改訂新版 世界大百科事典 「南都方」の意味・わかりやすい解説
南都方 (なんとかた)
雅楽用語。雅楽演奏専門家(楽人,伶人,楽師などと称す)の出身系統を示す名称。奈良方ともいい,奈良興福寺所属の楽人を指す。狛(こま)姓を名乗る,上(うえ),西(にし),辻(つじ),芝(しば),奥(おく),東(ひがし),窪(くぼ),久保(くぼ)の8家で構成される(15世紀以前はすべて狛姓を名乗った)。平安時代末期から宮廷での舞楽に左方舞人として出仕するなど宮廷所属楽人(京都方)との接触があった。16世紀末からは天王寺方とともに宮廷の三方楽所(さんぽうがくそ)の一翼を担うにいたった。辻家は笙を,上,芝,奥の3家は笛を,窪家は篳篥(ひちりき)を専業として伝承した。興福寺,春日大社等の行事の舞楽を奏する際には,狛姓の左舞(さまい)に対して,大神(おおが)姓の楽人が右舞(うまい)を担当した。大神姓の楽人は三方楽所の構成員とはならず,薬師寺所属の玉手姓楽人とともにもっぱら奈良の楽団で責務を果たしたが,両姓とも明治期に廃絶した。南都方の伝統は,現行の宮内庁楽部へと受け継がれ,笛や左舞に伝承は息づいている。奈良の楽団は,春日大社の宮司や民間人から成る南都楽所として受け継がれている。
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執筆者:高橋 美都
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報