レーダー(読み)れーだー(英語表記)radar

翻訳|radar

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レーダー」の意味・わかりやすい解説

レーダー
れーだー
radar

電磁波を放射し、目標物体表面から反射される電磁波のエコーを受信して目標物を検知する装置をいう。目標物の存在は、エコーの検出、または目標物内のトランスポンダーレーダー応答機)からの応答信号を受信するまでの時間と方向により明らかになる。レーダーの呼称は、無線波の検出と測距の意味のradio detection and rangingの縮小語としてアメリカ海軍の関係者が第二次世界大戦中に使い始め、戦後に世界的に統一された。

 目標物の情報としては、電磁波の放射と受信間の時間から距離が得られ、アンテナの旋回・回転による電磁波の最大受信角度から方向が、エコーの性質から対象物の形状や属性が得られる。レーダーでは送信機を停止して、目標物それ自体が発する電磁波、または外部からの電磁波の照射による反射波を検出するパッシブ型の動作も行う。

[岩田倫典]

歴史

電磁波を用いて物体を検出しようというアイデアは、1889年にクロアチア生まれのセルビア系アメリカ人テスラが提案した。1904年にはドイツのハルスマイヤーChristian Hulsmeyerが電磁波を用いた船の衝突防止装置の特許を得ている。

 イギリスでは、1922年に無線電信の父マルコーニが短波の普及の一環として、短波を船の衝突防止に役だてるべきだと提案し、アメリカでは海軍研究所のテーラーA. H. TaylorとヤングL. C. Youngがポトマック川を挟んで短波の実験中に、船によって電波が妨害されることを認めた。1931年にテーラーのグループは60メガヘルツ波のFMドップラーレーダーで65キロメートル先の飛行機を探知している。

 ワシントンのカーネギー大学のG・ブライトとチューブMerie Antony Tuve(1901―1982)は、電離層の観測のために0.5ミリ秒のパルスを打ち上げ、13キロメートル離れた受信機で受信した。これがパルスレーダーの始まりである。アメリカではヤングの示唆によって開発が進められ、1936年には28メガヘルツ、1937年には200メガヘルツのパルスレーダーが開発された。

 当時、イギリスではレーダーをラジオロケーターとよんだが、ドイツ空軍機の対策として1934年にパルスレーダーの開発が開始された。物理研究所のワトソン・ワットは1935年には23キロメートル先、1936年には70メートルの大型アンテナにより120キロメートル先(高度450メートル)の飛行機をとらえることに成功した。ついで、1939年にはドイツ空軍機の撃墜に威力を発揮した200メガヘルツ(1.5メートル波)のチェーン・ホーム・ロー(CHL)・レーダーを開発している。

 レーダーが今日の形に完成されたのは、第二次世界大戦開始翌年の1940年にアメリカが、イギリスへの軍事援助の目的でマサチューセッツ工科大学内に放射研究所を設立し、本格的なレーダーの開発を行ったことによる。ここには、イギリスから「電磁波を短くするとよい」という経験と、ストラッピング多空胴マグネトロン(磁電管)の技術が導入された。研究所は、レーダーに不可欠なマイクロ波電子管、目標物があたかも地図上を移動するように表示するPPI(Plane Position Indicator)表示装置のほか、ロラン、デッカなどの電波航法装置、GCA、ILSなどの着陸支援の電波装置を開発した。この研究所は終戦とともに解散した。

 フランスでは船舶の障害探知機としてメートル波、デシメートル波を利用する装置を開発し、1935年には20センチメートル波で船なら10キロメートル先、海岸線なら20キロメートル先を探知している。ドイツではレーダーをウルツブルクとよび、1935年には10センチメートル波を利用して霧の中でも飛行機を探知できるミステリーシステムを開発したが、攻撃向きでないとして開発を中断した。開発再開時にはマグネトロンはなく、他国に遅れたものしかできなかった。

 日本ではレーダーを電波探知機、略して電探とよび、1939年(昭和14)には陸軍がメートル波のFM式レーダーを開発した。1941年には陸軍がメートル波によるパルスレーダーで250キロメートル先の飛行機を探知し、海軍は10センチメートル波の水上警戒用レーダーの実験に成功して、イギリスに匹敵するマグネトロンを開発している。生産が本格化したのは、1942年シンガポールとコレヒドールで米英軍のレーダーを捕獲したことと、ミッドウェー海戦の敗北への反省からで、全艦艇に電探を搭載するなど陸海軍とも実戦配備が進み、第二次世界大戦終戦までに10センチメートル波など30種のレーダーが開発され使用された。

 第二次世界大戦後は、民間用レーダーとしてもっぱら船舶用のものが生産され、航空機用や観察用にも用途を広げている。

[岩田倫典]

種類

レーダーは航空機、ロケット、船舶、空港、港湾、大気状態などの識別、航行支援、監視、観察、測定などに広く用いられる。初期には100メガヘルツ~10ギガヘルツ、つまり波長3メートル~3センチメートルの電磁波が用いられた。しかし、電磁波の周波数が高いほどアンテナの効率は高く、分解能はよくなるが、周波数が大きくなると到達距離が短くなることから、実用的な3ギガヘルツ~10ギガヘルツのレーダーが主流となっている。現在では、とくに近距離の空港監視などに4ミリメートル波のものも使用されている。さらに短い電磁波であるレーザー光も、距離測定、大気汚染観察、ミサイルの追跡などに使用されている。

 レーダーは、一次レーダーと二次レーダーに大別される。一次レーダーは、パルス状または連続した電磁波を目標に照射して、目標物から反射による微弱な信号を検出するものである。このほか、パッシブ型専用のパッシブレーダーや、送信側と受信側を地理的に分離したバイスタティックレーダーがある。

 一次レーダーにはパルスレーダーと連続波(CW)レーダーがあり、前者が広く用いられる。パルスレーダーは、電磁波を方形(ほうけい)パルスで変調したものを目標物に当て、その微弱なエコーを検出するものである。パルスの往復時間で距離を、戻りパルスの大きさと変化で形状・速度を識別・測定して表示する。パルスレーダーで、距離分解能を改善するために送信パルス幅内で周波数変調や位相変調を加え、占有周波数帯域を広げたものをパルス圧縮レーダーとよぶ。

 連続波レーダーは、目標物の移動に伴う電磁波のドップラー効果を検出してその移動速度を観測するのに用いるもので、ドップラーレーダーともいう。この際、ドップラー周波数を可聴周波数とすると、人間や車両の動きを臨場感のある音として聞くことができる。また純粋な正弦波だけでは測距能力がないので、繰り返し周波数変調を加えて信号の情報量を増し、距離も測れるようにしたものを周波数変調連続波レーダー(FM-CWレーダー)とよぶ。周波数変調の周波数を低く、帯域を広げて距離の刻みを小さくすると、パルスレーダーでは不可能な超近距離の測定や、高精度で距離を測る電波高度計に使用できる。

 二次レーダーは、レーダーからの送信信号を目標物にあるトランスポンダーが受け、その信号によりトランスポンダー内の送信機を駆動して別の波長の信号を元のレーダーに送り戻すものである。これによると、目標を識別することが容易で到達距離を伸ばすことができるので、測距装置などに利用されている。

 レーダーの使用目的は、探索用と追跡用に大別できる。探索用は幅の広い電磁波のビームが、追跡用には細いビームが用いられ、情報処理にはコンピュータを連動させている。

[岩田倫典]

機構

レーダーの基本となる性能である方位分解能は、使用電磁波の周波数をアンテナ直径(メートル)で割ったものを70倍したものであり、距離分解能はマイクロ秒で表したパルス幅の150倍である。最大到達距離は、送信電力の4乗根、使用周波数の平方根、アンテナ径の積に比例する。

 パルスレーダーは、送信部、アンテナ、送受切り替え部、受信部、表示部からできている。送信部は、1キロワットから数メガワットの大出力マグネトロンやクライストロンを、小型では半導体(GaAs)発振器を変調し、数マイクロ秒から数十分の1マイクロ秒幅のパルスを毎秒数百から数千回繰り返し発生させる。発生したパルスは、導波管内に設けられた送受切り替え器を駆動しながらアンテナに達する。送受切り替え器はATR(anti-transmit receive tube)とTR(transmit receive tube)のガス放電管で、送信パルスで点灯されることにより、パルスが受信部に入ることを妨げる。

 アンテナはパラボラ型のアンテナが一般的である。たとえば船舶用には、船の動揺を考慮して、電磁ビームが垂直を広く、水平を狭くとれるように放物円筒反射鏡を用いており、旋回・回転などの扇状走査を行う。特殊な用途には機械的な旋回・回転の不要なフェーズドアレイアンテナも用いられる。

 アンテナから放射された電波は目標物に当たり、ふたたびアンテナを経て送信パルスが通ったのと同じ導波管を逆に通る。この際、受信パルスの電圧は小さいので、TR管とATR管は点灯せず、両者の装着されている導波管の形状により送信部に受信パルスが入るのが妨げられる。導波管を通った受信パルスは受信機に入り、局部発振器の信号と混合され、中間周波数の信号となる。ついで、中間周波増幅器、検波器、映像増幅器を経て、ブラウン管の輝度信号を変化させる。ブラウン管での表示方式は多いが、PPI方式では、扇を開くように放射状の電子ビームをアンテナの動きと同期して次々とつくり、その上に信号をのせて地図状の表示を得るものである。このほか、時間軸と信号、方位角と距離というように直交座標で表示するものなどがある。

[岩田倫典]

応用

船舶には目的に応じてミリメートル波(ミリ波)、3センチメートル波、5センチメートル波、10センチメートル波のレーダーが設置され、港湾では港湾レーダーが船舶の運行の安全を図っている。

 空港には、空港監視レーダー(ASR)、精測進入レーダー(PAR)、側方監視レーダー(SLAR)、空港面探知レーダー(ASDE)、二次監視レーダー(SSR、DABS)、航空路監視レーダー(ARSR)や三次元レーダーが相互に関連して設置され、航空機の離着陸の安全を図っている。また、航空機や人工衛星に搭載された小型アンテナの移動を利用して大型アンテナのような性格をもち地形図を作成する合成開口レーダー、山などとの衝突を避ける地形追従レーダーや、水平線を越えて監視するOTHレーダーがある。

 このほか、気象観測レーダーは雲の動きを観測し、大気観測レーダーは地上20~30キロメートルの風の動き、温度、密度の分布を恒常的に監視し、地中探索レーダーは深さには限度があるものの100キロヘルツ~1メガヘルツで資源を、1~100メガヘルツで地層や鉱層を、100メガヘルツ~1ギガヘルツで埋没物を、1ギガヘルツ~数十ギガヘルツで地表・地層の状態を探査するのに用いられる。南極では30メガヘルツで深さ1800メートルの氷を観測している。水中では減衰の少ない数十キロヘルツ以下を用いる。ドップラー効果を利用したドップラーレーダーでは、地表に放射した電波の反射を利用して航空機の対地速度などを求めることができる。また、スピードガン(レーダーガン)は球速や自動車の速度を手軽に計測できる。

 ミリ波レーダーは到達距離は短いがアンテナ技術やMMIC(モノリシック・マイクロ波集積回路)の開発により、小型・軽量化が進み自動車の衝突予防技術として実用化が進んでいる。また、ミリ波カメラともよばれるミリ波イメージングアレイは、検出素子を面状に配列して各素子に入る反射波を合成して映像(写真)をつくるもので、霧、雲、ダストに強く、火炎を通して撮影できることから、車載用、ヘリコプターなどからの地上監視、火山活動、原子力発電所などの監視に適する。また、事故や災害などで埋没されている生存者の心拍を検出するレスキューレーダーも開発されている。

 光波を用いるレーダー(レーザー・レーダー)は、光レーダーの意味でライダーlidar(light radar)ともよばれるが、光が大気中の微粒子や分子による散乱を強く受けることから、火山爆発によるエーロゾル(浮遊微粒子、煙霧質、エアロゾルともいう)、オゾン層、超高層の大気温度の測定に用いられる。

[岩田倫典]

『紀平信著『電波探知機』(1945・広文堂)』『伊藤庸二・高橋修一著『レーダー』(1953・興洋社)』『吉村義弘・藤森允之著『レーダ工学の基礎』(1971・啓学出版)』『関根松夫著『レーダ信号処理技術』(1991・電子情報通信学会、コロナ社発売)』『資源観測解析センター編・刊『合成開口レーダ(SAR)』(1992)』『藤本京平著『入門電波応用』(1993・共立出版)』『吉田孝監修、松村正典ほか著『レーダ技術』改訂版(1996・電子情報通信学会、コロナ社発売)』『田中浩太郎編訳・刊『第2次世界大戦におけるレーダー戦争――ドイツのレーダー技術発達史より』(1997)』『橋本修・川崎繁男著『新しい電波工学』(1998・培風館)』『近藤倫正著『電波情報工学』(1999・共立出版)』『高野忠・佐藤亨・柏本昌美・村田正秋著『宇宙における電波計測と電波航法』(2000・コロナ社)』『三輪進著『電波の基礎と応用』(2000・東京電機大学出版局)』『土木学会編『陸上設置型レーダによる沿岸海洋観測』(2001・丸善)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レーダー」の意味・わかりやすい解説

レーダー
Raeder, Erich

[生]1876.4.24. ハンブルク
[没]1960.11.6. キール
ドイツ海軍元帥。 1930年代にドイツ海軍を近代的艦隊に育て上げ,第2次世界大戦ではヒトラーと意見を異にして辞任。 1935年連合艦隊司令長官,39年上級海軍大将,43年辞職,46年ニュルンベルク裁判で終身刑,55年釈放。

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