反ワクチン運動(読み)はんわくちんうんどう

知恵蔵 「反ワクチン運動」の解説

反ワクチン運動

予防接種を受けられる状況にもかかわらず、ワクチン接種を遅らせたり拒否したりすること、またはそれを推進する運動のこと。近年、世界的な広がりを見せているといわれる。
WHO(世界保健機関)が2019年1月に発表した「2019年の世界の健康に対する10の脅威」の一つに「ワクチン接種への躊躇(ちゅうちょ)」を挙げていることからも、反ワクチン運動の拡大が推察できる。
予防接種を拒否する理由としては、流布されているほどの効果はなく、深刻な副反応(副作用)を起こす可能性があり、個人としてデメリットが大きいといった意見などがある。
一方、WHOは、ワクチンの接種を拒否することは「ワクチンで予防可能な疾患への取り組みの進歩を逆転させる恐れがある」と指摘している。例として、すべてがワクチンの躊躇によるものではないと前置きしながらも、「はしか(麻疹)は全世界で症例数が30%増加している」ことを挙げ、しかも「はしか撲滅が近い国々では復活が見られる」ことも指摘している。
日本においても、19年に入りはしかの報告数が急増している。日本は、15年3月にWHO西太平洋地域事務局により、はしかの排除状態であることが認定されていた。しかし、19年3月13日までのはしかの報告数は304例に上る。これは18年1年間のはしかの累積報告数を上回っている。なお、304例中、ワクチン接種歴無しが105例(35%)、不明が106例(35%)、1回接種が54例(18%)、2回接種が39例(13%)であった。
WHOによれば、予防接種は最も費用対効果の高い病気を回避する方法の一つであり、現在、年間200~300万人の死亡を防ぎ、世界全体の予防接種率が向上すれば、更に150万人の死亡を回避することができるとしている。
ワクチンは、個人が感染症にかかることを防ぐと共に、集団全体の免疫率を上げることで、感染リスクの高い個人への感染の確率を下げるという意義も持つ。例えば、予防接種を受けても免疫を取得できない人、高齢者など免疫が減弱した人、病気の治療などにより生ウイルスワクチンの接種を受けられない人は、ワクチン接種により感染を予防することができない。そのため集団の中で疾患を発生させないことが、感染リスクの高い人を疾患から守ることになる。
このようなワクチンの社会的意義を正しく伝えていくことが、反ワクチン運動に対抗していくためには重要である。

(星野美穂 フリーライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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