翻訳|side effect
本来は薬物治療において主作用と対比される概念。医薬品の生体に対する最も著しい作用で,治療の目的に利用されるものを主作用とし,治療上不必要なもの,または障害となるような作用を副作用とする考え方が一般的であった。しかし最近では,むしろ患者側に立った見方から,医薬品の使用により生体に生じた有害な反応すべてを含むことばとして用いられることが多い。世界保健機関(WHO)では,各国の副作用症例に関する情報を収集するため,1968年からWHO国際医薬品モニタリング制度を実施しているが,この場合の副作用とは,医薬品による有害かつ意図しない反応で,疾病の予防,診断,治療のため,または身体の機能を正常化するためにヒトに通常用いられる量で発現する作用を指し,誤って過量に用いたり,自殺の目的で使用されて発現した反応は除かれている。
一方,アメリカ食品医薬品庁(FDA)では,薬物療法に伴って生じたすべての好ましくない反応という概念に対して,〈有害な薬物経験〉という用語を新たに作り,その反応が薬物により引き起こされたことが明確であるか否かを問わず,患者にとって好ましくないものならば〈有害な薬物経験〉として分類している。
また日本でも,副作用情報を伝達するため医薬品の添付文書に使用上の注意を記載することが薬事法により義務づけられているが,この使用上の注意に記載すべき副作用とは,医薬品を投与した結果人体に発現する有害反応をいうとされている。
副作用に関するこれらの新しい概念は,いずれも医薬品の安全性を確保するために医師から副作用情報をより広く収集するという目的で形成されたものである。すなわち,重大な副作用の発生を未然に防止するためには副作用情報が医師に正確・迅速に伝達されることが必要であるが,この副作用情報の主たる情報源は臨床の場であり,副作用情報の収集は発現した症状が医薬品による副作用であると医師が認識することから始まるものだからである。
通常の医薬品の使用によって発現するすべての有害な反応を副作用に包括するという最近の考え方は,一方では,因果関係の立証は必ずしも必要とはされていないということを意味する。実際の臨床の場において人体に発現した望ましくない症状の原因が,医薬品に帰するものか否かを判定することは容易なことではない。一般に,医薬品と副作用との因果関係を科学的に立証するためには,個々の症例における判定以外に,集団における患者群と対照群との厳密な比較や動物実験などが必要となり,長い期間が費やされる場合が多い。
以上のような(広義の)副作用は,その性質から次の四つに分類できる。
(1)狭義の副作用 医薬品が通常有するいくつかの薬理作用のうち,治療上求めている作用以外の作用を指す。たとえば,抗菌力を期待して感染症に使用した抗生物質が腎毒性を示したり,鼻水を抑えるために使用した抗ヒスタミン剤でねむけが発現したり,アトロピンで胃痛を抑えると口渇が生じたり,頭痛に使用したアスピリンで胃腸障害が誘発されたりすることなどがある。
(2)過敏反応 患者の素因により常用量以下の投与量であっても発現するもので,いわゆる薬物アレルギーも含まれる。ピラゾロン(ピリン)系薬剤による発疹,ペニシリン系薬剤によるショックなどがよく知られている。
(3)薬物相互作用 これには,医薬品相互ばかりでなく,医薬品と食品などとの場合も含まれる。ジギタリス剤とチアジド系利尿剤,サルファ剤と経口糖尿病用薬,モノアミン酸化酵素阻害剤とチーズなどのチラミン含有食品,催眠剤とアルコール飲料などがある。
(4)主作用の増強 常用量であっても患者の状態により,いわゆる効き過ぎが起きることがある。たとえば,経口糖尿病用薬による低血糖,解熱鎮痛剤による低体温などがある。
また,医薬品による副作用は程度や発現部位なども多様であり,その性質,状態や発現条件に応じて臨床上の意義も異なってくる。たとえば,重篤なものか軽微なものか,可逆的なものか非可逆的なものか,急性か慢性か,予知が可能なものか,発現頻度が高いものかなどは,臨床上重要なポイントである。
一般に,副作用の程度は個々の医薬品,症例によって異なるが,血液障害,肝臓障害,腎臓障害,視聴覚障害を含む神経障害,心臓・血管障害,発癌,先天異常などは重篤例が多い。
日本で社会的に注目された副作用事例としては,ペニシリンによるショック,サリドマイドによる先天異常,アンプル入り風邪薬によるショック,クロロキンによる視覚障害,キノホルムによるスモン,コラルジルによるリン脂質脂肪肝などがある。
→薬害
執筆者:近藤 利明
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…(a)第1相試験 少数の健康人の志願者に対して,主として安全性の確認を目的として行われる。ここでは,常用量と推定される量での副作用の有無やその内容が検討される。(b)第2相試験 第1相試験によって健康人に対する安全性が確認されたものについて,少数の,適症と考えられる患者を対象に行われ,適応症,用法,用量,有効率,作用の発現,副作用などについて検討される。…
…なお,有機合成,分析化学の急速な技術的進歩に伴って,純合成化学療法剤の開発も効率的にすすめられ,さらに今後は遺伝子組換技術の導入による抗生物質の開発も期待されている。
[化学療法剤の種類とその抗菌域]
化学療法剤は病原体にのみ選択的毒性を有するべきものであるが,すべての製剤がその理想を完全に満足しているわけではなく(たとえば副作用),また病原体の種類も多様であって,薬剤によって効果を発揮する範囲は異なる(これを抗菌域という)。さらには薬剤耐性菌の発現によって既存の薬剤が使用価値を減じ,あるいはこれまで非病原菌と考えられていた微生物による新たな感染症(菌交代症,日和見感染)が化学療法の結果として発生するので,新しい抗菌物質の開発は絶えず必要となる。…
※「副作用」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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