胆管癌

内科学 第10版「胆管癌」の解説

胆管癌(胆管腫瘍(良性・悪性))

(1)胆管癌(cholangiocarcinoma, bile duct cancer)
定義・概念
 胆管上皮由来の癌腫(図9-25-3).進行例が多く,難治性である.黄疸・肝障害を伴うため,早期に胆道ドレナージを要する準緊急疾患でもある.
分類
 胆管は肝内から膵内にまで及ぶため,胆管癌は局在により臨床的特徴,手術術式が大きく異なる.そのため,肝内,肝外の胆管癌に2大別され,後者はさらに左右肝管とその合流部胆管に主座をもつ肝門部胆管癌,およびそれより十二指腸側の胆管に主座をもつ中下部胆管癌に分類される.発生部位としては,肝門部が胆管癌の60〜70%を占め,中下部20〜30%,肝内5〜10%の順となる.
病因
 多くの場合不明である.一部の胆管癌は原発性硬化性胆管炎,膵・胆管合流異常症,肝吸虫,肝内結石症などの胆管慢性炎症を背景として発生する.
疫学
 統計上は胆囊癌と胆管癌を胆道癌として一括して扱われる.わが国における胆道癌の推定死亡者数は17599人(2009年),全悪性腫瘍死亡の5%を占める.推定罹患数は18636人(2005年)である.欧米と比較し東アジアでの発生頻度が高い.
臨床病理
 上皮から発生した胆管癌は胆管壁内に線維化を伴い浸潤し,壁肥厚や腫瘤を形成する.さらに,胆管壁をこえて深部に浸潤し,肝十二指腸間膜内の肝動脈や門脈,または肝臓や膵臓に浸潤する(垂直進展).診断時点で局所進行症例が多く,切除率が低いという特徴がある.一方,胆管に沿っても浸潤し,胆管の壁肥厚/狭窄範囲が拡大する(水平進展).肝門部胆管癌の水平進展は,左右肝管の分断に始まり,肝内胆管に向けて進行する結果,多数の胆管枝が分断されることが特徴である.進行とともにリンパ節転移,肝転移や腹膜播種などの遠隔転移を生じる.
臨床症状
 黄疸および全身の瘙痒感が初発症状として最も多い.それに先だち褐色尿と灰白便を認める.発熱(閉塞性化膿性胆管炎)を主訴にすることはまれである.進行例では食欲不振,体重減少,腹痛などがみられる.
 右あるいは左側の胆管に限局した肝門部胆管癌は対側の胆汁流出は健常なので,無黄疸の胆管癌となる.この場合は患側の肝内胆管拡張が発見の経緯となる.中・下部胆管癌による閉塞性黄疸の場合に胆汁貯留により腫大した胆囊を触知する場合がある(Courvoisier徴候).
検査成績
1)血液生化学検査:
閉塞性黄疸の所見を呈する.初期は,アルカリホスファターゼなどの胆道系酵素の上昇をみるが,黄疸発症の頃には総,直接ビリルビンの値の上昇をみる.胆管閉塞に伴う肝細胞傷害も惹起されAST,ALTの上昇を認める.胆汁酸による脂肪吸収が阻害されるため,ビタミンK欠乏性の凝固異常を認めることがある.CA19-9は60〜70%,CEAは40〜60%に陽性となる.腫瘍マーカーは画像診断と組み合わせて用いる.
2)画像診断:
 a)超音波検査:その簡便さから第一選択の画像検査である.拡張した胆管を下流に追及することで,胆管閉塞の部位や性状を診断する.胆管癌は境界不明瞭な腫瘤または胆管壁肥厚として認識される(図9-25-4).
 b)MRCP:T2強調像で貯留液体を強調して描出する撮影法である.非侵襲的に狭窄部位を含めた胆道全体が描出できることが利点である(図9-25-5).空間・時間分解能に限界があるので直接胆道造影を行う場合は省略が可能である.
 c)造影CT:胆管癌病巣は濃染する腫瘤/壁肥厚として描出される.血管浸潤,肝・膵浸潤,リンパ節転移,遠隔転移も同時に評価可能である.画像データの再構築により任意の角度の断層像と血管像も得られる.進展度診断に必須の検査である(図9-25-6).
 d)直接胆道造影:胆管内に直接チューブを挿入して造影する.鮮明かつ微細な胆管像を得ることができ水平方向の進展度診断に有用である(図9-25-7).
3)病理学的診断:
主病巣をブラシで擦過し胆管内胆汁を採取する方法(ブラッシング細胞診),細径鉗子を用いて組織生検を行う方法(胆管生検),胆汁細胞診などがある.技術的難易度,検体不良,偽陰性の問題があり,治療前に病理的確証を得ることはしばしば困難である.
鑑別診断
 原発性硬化性胆管炎,IgG4関連硬化性胆管炎,慢性膵炎,肝内結石症,胆囊摘出術時の胆管損傷などは胆管の狭窄所見を呈するため鑑別の対象となる.Mirizzi症候群や総胆管結石などは胆管内の陰影欠損を呈し胆管癌と鑑別を要する.膵頭部癌や胆囊癌の胆管直接浸潤,胃癌のリンパ節転移による胆管狭窄などの悪性疾患もときに鑑別する必要がある.
治療
1)胆道ドレナージ:
狭窄上流にチューブを留置しうっ滞した胆汁をドレナージする方法をいう.アプローチ法の差から,内視鏡的胆道ドレナージ,経皮経肝胆道ドレナージ,外科的ドレナージに分類され,現在は前2者を行う.切除不能例では,QOLの向上を目的として,拡張性のある金属ステント(メタリックステント)を胆管内に挿入する(図9-25-8).
 胆道ドレナージは早期に施行する必要がある.全肝の1/4〜1/3領域が機能していれば肝機能は代償されるので,部分的な胆道ドレナージでも減黄は可能である.肝門部胆管癌の術前ドレナージは予定残肝側に行うことが多い.また,胆汁はもともと無菌であるが,胆道ドレナージを行うと腸内細菌が胆汁内に混入し,胆汁培養は陽性となる.
2)外科手術:
最も予後が期待できる治療法である.垂直・水平進展範囲から術式を計画し,安全面とのバランスから手術適応を決定する.肝門部胆管癌に対しては尾状葉を含めた肝葉切除,胆管切除,リンパ節郭清が基本術式であり,必要に応じて血管合併切除・再建を付加する.過去には約10%の手術関連死亡を認めたが,近年は約2〜5%程度に低下した.中下部胆管癌に対しては(幽門輪温存)膵頭十二指腸切除,リンパ節郭清を行う.手術関連死亡は1〜3%である.縮小手術である胆管切除は全身状態不良例や小腫瘍例などに限定して施行される.これらの手術は技術的難易度が高く,また局所進行例に対する手術適応は標準化されていない.
3)化学療法:
高度進行症例や術後再発例が適応となる.塩酸ゲムシタビン(2006年),テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(2007年),シスプラチン(2011年)が保険適応である.塩酸ゲムシタビンの奏効率は約10%,無治療群と比較し約2カ月の延命効果があり,基本薬剤となった.現在の第一選択は塩酸ゲムシタビン+シスプラチンの併用療法である.本法の奏効率は約20%,塩酸ゲムシタビン単独と比較し約4カ月の延命効果がある.胆管癌に対する化学療法の効果はいまだ不十分であり,積極的な切除を考慮する背景にもなっている.
予後
 切除不能例の中央生存期間は無治療の場合約6カ月未満,化学療法を行った場合は約6〜12カ月である.いずれの場合でも3年生存率はほぼ0である.切除例全体の5年生存率は30〜40%であり,リンパ節転移例では10〜20%に低下する.[江畑智希・梛野正人]
■文献
Edge SB, Byrd DR, et al eds: AJCC Cancer Staging Manual, 7th ed, pp 219-233, Springer-Verlag, New York, 2010.Blechacz B, Komuta M, et al: Clinical diagnosis and staging of cholangiocarcinoma. Nat Rev Gastroenterol Hepatol, 8
: 512-522, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)「胆管癌」の解説

胆管癌
たんかんがん
bile duct cancer
cholangiocarcinoma

胆汁を運ぶ管である胆管に発生する悪性腫瘍(しゅよう)。一般に胆管癌は肝臓外に発生する肝外胆管癌をさし、さらに膵外(すいがい)胆管癌と膵内胆管癌に分類される。超音波検査や血液検査による早期発見が望ましいが、自覚症状に乏しいため、発熱や食欲不振などを伴う黄疸(おうだん)が出現することで判明するケースが多い。抗癌剤や放射線照射は効果が薄いため、治療は手術に頼るよりほかないが、発生部位によっては摘除部位が広範囲となり、手術が長時間に及ぶこともある。50~60歳代の男性に好発する。

 近年、印刷会社で働く20歳代から40歳代の若い従業員、とくに印刷見本を繰り返しためし刷りする「校正印刷」担当者に胆管癌が多発していることが明らかになった。印刷機用の揮発性の高いインキ洗浄剤にはジクロロメタンと1,2-ジクロロプロパンという化学物質が含まれ、不十分な換気環境の中で許容濃度を超えてこれらを吸い込むことで発症するのではないかと考えられた。厚生労働省によって職業癌としての因果関係を調べる疫学的調査と、原因物質を特定する動物実験が行われ、このうち高濃度の1,2-ジクロロプロパンに長時間さらされたことが原因である可能性が極めて高いと報告された。また大阪労働局は、10人以上が発症した大阪府の印刷会社に対し、労働環境の不備について強制捜査に乗り出し、同社と同社社長を書類送検する方針を固めた。発症した人たちの労災認定も進み、当該の印刷会社では2013年(平成25)5月末時点で17人が認定された。印刷業における胆管癌に関する労災請求は、上記の大阪府の会社も含めて、2013年4月末時点で68人にのぼっている。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「胆管癌」の解説

胆管癌
たんかんがん
cholangiocarcinoma

胆管由来の細胞から発生する原発性肝臓癌の一つ。通常,肝外胆管癌のことをいい,肝内胆管癌とは区別されるが,肝門部に発生したものが肝内に浸潤すると,両者の区別はむずかしくなる。おもな症状は上腹部膨隆不快感,黄疸,肝臓腫大などで,原発性肝臓癌の約3割近くを占める。 60歳代に最も多く,男性にやや多い。治療には切除を行うが,切除が不可能な症例が多い。

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世界大百科事典内の胆管癌の言及

【肝腫大】より

…肝臓の悪性腫瘍(肝臓癌)では,肝臓内に腫瘍細胞が増加するために,表面に粗大な凹凸のある肝腫大がみられ,しばしば増大傾向を示し腹痛を伴う。肝臓の悪性腫瘍は原発性と転移性に区別されるが,原発性腫瘍の大半は肝細胞癌で,一部胆管癌を含む。転移性肝臓癌は著しい肝腫大を伴うため,肝腫大が初発症状となる症例も少なくない。…

【胆道癌】より

…肝臓外胆道系の癌の総称であり,胆囊癌と肝外胆管癌のことを指す。また,臨床的および病理学的に両者の判別が不可能の場合に,便宜上,胆道癌ということもある。…

※「胆管癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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