験や色相配列検査を併せて行う。ランターン試験は赤,緑,黄などの色を答えさせる検査で,色相配列検査は少しずつ異なる色を見せて,似た色の順番に並べさせる検査である。これらの結果は日常生活との関連が少しわかるものと思われる。
色覚異常の最初の記載は1777年とされているが,1800年代に色覚異常の研究がはじめられた動機は,交通事故を起こした鉄道員が色覚異常であったことによるとされている。色覚異常では,現在確実な治療法がないことから,職業適性の問題が指摘されてきた。交通関係の仕事をはじめ,染色や化学関係など,色を多く使う仕事などは色覚異常の人に適さない。色盲であっても画家として大成している人もいるが,色に対する感覚が正常な人と異なっている点を考えると,無理に色を多く使う職業をえらぶ必要はないと思われる。進学や就職にあたって,一部の学校や職場ではまだ色覚異常者を不当に制限するところがあるが,日常生活ではさほどの不自由はないので,正しい医学知識にもとづいて判断することが必要である。
執筆者:久保田 伸枝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
色覚が通常の場合と違い、すべての色、あるいはある色の識別ができないか、困難な状態をいう。人間の網膜の視細胞には錐状体(すいじょうたい)(錐体)と桿状体(かんじょうたい)(桿体)とがあるが、錐体は明るい所で働いて色の情報を感じるが、桿体は暗い所で働いて色を感じない。したがって、ある程度以上の明るさがなければ人間の目は色を感じない。網膜には赤・緑・青に対する感受性を有する3種の錐体受容器があり、色を伝える信号に変えて脳に送り、色の感覚が生じる。色覚異常は大きく先天性の色覚異常と後天性の色覚異常に分けられる。また、色盲ということばは、かつては色覚異常全般をさす一般的な呼び名として用いられたが、学術的には色盲と色弱は明確に分類されている。なお、「色盲(しきもう)」「色弱(しきじゃく)」という表現は、現在はほとんど用いられない。
後天色覚異常は網膜や視神経疾患によっておこるもので、先天性を除いたすべての色覚異常をさし、ヒステリーなどによっておこる心因性のものも含まれる。
先天色覚異常は一色覚(いちしきかく)(旧称は全色盲)、二色覚(にしきかく)(旧称は赤色盲(せきしきもう)、緑色盲(りょくしきもう)、青黄色盲(せいおうしきもう)、青色盲)、異常三色覚(さんしきかく)(旧称は色弱)に大別される。
[太田安雄]
外界の事物を白黒写真のようにただ明暗と濃淡を感じる状態で、桿体(かんたい)一色覚(旧称は桿体一色型色覚)と錐体一色覚(旧称は錐体一色型色覚)がある。桿体一色覚は、視力が0.1以下で、明所でまぶしく、眼球振盪(しんとう)(眼球の律動的運動で、眼振ともいう)があり、錐体機能が欠け、桿体機能だけが存在する。緑(通常では黄)をもっとも明るく感じ、赤は暗く感じる。錐体一色覚は、錐体の機能をもち、一色覚でありながら視力は正常か正常に近いものが多く、まぶしさや眼振がない。
網膜に存在する3錐体のうち、赤錐体(正式名称は長波長感受性錐体またはL-錐体)の欠損したものを1型二色覚(旧称は赤色盲、第1色盲)、緑錐体(中波長感受性錐体またはM-錐体)の欠損したものを2型二色覚(旧称は緑色盲、第2色盲)、青錐体(短波長感受性錐体またはS-錐体)の欠損したものを3型二色覚(旧称は青黄色盲、青色盲、第3色盲)とよんでいる。1型二色覚は赤とその補色の青緑が灰色に見え、2型二色覚は緑とその補色の赤紫が灰色に見える。3型二色覚は赤と緑は感じるが、青と黄を灰色に感じる。
赤・緑・青の3種の色光の混色により、すべての色光と等色できるが、それぞれの錐体に異常あるいは減弱があり、この錐体異常が赤錐体にあれば1型三色覚(旧称は赤色弱、第1色弱)、緑錐体にあれば2型三色覚(旧称は緑色弱、第2色弱)、青錐体にあれば3型三色覚(旧称は青黄色弱、青色弱、第3色弱)を呈する。異常三色覚は、通常と変わらない軽度のものから、二色覚に近いものまで、その範囲は広く存在している。異常三色覚は、異常三色型色覚ともよばれた。
赤緑色覚異常(1型二色覚と2型二色覚)は、日本では男性の20人に一人にみられ、女性の500人に一人にみられる。その遺伝形式は伴性潜性遺伝(X染色体潜性遺伝)で、女性では性染色体が1対あるので、二つの染色体がともにその遺伝質をもたない限り症状として発現せず、男性では1個あるだけなので遺伝質があれば症状は発現する。したがって、女子には出現率が低く、保因子をもつ母親を介して子の男子に遺伝する。
3型二色覚(青黄色覚異常)の遺伝形式は常染色体顕性遺伝であり、その出現率の頻度は1万人ないし5万人に1人といわれている。
[太田安雄]
色覚異常は先天性の場合がほとんどであるから、自分では認識しておらず、自分なりに緑あるいは赤を認知しているので、日常生活にはあまり支障はない。現在、先天性の色覚異常に対する治療法はいずれも確立されていない。後天性のものでは原病の治療が第一で、通常は疾患の治癒とともに色覚も改善する。
後天的な色覚異常は疾患や障害によって二次的におこり、色覚異常の程度は症状の増悪(ぞうあく)や軽快に並行している。この異常は、しばしば種々の症状より先に現れ、疾患が治癒したと考えられる時期にも残っていて、完全に通常の状態に戻るまでにはかなり時間を要する。疾患の際の色覚検査は、予後の判定や診断に役だつので臨床的検査として用いられる。
[太田安雄]
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