ショウジョウバエ(読み)しょうじょうばえ(英語表記)small fruit flies

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ショウジョウバエ」の意味・わかりやすい解説

ショウジョウバエ
しょうじょうばえ / 猩々蠅
small fruit flies
vinegar flies

昆虫綱双翅(そうし)目短角亜目ハエ群の1科Drosophilidaeを構成する昆虫群。体長2~3ミリメートルと小形で、複眼は大きく生時は赤色を呈するものが一般であるが、中形で黒っぽい種類もある。前額(ぜんがく)の幅の雌雄差はない。触角刺毛はよく発達していて、上下に長く羽状に分岐する。はねは透明で無紋のものが多いが、1個または数個の斑紋(はんもん)のあるもの、雌雄で斑紋の異なるもの、はねのほとんどが褐色のものもある。前縁脈は肩横脈の直後と、亜前縁脈との接点との2か所で切れ目がある。径中横脈ははねの4分の1付近にあり、したがって径室は短い。臀室(でんしつ)も短い。亜前縁脈は基部以外は不明瞭(ふめいりょう)となる。

 成虫は一般に過熟の果物、発酵物、樹液、キノコ落葉などに集まり、幼虫も酵母菌を食べて成育する。飼育が簡単で、とくにキイロショウジョウバエは、環境条件がよければ年間に25~30回もの累代飼育ができるほか、染色体数が少なく、巨大な唾液腺(だえきせん)染色体もみられるなどの特徴があるので、遺伝学研究に使用されている。

 ツヤカブトショウジョウバエStegana coleoptrataは、体長、翅長とも約4ミリメートル。胸部背面の前縁部は黄褐色、背線は褐色で幅広く、その外方には黄褐色縦条と濃褐色縦条とが平行し、さらにその外方には濃褐色条が横線前には3条、横線後には2条がやや斜めに走る。小楯板(しょうじゅんばん)は濃褐色で小楯板剛毛は2対。胸部側面は淡褐色で、前胸側板から平均棍(へいきんこん)の基部まで、濃褐色の太い線が走る。はねは褐色で、後縁の近くのみ淡色となる。腹部は黒褐色で光沢がある。北海道、本州分布するが、国外ではヨーロッパ、北アメリカに分布。カノカメノコショウジョウバエProstegana kanoiは、体長約5.5ミリメートル、翅長約5ミリメートル。体は褐色で、胸部は長く、背面には黄褐色の細い背線の外側に、同様の細い縦条が2対走る。小楯板は大きく、周辺部は細く黄褐色で縁どられる。小楯板剛毛は2対。はねは濃褐色で後縁部は透明。その境界線は波形に走り、はねの中央部には3個の透明円紋がほぼ1列に並ぶ。九州と南西諸島に分布する。マダラショウジョウバエAmiota variegataは、体長約4ミリメートル、翅長3.6ミリメートル。体色は暗褐色で黄褐色の斑紋がある。はねは透明で斑紋はない。脚(あし)は黄褐色で褐色の輪紋がある。野外で人の顔面にうるさく付きまとうハエ(メマトイ)の1種。

[伊藤修四郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「ショウジョウバエ」の意味・わかりやすい解説

ショウジョウバエ (猩々蠅)

双翅目ショウジョウバエ科Drosophilidaeに属するハエの総称。赤い眼をした小型のハエで,腐った果実や,家屋内では漬物おけなどに集まっているのが見られる。英名のwine fly,fruit fly,vinegar flyは,発酵した果実や酢に集まるハエの意である。和名も,酒を飲んで舞う能の“猩々”から由来したという。ショウジョウバエは,1910年T.H.モーガンの白目の発見以来,遺伝学の実験に用いられることで有名である。その理由は,(1)飼育が容易であること,(2)1世代の期間が短いこと(25℃で約10日間),(3)唾腺染色体が大きく,特異的な膨れ(パフ)やバンドが種によって特異的な配列をしていることなどがあげられる。世界で2000種以上,日本からは,16属二百数十種の記録がある。これらのうちでもっとも有名なのがキイロショウジョウバエDrosophila melanogasterである。本種は,世界中に分布し,家屋内にも多く,遺伝学の実験材料として広く用いられ,染色体地図が作成されている。

 ショウジョウバエの成虫は,体長1.5~4.0mm,黄褐色の種が多い。卵は長さ約0.5mm,背面の前端近くに1~数本の糸状突起をもっている。卵期は通常1日,幼虫期は3~4日,3齢に達すると,その表皮が硬化し,囲蛹殻(いようかく)となり,その中で蛹化する。さなぎの期間は3~4日。おもに酵母菌を食べるため,発酵した果物によく集まり,そこに産卵する。単に飼育するだけならば,バナナなど腐敗した果物でよいが,実験室での継代飼育には,寒天とイーストを用いる培地がくふうされている。唾腺染色体の観察には,蛹化直前の3齢幼虫がよい。
染色体地図 →唾腺染色体
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百科事典マイペディア 「ショウジョウバエ」の意味・わかりやすい解説

ショウジョウバエ

双翅(そうし)目ショウジョウバエ科の昆虫の総称。体長2〜4mmの微小種ばかりで,体色も黄から黒までいろいろあるが,眼は一般に赤い。室内,ごみため,森林,高山など,生活範囲は広い。一般に発酵した物を好み,酒だる等によく集まるので〈猩々バエ〉の名があるが,キノコを食べるもの,腐肉を食べるもの,葉や茎にもぐるものなどもある。全世界に1000種以上,日本にも100種以上がいる。この類は飼育が簡単で,1世代の期間が短く,狭い所で多く飼育でき,また染色体の数が少ないので遺伝の実験に適し,遺伝学の発展に重要な役を果たしてきた。
→関連項目ハエ(蠅)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ショウジョウバエ」の意味・わかりやすい解説

ショウジョウバエ
Drosophilidae; fruit fly

双翅目ショウジョウバエ科に属する昆虫の総称。一般に微小なハエで,体は太く短く,黄褐色のものが多いが暗褐色のものもある。触角は短く,刺毛がよく発達し,第3節は楕円形である。翅は透明で,斑紋のある種もある。成虫は果物,樹液,発酵物に集り,幼虫はそれらの中で成育するものが多い。キイロショウジョウバエやその近縁種は遺伝研究の材料として飼育され,使用されることが多い。世界に約 3000種,そのうち日本に約 270種を産する。

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栄養・生化学辞典 「ショウジョウバエ」の解説

ショウジョウバエ

 小型のハエで,広く分布し,食品などにも混入しやすい.卵から成虫までの発育が速く,10日と短いなどの利点があり,遺伝学などの研究材料にも広く使われている.

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