ステント(読み)すてんと(英語表記)Gunther Siegmund Stent

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ステント」の意味・わかりやすい解説

ステント(Gunther Siegmund Stent)
すてんと
Gunther Siegmund Stent
(1924―2008)

ドイツ生まれのアメリカの分子生物学者。1948年イリノイ大学で博士号を得、1952年カリフォルニア大学教授。物理化学から生物学に転じ、デルブリュックらのファージグループに加わる。ファージ増殖の過程における、紫外線や放射性リンの崩壊に対するファージの感受性の変化、初期に合成されるタンパク質の問題、T4ファージの吸着の問題など、ファージの分子生物学の基礎的な研究を行った。またDNAデオキシリボ核酸)の複製の方法について、当初の2本鎖が、1本ずつ分かれ、原理的にはどこまでも存在する(半保存的方式)可能性などを論じるなど先見性のある理論家として活躍した。その後、神経生物学に方向を転じるが、やがてもっぱら科学哲学、または科学史家として活躍するようになる。著書に『Molecular Biology of Bacterial Viruses』(1963年。邦訳『バクテリオ・ファージ』)、『The Coming of the Golden Age』(1969年。邦訳『進歩終焉(しゅうえん)』)などがある。

[石館三枝子]

『渡辺格・三宅端・柳澤桂子訳『バクテリオ・ファージ――その分子生物学』(1972・岩波書店)』『渡辺格・生松敬三・柳澤桂子訳『進歩の終焉――来るべき黄金時代』(1972/新編集版・2011・みすず書房)』『小川真理子・川口啓明・長谷川政美訳『「真理」と悟り』(1981・朝日出版社)』『G・S・ステント、R・カレンダー著、長野敬訳『分子遺伝学』原書第2版・上下(1983・岩波書店)』


ステント(医学)
すてんと
stent

狭くなった血管内腔(ないくう)を広げて保持する目的で挿入される管。金属製で網目状のメタリックステントと合成樹脂製のチューブステントがあるが、通常はステンレスをはじめとする金属製のものをさす。呼称はイギリスの歯科医ステントCharles Thomas Stent(1807―1885)に由来する。おもに心臓の冠動脈や大動脈の狭窄(きょうさく)および閉塞(へいそく)病変に対して用いられるほか、頸(けい)動脈や脚の動脈硬化病変にまでその用途は広がり、体内の各臓器部位およびそれぞれの疾患症状に適応する各種ステントが開発されている。これら血管内腔を広げる目的で用いられるものはすべてステントとよばれ、挿入後、自分で広がるタイプの自己拡張型(self-expandable stent)と内方からバルーンで拡張させるバルーン拡張型(balloon-expandable stent)の二つに大別される。いずれも大きく切開せずにカテーテルを挿入して行う治療法であるため、患者への負担は少ない。なかには薬剤を塗って挿入する薬剤溶出型ステントもある。しかし治療にあたっては、臓器と部位および疾患や症状への適合性の判断と適切な手技が要求される。また、まれにステント内に血栓を生じて閉塞を起こし、心臓発作などの再発をみることがあるため注意が必要である。

 最近では、ステントと人工血管(グラフト)を一体化させた「ステントグラフト」を細いカテーテルの中に納めて大動脈瘤(りゅう)の部分に装着して新しい血流路をつくり、大動脈瘤への血流を断つことで動脈瘤破裂の防止を図る「ステントグラフト内挿術」(血管内治療)が普及している。

[編集部]

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