原発性硬化性胆管炎

内科学 第10版 「原発性硬化性胆管炎」の解説

原発性硬化性胆管炎(肝・胆道の疾患)

概念・定義・頻度
 原発性硬化性胆管炎(PSC)は肝内・肝外胆管に原因不明の線維性狭窄をきたす進行性の慢性肝内胆汁うっ滞である.PSCは胆汁性肝硬変を経て肝不全に至る予後不良な炎症性疾患である.潰瘍性大腸炎(UC)などの炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)を合併することが多く,病態として大腸粘膜における防御機構の破綻による門脈内への持続的細菌流入や免疫異常,遺伝的異常などが推定されるが解明には至っていない. PSCの発生頻度は人口10万人あたり0.068~1.3人である.PSCにおけるIBDの合併頻度は欧米で70%,わが国では38%とされる.一方,IBD患者におけるPSC合併率は2.4~4%程度,UC患者におけるPSC有病率は欧米で10万人あたり8~14人,わが国では1.3人であり欧米に比較してアジアでは少ない.PSCは小児から高齢者まで患者が存在するが,好発年齢は40歳前後であり,男女比は2:1と男性に多く,7~20%程度に胆管癌を合併する.
分類・病理
 PSCは傷害される胆管の部位により,①胆管造影では確認できない細い肝内胆管に病変を有するsmall duct type(15%),②肝内外の太い胆管に病変が認められるlarge duct type(10%),および,③その両者ともに傷害されるglobal duct type(75%)に分類される.最近,large duct typeのPSCに類似する病変として,自己免疫性膵炎に伴う硬化性胆管病変やIgG4関連疾患に伴う硬化性胆管炎が報告されており,その鑑別に注意を要する. 病理組織学的には胆管周囲の輪状線維化と炎症細胞浸潤を特徴としており,onion-skin fibrosisとよばれる,玉ねぎ状の求心性巣状線維化を呈する(図9-7-1).PSCの疾患概念が報告された当初は肝病理組織所見による確定診断と病期分類(ステージ1〜4)が提唱された(表9-7-1).
臨床症状・診断手順
 全身倦怠感や胆汁うっ滞に伴う瘙痒感などが主症状となる.閉塞性黄疸や胆道感染合併に伴う腹痛,発熱なども認められるが,健診や医療機関受診の際に血液検査や画像診断によって偶発的に診断されることも少なくない.問診・医療面接では,わが国での合併率は低率ではあるもののIBD合併による下痢や腹痛などの症状について聴取する必要がある. 診断基準はMayo クリニックのグループから肝組織像に基づくものが提案された時期もあったが,現在は,①特徴的な胆管造影所見,②血液生化学検査所見(6カ月以上持続する胆道系酵素(alkaline phosphatase:ALP;gamma-glutamyl transferase:γ-GTP)上昇,③UCなどのIBD合併などの臨床像から診断される(表9-7-2).肝生検による組織学的所見は病型分類や病期の評価に有用である.一般的な診断手順としては腹部超音波にて胆管壁肥厚を拾い上げ,MRCP(MR cholangiopancreatography),ERCPなどの画像検査にて特徴的な胆管像(beaded appearance,pruned tree appearance)を精査する(図9-7-2).
鑑別診断
 肝病変を主体とするPSCでは自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH),原発性胆汁性肝硬変primary biliary cirrhosisPBC)を鑑別する.胆道病変は胆道癌,IgG4関連疾患(自己免疫性膵炎における胆管病変,IgG4関連硬化性胆管炎)を臨床所見,胆管画像診断や胆管生検組織像にて鑑別するが容易ではない.
治療・予後
薬物治療,内視鏡治療および肝移植などの外科治療が行われるが,診断からの生存期間は25年,肝移植からは10年とされる.
1)薬物治療:
UDCAが第一選択とされている.初期段階のPSCでは肝機能検査値の改善をもたらす場合が少なくないが,予後改善に寄与するとのエビデンスは乏しい.UDCA高用量療法(体重kgあたり20~30 mg)の有効性も報告されているが確定的ではない. UDCAにより十分な効果が得られない場合,ベザフィブラートの投与が試みられる.単独でも有効な場合もあるが,UDCAとの併用療法が推奨される.自己抗体陽性を示す場合などで副腎皮質ホルモンの併用による改善が報告されており,骨粗鬆症や感染リスクに留意しながらのUDCA併用療法,あるいは一時的な使用は有効性を期待できる可能性がある.ただし,ステロイドの使用時には胆道感染の除外を行う必要がある.
 胆汁うっ滞による瘙痒感に対しては,血清総胆汁酸高値を呈する場合には陰イオン交換樹脂製剤を投与する.脂溶性ビタミン不足(ビタミンA,D,E,K)を内服薬で補う必要がある.
2)胆道ドレナージ:
胆管の閉塞により黄疸が進行する場合にはドレナージステント留置が有効な場合がある.内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)や内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD),およびステント留置の併用による閉塞性黄疸の解除を行うこともあるが,逆行性胆道感染機会の増加を招来するため推奨しない意見もある.経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD)も選択肢の1つであるが肝内胆管の狭窄と拡張が共存するため胆管穿刺が容易ではない場合も多い.
3)外科治療:
肝移植は唯一の根本的治療である. また,狭窄部切除と上流胆管-空腸吻合も選択肢となるが,胆管との吻合が可能であることが条件となる.PSCでは胆道癌や胆石の合併も認められ,適切な外科治療を選択する必要がある.
4)予後:
PSCの診断から死亡または肝移植までの期間は8~17年とされている.病状経過は多彩だが肝不全への進行を止める方法は現在のところ存在しない.予後予測モデルによる予後判定が行われる.新Mayoモデルで計算されたリスクスコアが0の場合は低リスク,0<R<2.0の場合は中リスク,2.0以上の場合は高リスクとして分類される.新Mayoモデルでは各リスクにおける生存予測が示されており,予後の判定はリスクスコアから行うことが可能である.高リスク群は肝移植を検討する必要があり,リスクスコア>44では胆道癌合併が増加するとされる.胆道癌合併例では移植後の成績が不良であるため,肝移植が必要と考えられる症例ではリスクスコアが高値化する前に移植に踏み切る必要がある.PSCは脳死肝移植の適応疾患に含まれ,Child Bで移植を検討,Child Cで移植適応となる.胆道癌非合併例では移植成績は比較的良好(5年生存率85%)だが,移植後PSC再発率は12~37%とされている.[田妻 進]
■文献
LaRusso NF, Wiesner RH, et al: Current concepts. Primary sclerosing cholangitis. N Engl J Med, 310: 899-903, 1984.
Lindor KD, LaRusso NF: Primary sclerosing cholangitis. In: Disease of the Liver, 9th ed (Schiff ER, ed), pp673-684, JB Lippincott, Philadelphia, 2003.
田妻 進:硬化性胆管病変をどう診るか.日本消化器病学会雑誌,103:1119-1126, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「原発性硬化性胆管炎」の解説

原発性硬化性胆管炎
げんぱつせいこうかせいたんかんえん
Primary sclerosing cholangitis
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

どんな病気か

 原発性硬化性胆管炎は、慢性の炎症で胆管が細くなってしまい、胆汁の流れが滞り、肝臓への負担が持続することで最終的に肝硬変(かんこうへん)から肝不全(かんふぜん)になってしまう病気です。国の難病対策として制定されている特定疾患となっています。

 国内の患者数は約1200人と推定されています。男女比は6対4で、20代と60代で発症する方が多く、若年発症では潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)を37%に合併します。また胆管がんが約10%に発症します。

原因は何か

 原因としては免疫反応異常によって起こると考えられていますが、詳細はわかっていません。

症状の現れ方

 初期には大多数が無症状で、血液検査で肝機能異常を指摘されることで気づくことがあります。進行すると、黄疸(おうだん)、かゆみ、疲労感、体重減少、発熱などの症状が出ます。さらに肝臓や脾臓(ひぞう)がはれ、腹水などが出現し、最終的には診断後10~15年で死に至ります。

検査と診断

 血液検査では、アルカリホスファターゼ値やビリルビン値の上昇がないか調べます。MRI画像で胆管の全体像をとらえ、診断の助けとします。さらに直接胆管を造影して、胆管が数珠状に狭窄(きょうさく)していないかを調べます。また、体の外から肝臓に針を刺して組織を採り、肝臓内の胆管に特徴的な変化が出ていないか顕微鏡で調べます。

治療の方法

 内科治療としては、ウルソデオキシコール酸やベザフィブラートの投薬により、アルカリホスファターゼ値などの改善を認めます。内視鏡治療として、胆管の狭窄に対して、狭窄を風船でふくらましたり、胆汁が流れるようにチューブを入れたりすることがあります。しかし患者数が少ないこともあり、これらの治療が生命予後を延長しているかどうかはわかっていません。

 最終的に病気が進んだ場合には、救命手段は肝移植しかありません。肝移植の時期としては、肝不全のために頻回または長期の入院が必要で、余命が半年~1年と推定される時期が望ましいとされています。日本での肝移植後の5年生存率は75%です。

病気に気づいたらどうする

 非常にめずらしい病気ですので、肝臓を専門としている施設での治療をおすすめします。

佐々木 隆

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「原発性硬化性胆管炎」の解説

げんぱつせいこうかせいたんかんえんぴーえすしー【原発性硬化性胆管炎(PSC) Primary Sclerosing Cholangitis】

[どんな病気か]
 肝臓の内と外の胆管に原因不明の慢性の炎症がおこり、胆管のまわりに線維(コラーゲン)がタマネギ様に増え、胆管がじゅずのように狭くなってくる病気です。その結果、胆汁の排泄(はいせつ)が障害され、肝臓の中に胆汁が停滞し、黄疸(おうだん)が現われます。同時に門脈圧の上昇(食道・胃静脈瘤(りゅう)の形成)をともないながら、終末には胆汁うっ滞性肝硬変になります。この病気は比較的若い男性に多く(男女比2対1)、しばしば潰瘍性(かいようせい)大腸炎などの炎症性腸疾患を合併します。
[症状]
 初めは、まったく症状がない場合もありますが、全身のだるさ、疲れやすさや皮膚のかゆみをうったえることが多く、これに引き続き黄疸と不定の腹痛や発熱がおこってきます。体重減少や発熱が最初の症状となることもあります。末期には、黄疸が強まるとともに腹水の症状が現われ、ときに食道や胃の静脈瘤の破裂が原因となって吐血(とけつ)する場合もあります。
 合併症 潰瘍性大腸炎やクローン病を合併する頻度が高く、反復性細菌性胆管炎を併発し、高熱と黄疸の悪化をくり返します。また、胆管がんの合併頻度が高いといわれています。黄疸が進行すると骨粗鬆症(こつそしょうしょう)がおきてきます。
[検査と診断]
 内視鏡的逆行性胆管膵管造影法(ERCP)または経皮的経肝胆管造影法(PTC)で直接肝臓の内と外の胆管を造影し、「じゅず状狭窄(きょうさく)」とか「枯枝状」と呼ばれる所見が認められれば、この病気と診断されます。肝生検で胆管をとり巻いて線維が増えている所見が証明されれば診断はさらに確実になります。
 血液検査では、血清ALP、γ‐GTP、血清GOT(AST)、GPT(ALT)が上昇し、病気がある程度進むと、黄疸を現わす血清ビリルビン値が上昇してきます。腫瘍(しゅよう)マーカーのCEAやCA19‐9が高い場合には胆管がんの危険があるので精密検査が必要です。自己抗体として抗好中球細胞質抗体(p‐ANCA)が高率に陽性を示すといわれています。抗ミトコンドリア抗体や抗M2抗体は陰性です。
[治療]
 有効な内科的治療法は、まだありませんが、胆汁酸の1つで、体内にもあるウルソデオキシコール酸の内服によって、前述の血液生化学検査値の上昇が低下します。免疫抑制療法は効果が望めません。反復性細菌性胆管炎に対してはペニシリン系の抗生物質がもっとも有効です。とくに肝臓の外にある胆管の狭窄が進行して黄疸が高度な場合には、ステントやバルーンを胆管の狭い部分に入れて胆管を拡張させます。末期における延命は、肝移植によってのみ可能です。

げんぱつせいこうかせいたんかんえん【原発性硬化性胆管炎】

 肝内胆管(かんないたんかん)および肝外胆管(かんがいたんかん)が炎症性線維化(えんしょうせいせんいか)をおこし、徐々に胆管内腔(ないくう)が狭くなる、原因不明のまれな慢性疾患です。
 慢性的な胆汁(たんじゅう)うっ滞(たい)を生じ、やがて胆汁(たんじゅう)うっ滞型肝硬変(たいがたかんこうへん)となり、肝不全(かんふぜん)や上部消化管出血をおこします。
 40歳代の比較的若い人に好発します。男女比は2対1と、男性に多くみられます。
 症状は、最初は疲労感や皮膚のかゆみが続き、やがて黄疸(おうだん)、腹痛、発熱が現われます。肝臓(かんぞう)と脾臓(ひぞう)が腫(は)れることが多く、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)を合併することがあります。症状がまったくない場合は無症候性原発性硬化性胆管炎(むしょうこうせいげんぱつせいこうかせいたんかんえん)と呼ばれます。
 血液検査、胆道造影検査(たんどうぞうえいけんさ)、肝生検(かんせいけん)により総合的に診断されます。血液検査では、アルカリホスファターゼ(ALP)、γ(ガンマ)-GTP、LAPなどの胆道系酵素(たんどうけいこうそ)の値が上昇し、ビリルビンも高値を示します。
 胆道造影検査としては内視鏡(ないしきょう)を用いた逆行性膵胆管造影(ぎゃっこうせいすいたんかんぞうえい)、経皮経肝胆管造影(けいひけいかんたんかんぞうえい)が行なわれ、この病気に特有な肝内外の胆管の狭窄(きょうさく)が観察され、診断にもっとも役立ちます。
 治療は、内科的には副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬、免疫抑制薬(めんえきよくせいやく)、胆汁酸製剤(たんじゅうさんせいざい)のウルソデスオキシコール酸が使用されたり、ビタミン剤の補給などの補助的療法が行なわれます。しかし、延命効果は確認されていません。
 胆道感染(たんどうかんせん)を併発して、発熱をともなう黄疸が急激に悪化した場合は、静脈を経由して胆汁(たんじゅう)中によく移行するペニシリン系抗生物質(けいこうせいぶっしつ)が使われます。
 外科的には、胆道ドレナージ(胆道に細い管を入れ、原因物質を体外へ排出する方法)による黄疸の軽減が行なわれます。
 欧米では肝移植(かんいしょく)が行なわれ、救命に大きく寄与しています。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内の原発性硬化性胆管炎の言及

【胆管】より

…胆管炎の際,胆汁の流れが障害されると,重篤な急性閉塞性化膿性胆管炎になりやすい。原発性硬化性胆管炎は原因不明な疾患で,診断,治療ともに難しい。膵臓胆囊【菅田 文夫】。…

※「原発性硬化性胆管炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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