原子力航空母艦(読み)げんしりょくこうくうぼかん(英語表記)nuclear powered aircraft carrier

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

原子力航空母艦
げんしりょくこうくうぼかん
nuclear powered aircraft carrier

原子力機関により推進される航空母艦。軍艦の一種で原子力空母ともいう。1961年にアメリカで完成したエンタープライズEnterpriseが最初の原子力航空母艦である。2010年時点ではアメリカ海軍に11隻、フランス海軍に1隻の計12隻が存在し、アメリカ海軍ではさらに1隻が建造中、2隻が計画中である。[阿部安雄]

利点

航空母艦を原子力推進としたときの利点は、次のとおりであるとされている。
(1)航続力が飛躍的に増大し、作戦地域進出の機動力ならびに作戦時の攻撃力が著しく向上する。エンタープライズは、最初の装填(そうてん)燃料(炉芯(ろしん))で3年間20万7000海里(1海里=1852メートル)以上、第1回目の燃料交換により4年間約30万海里、第2回目の燃料交換(1971年1月交換完了)では19年間の航走実績を残し、第3回目の燃料交換(1994年9月交換完了)後の現在では2013年まで航走しうるものと期待されている。ついで建造されたニミッツ級Nimitz Classでは、最初の装填燃料で13~15年間80万~100万海里の航走が可能で、30ノットの連続航走の場合は71万海里と伝えられている。
(2)作戦中の洋上給油が不用となり、給油時に機動力が拘束され敵の攻撃を受ける機会が生じやすい危険性や、給油による作戦中断を解消し、補給・支援艦隊を小規模にとどめることが可能となる。
(3)機関部の運転に大気を必要とせず、煙突、煙路、給気ダクトなどが不用となるため、飛行甲板と格納庫の拡大、搭載機数の増加、レーダーなど電子機器の合理的な配置、防御力の強化、核・化学・生物兵器の攻撃に対する遮蔽(しゃへい)などが可能となる。
(4)排煙がないため、飛行甲板上の気流が乱されず、航空機の離着艦が容易となり、航空機や各種アンテナ類の腐食が減少する。
(5)重油タンクが不用のため、航空機搭載用燃料、弾薬、各種補給品の搭載量がはるかに増大し、継戦作戦能力が向上する。[阿部安雄]

問題点

しかし次の問題点が指摘されている。
(1)建造費が高額である。ほぼ同じ大きさで同時期に建造された通常動力推進のコンステレーションConstellationの約2億6500万ドルに対し、エンタープライズは4億5000万ドルを要した。近年はさらに上昇の一途をたどり、ニミッツは最終的に18億8000万ドルとなり、それ以降の艦は20~30億ドル台に達し、ニミッツ級の第10番艦ジョージ・H・W・ブッシュGeorge H. W. Bushは55億ドルになるものとみられる。
(2)船体中央部に十分に防御されかつ放射能遮蔽を行った原子炉を置くため、建造費の増加をもたらすとともに、船体の一部に荷重が集中する。
(3)核燃料交換、修理、整備に特定基地を必要とする。
(4)原子力航空母艦の能力を十分に発揮させるには、直衛・護衛用の艦艇も原子力推進方式とする必要があり、費用増大の大きな原因となる。[阿部安雄]

現況

エンタープライズは、通常動力推進方式のフォレスタル級とほぼ同型同大の艦として計画され、現在の要目は満載排水量8万9600トン、A2W型原子炉8基により蒸気タービン(合計出力28万軸馬力以上)を駆動する4軸艦で、速力33ノット以上、航空機搭載数約78機である。アメリカは引き続き5隻以上の建造を計画していたが、高船価のためキャンセルし、一時期、通常動力推進艦の建造に戻った。しかし1962年のキューバ封鎖作戦におけるエンタープライズの行動実績により、原子力航空母艦の有効性が確認され、高船価を補って余りあるものと評価されたため、ニミッツ級の建造が行われるようになり、現在までにニミッツ(1975就役)、ドワイト・D・アイゼンハワーDwight D. Eisenhower(1977就役)、カール・ビンソンCarl Vinson(1982就役)、セオドア・ルーズベルトTheodore Roosevelt(1986就役)、アブラハム・リンカーンAbraham Lincoln(1989就役)、ジョージ・ワシントンGeorge Washington(1992就役)、ジョン・C・ステニスJohn C. Stennis(1995就役)、ハリー・S・トルーマンHarry S. Truman(1998就役)、ロナルド・レーガンRonald Reagan(2003就役)、ジョージ・H・W・ブッシュ(2009就役)が竣工(しゅんこう)し、ニミッツ級の改型で、より大きなジェラルド・R・フォードGerald R. Ford(CVN-78)が建造中、同級の2隻(CVN-79、CVN-80)が計画中である。
 ニミッツ級は、原子力関係技術の向上により、搭載原子炉をA4W型2基に減じ、これで蒸気タービン4基を駆動し(合計出力26万軸馬力以上)、満載排水量9万1480~10万0200トン、速力30ノット以上、航空機搭載数約78機である。
 原子力航空母艦を中核とした空母機動部隊の建設費と維持費はきわめて高額を要するため、従来アメリカ以外の国は原子力航空母艦を建造しなかったが、フランスが基準排水量3万7085トン(満載排水量4万2500トン)、航空機搭載数35~40機の中型艦シャルル・ド・ゴールCharles de Gaulleを建造しており、2001年5月に就役した。K-15型原子炉2基により蒸気タービン2基を駆動し(合計出力8万3000軸馬力)、速力27ノットである。[阿部安雄]
『堀元美・江畑謙介著『新・現代の軍艦』(1987・原書房) ▽坂本明著『大図解 世界の空母』(1993・グリーンアロー出版社) ▽『世界の空母ハンドブック』(1997・海人社) ▽『世界の艦船第552号 特集 新時代の空母』(1999・海人社) ▽『世界の空母』(1999・スコラ) ▽『世界の艦船 増刊第80集 航空母艦全史』(2008・海人社) ▽『世界の艦船第724号 特集 世界の空母2010』(2010・海人社) ▽Stephen SaundersJane's Fighting Ships 2010-2011(2010, Jane's Information Group)』

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