はしか(英語表記)measles

翻訳|measles

共同通信ニュース用語解説 「はしか」の解説

はしか

麻疹ウイルスを原因とする感染症。感染力が極めて強く、同じ空間にいるだけで空気感染する。免疫がなければ感染後約10日で発症し、発熱やせきなど風邪に似た症状や発疹が出る。発症の前日から発疹出現後4~5日目までは周囲に感染させる懸念がある。先進国でも千人に1人が死亡するとされ、有効な予防法はワクチンだけ。確実に免疫をつけるには2回の接種が望ましいとされ、現在は幼少期に計2回の定期接種が行われている。

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EBM 正しい治療がわかる本 「はしか」の解説

はしか(麻疹)

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 はしか(麻疹(ましん))ウイルスの感染によっておこる病気です。
 ウイルスに感染してから約10日で症状がでます。まず、40度近い発熱、せき、鼻汁(びじゅう)、目やに、結膜炎(けつまくえん)、赤い発疹(ほっしん)などの症状が現れ、食欲がなくなります。
 特徴的なのが、口内のほお粘膜にみられる、周囲に発赤(ほっせき)を伴う青白い1~2ミリメートルのコプリック斑(はん)という発疹です。
 2~3日でいったん熱は下がりますが、その後再び発熱し、発疹がで始めます。発疹は、額(ひたい)や耳のうしろからで始め、1~2日で胸、顔、背中、腹、手足など全身に広がります。
 やがて、熱が下がり始めると、発疹はでた順序で消えていきます。大部分の患者さんの場合では発熱に対して解熱薬などを使うだけで、約10日間で回復します。
 しかし、ときに中耳炎肺炎などの細菌性感染症や、脳炎を引きおこすことがあります。また、発症から7~10日後に、脳や神経に炎症(急性散在性脳脊髄炎(きゅうせいさんざいせいのうせきずいえん))を引きおこし死亡することがあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 はしかの原因ウイルスであるはしかウイルスは非常に感染力が強く、感染約1週間後から非常に強い感染力を示し、その状態は発疹がで始めて約5日間持続します。
 感染の経路は、感染者の鼻やのどからの分泌(ぶんぴつ)液によって飛沫(ひまつ)感染するか、直接触れることで感染するだけでなく、空気感染のリスクがあります。
 潜伏期間は、最初の症状が現れるまでが約10日間、発疹がでるまでが約14日間です。

●病気の特徴
 2013年の麻疹患者数は229人でした。(1)
 2015年現在、定期接種前の1歳未満と、ワクチン未接種の1歳児で患者数が増加しています。成人では、海外で感染し、帰国してから発症するケース、逆に日本から海外に輸出した症例も報告されています。(2)
 はしかは感染力が強いことから、発疹に伴う発熱が解熱した後3日を経過するまでは、保育所や幼稚園、学校は出席停止となります。ただし、病状により感染力が強いと認められたときは、さらに長期に出席が停止になることがあります。(3) また、診断した医師は保健所に届け出を行い、検体を保健所に送付してウイルスの型を同定することが義務づけられています。
 一度はしかの患者さんがでると、周囲に感染しやすく、また致死率も高いです。しかし、有効なワクチンでコントロール可能な疾患です。このため、世界保健機関(World Health Organization)では、各地域における発症率0および感染の遮断を目標にかかげています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]定期接種のワクチンによって予防する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 麻疹ワクチンは、発症を予防し、脳炎の発症率を低下させます。(4)~(6)
 日本では麻疹風疹(MR)混合生ワクチンとして、1歳時に第1期、小学校入学前の1年間(年長児)に第2期のワクチン接種が定期接種として行われています。このスケジュールは、ほかのワクチン接種の免疫の付きやすさなどを考慮して組まれています。麻疹ワクチンの副反応としての急性脳炎の発症は100万回接種に1人以下と自然感染時に比べ低いとされています。接種1~2週間後に熱がでることがあります。(7)
 また、定期接種を受けそびれてしまった場合は、遅れて接種するスケジュールが公表されています。小児科医と相談して接種しましょう。(8)

■保育所・幼稚園・学校ではしかの患者がでた場合
[治療とケア]ワクチンやガンマグロブリンによって発症を予防する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] はしかは空気感染もするため、集団の場では、1名が発症したら早急に、感染が広がらないように対応する必要があります。ワクチン未接種で、はしかにかかったことがない場合、患者さんとの接触後72時間以内であればワクチンにて発症の阻止、あるいは症状の軽減が期待できます。4日以上6日以内であれば、ガンマグロブリンの投与を検討します。また、1歳未満であっても、生後6カ月をすぎていれば、患者さんとの接触後の発症予防として麻疹ワクチンを接種することができます。ただし、その接種は接種回数には数えず、その後2回のワクチン接種が必要です。(9)~(11)

■はしかにかかった場合
[治療とケア]解熱薬や鎮咳薬(ちんがいやく)を用いる、安静にして水分をとる、部屋を加湿する
[評価]☆☆
[評価のポイント] はしかになったら体をよく休めることは、専門家の意見や経験から支持されています。発熱自体に対する解熱薬の効果は十分実証されていると考えられます。

[治療とケア]肺炎や脳炎などが疑われる症状がみられたら適切な医療機関を受診する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] はしかは多くの場合、自然に治りますが、中耳炎、上気道炎、クループ症候群(特徴的なせきをおもな症状とし、呼吸困難を伴う病気)、肺炎、脳炎などの合併もおこることがあります。呼吸困難や意識障害がみられた場合は医療機関を受診し、治療を受けます。抗菌薬などの治療が必要になることもあります。


よく使われている薬をEBMでチェック

解熱薬
[薬名]アンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン
[評価]☆☆
[評価のポイント] 熱をさげて、病気がおさまるまでの間、体の負担を軽くします。

鎮咳薬
[薬名]メジコン配合シロップ(デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物・クレゾールスルホン酸カリウム
[評価]☆☆
[薬名]アスベリン(チペピジンヒベンズ酸塩
[評価]☆☆
[評価のポイント] 咳をしずめて、病気がおさまるまでの間、体の負担を軽くします。

二次感染に対する抗菌薬
[評価のポイント] 中耳炎、肺炎など合併症があれば適切な抗菌薬を用います。
 具体的な薬品名については、該当する各疾患の項目を参照してください。

発病を防ぐ
[薬名]麻疹ワクチン・ガンマグロブリン(9)~(11)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 72時間以内であればワクチンにて発症の阻止、あるいは症状の軽減が期待できます。4日以上6日以内であればガンマグロブリンの静脈注射により発病を抑制できます。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
定期予防接種を受ける
 日本では「予防接種法」によって、一次予防として満1歳と小学校入学前に、ワクチンを接種することが推奨されています。

保育所や幼稚園、学校などではしかにかかった人がでた場合
 はしかにかかったことがなく、予防接種を受けていない場合は、早急に受診して、ワクチンを接種しましょう。

はしかにかかった場合には、安静と水分補給が中心
 はしかの治療の大部分は、せきに対してせき止めの薬を使うなどの、症状をやわらげ、自宅でゆっくりすることです。通常であれば、この対応でほとんどの患者さんが自らの免疫力でウイルスを克服し、問題なく回復していきます。
 小児科を受診する際は、電話などで発疹が全身にでていることを伝えましょう。他の患者さんにうつらないように、違う待合室を設けている施設が多いので、受付で案内してもらいましょう。

重症化した場合
 万が一、高熱、けいれん、中耳炎や肺炎などをおこした場合には、病院での適切な対応が必要になります。

(1)国立感染症研究所. 発生動向調査年別報告数一覧(全数把握). http://www.nih.go.jp/niid/ja/survei/2085-idwr/ydata/5195-report-ja2013-30.html アクセス日2015年3月27日
(2)日本小児科学会. 国内における最近の麻疹発生動向の特徴とその対応. http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/measles20140317.pdf アクセス日2015年3月23日
(3)文部科学省. 学校において予防すべき感染症の解説. http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1334054.htm アクセス日2015年3月23日
(4)Bellini WJ, Rota JS, Lowe LE, et al. Subacute sclerosing panencephalitis: more cases of this fatal disease are prevented by measles immunization than was previously recognized. J Infect Dis. 2005;192:1686-93.
(5)Uzicanin A, Zimmerman L. Field effectiveness of live attenuated measles-containing vaccines: a review of published literature.J Infect Dis. 2011;204 Suppl 1:S133-48.
(6)De Serres G, Boulianne N, Defay F, et al.Higher risk of measles when the first dose of a 2-dose schedule of measles vaccine is given at 12-14 months versus 15 months of age.Clin Infect Dis. 2012 ;55:394-402.
(7)日本小児科学会. 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールの主な変更点. 2014年10月1日. http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/vaccine_schedule.pdf アクセス日2015年3月23日
(8)日本小児科学会. 日本小児科学会推奨の予防接種キャッチアップスケジュールの主な変更点. 2014年1月12日. http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/catch_up_schedule.pdf アクセス日2015年3月23日
(9)Centers for Disease Control and Prevention Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR)June 14, 2013 / 62(RR04);1-34. http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr6204a1.htm?s_cid=rr6204a1_w アクセス日2015年3月27日
(10)Sheppeard V, Forssman B, Ferson MJ, et al. The effectiveness of prophylaxis for measles contacts in NSW. N S W Public Health Bull. 2009;20:81-85.
(11)Barrabeig I, Rovira A, Rius C, et al. Effectiveness of measles vaccination for control of exposed children. Pediatr Infect Dis J. 2011;30:78-80.

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改訂新版 世界大百科事典 「はしか」の意味・わかりやすい解説

はしか
measles

麻疹ともいう。非常に感染力の強い疾患で,ワクチンが接種されるようになるまでは,だれでも一度はかかると考えられていた。三日ばしかと呼ばれるのは風疹であって,はしかではない。日本では1978年の秋からはしかワクチンの定期接種が始められ,九十数%に免疫が得られているので,患者は減少している。

ほとんどの母親がはしかにかかって抗体を保有しているので,その抗体が胎盤を通って胎児に入るため,生後3~4ヵ月までの乳児ははしかにかかることはまれである。2~4年ごとに流行があるが,ワクチン接種によって患児数は減少傾向にある。春,秋から冬にかけて発症することが多い。ワクチンが開発されるまでは年間200万人がかかり,約2000人が死亡していた。生後6ヵ月から低学年の児童に多いが,年長児にもまれではない。空気,飛沫,接触感染など,さまざまな感染経路で感染する。

はしかウイルスの感染による。このウイルスは径120~250μmの大きさで,RNAの核酸をもつパラミクソウイルスに属する。

感染を受けて発病するまでの潜伏期は10~12日くらいである。全身倦怠感,発熱,咳,くしゃみ,結膜の充血が起こる。3~4日していったん熱が下がり,半日くらいで再び高熱となり,このころから発疹が出現する。発疹は首,耳の後ろから出現し,顔,胸としだいに全身に広がる。眼脂も多くなり,最も重い時期である。発疹は部分的に融合する。発疹が出現してから3~4日目から熱はしだいに下がり,咳,結膜や粘膜の発赤も軽快する。発疹は退色し,細かく落屑(らくせつ)し,黒褐色の色素沈着を残す。この色素沈着は数日から10日ほどで消える。以上のような経過をとるが,初めに発熱して咳や結膜の充血が激しい時期をカタル期,いったん解熱してまもなく再び発熱し,発疹のみられる時期を発疹期,発疹が色素沈着となり平熱となった時期を回復期と呼んでいる。カタル期の終りころにほおの粘膜の臼歯に面する部分に細かい白い斑点がいくつか出現するが,これはコプリック斑Koplik's spotsと呼ばれ,はしかに特異的である。コプリック斑は70~95%の患児にみられ,著しい場合は口腔粘膜全体に広がることもある。発疹の2日ほど前に現れるので,診断上重要な所見とされている。

合併症が起こらなければ対症療法のみであるが,重症の場合や,免疫抑制剤,副腎皮質ホルモンを使用している患者がはしかにかかった場合は,血漿製剤であるγ-グロブリンを静脈内に点滴する。

(1)肺炎 ほとんどが,はしかウイルスによるのではなく,細菌の二次感染によるものである。原因菌に対して適当な抗生物質を使用する。(2)脳炎 発疹が出現してから4~7日の間に起こる。症状としては,頭痛,嘔吐が初発し,痙攣(けいれん),意識障害まで進行することもある。脳炎の合併する頻度ははしか罹患者1000人に対して1人で,脳炎を合併した患者のうちの10~40%は死亡するといわれている。後遺症を残して回復するもの,完全に回復するものなど,治癒の程度もいろいろである。(3)中耳炎 よくみられる合併症で,原因菌はインフルエンザ杆菌,肺炎球菌,連鎖球菌,ブドウ球菌が主である。

はしかワクチン接種。母親からの抗体がなくなってから,あまり遅くならないうちに接種するのが理想的である。現在は,生後12ヵ月~90ヵ月に接種することとされ,ワクチンによる免疫獲得率は95%以上となっている。また風疹との混合ワクチンが就学1年前に追加接種することになっている。γ-グロブリンは,ワクチンがつくられてからは予防にはあまり用いられない。感染後1週間までにγ-グロブリンの十分量を筋肉内注射すると予防が可能であるが,確実な方法ではなく,発病を免れないことも多い。感染前5日くらいに用いると予防効果は大きいが,もし,まったくウイルスの侵入がなければ長期間の免疫は得られない。
執筆者:

いわゆるはしかは,今日ではとても疫病などとは考えられないが,以前は死亡率が高く,大量死をもたらした。おそらく,栄養が悪かった時代には,はしかにたやすく肺炎が併発し,命とりとなったのであろう。古代エジプトのミイラにはしかがあったことが知られ,中世ヨーロッパの都市でもペストや天然痘とともに猖獗(しようけつ)をきわめていた。近代になって,ヨーロッパからの侵入者によってもたらされたはしかは,アメリカやアフリカの原住民に壊滅的な被害を与えた。

 日本では,仏教伝来と前後して中国大陸から朝鮮半島を経由して入ってきた疫病は,天然痘とともにはしかであるともいわれている。この両者は古代にはしばしば混同されていた。例えば737年(天平9)に大流行した疫病の〈赤斑瘡(せきはんそう)〉,また998年(長徳4)の〈赤疱瘡(あかもがさ)〉はその症状からはしかとされる。江戸時代にもはしかはたびたび大流行を繰り返し,天然痘より死亡率が高かったので,〈疱瘡(天然痘)は器量定め,麻疹(はしか)は命定め〉といわれた。一方,はしかは免疫性が強く,流行に周期性があるので,昔の人はそれをひどく不思議に思い,神秘的にさえ考えていた。そこではしかの養生書には〈麻疹年表〉がつけられ,またその養生と禁忌を説いたいわゆる〈はしか絵〉が多数出回った。江戸幕府の5代将軍徳川綱吉は63歳のときはしかにかかって死亡した。また1862年(文久2)の大流行のときには,江戸だけでも26万余人の死者を算したという。
執筆者:

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家庭医学館 「はしか」の解説

はしかましん【はしか(麻疹) Measles】

◎生後7か月以後、注意する
[どんな病気か]
 麻疹ウイルスが感染し、発熱、せき、目の充血、全身の発疹などがおこる病気です。
 子どもならだれでもかかる軽い病気と考えがちですが、体力を消耗する重い病気で、肺炎を併発して生命にかかわることもあります。
●かかりやすい年齢
 生後3か月までの赤ちゃんは、母親からもらった免疫体(めんえきたい)があるので、はしかにはかかりません。その後、免疫体は徐々に減少しますが、生後6か月まではかかる可能性は少なく、かかっても軽症です。生後7か月をすぎると感染しやすい状態になります。
 したがって、幼児期にかかりやすいのですが、予防接種が普及して、はしかになる子どもがすくなくなったため、幼児期にかからずに、おとなになってからはしかになる人もいます。
●流行する季節
 冬から秋にかけて多発し、都会では1年おきに、地方では3~4年おきに流行します。
◎コプリック斑(はん)が特徴
[症状]
 感染した麻疹ウイルスが体内で増殖し、発病するまでに約11日かかります(潜伏期)。
 発病は、発熱(38℃前後)やせきではじまり、かぜかと思っていると、目が充血し、目やにも出て、乳幼児は、下痢(げり)や嘔吐(おうと)がおこることがあります。
 発病後2~3日して口の中をみると、頬(ほお)の内側に白い小水疱(しょうすいほう)が数個~数十個みえます。これをコプリック斑といい、はしかだけにみられる特徴的な症状です。
 以上がはしかの初期症状で、簡単にいうと、かぜのような症状が2~3日続いた後、熱が37℃台に下がりますが、1日ぐらいで再び上昇し始め、皮膚に発疹が現われて、本格的なはしかの症状が始まります。
●発疹期
 発病後4日目ごろから顔や胸に発疹が現われ、腹・腕から太ももへと広がります。
 発疹は桃色で、初めはノミにさされた程度のものが散在しますが、時間がたつにつれて増え、隣り合った発疹がくっつき合い、大小不規則な形になります。
 熱も日ごとに上昇し、発病後6日目ごろには、39℃前後になります。この発疹期は3~5日間で、高熱や発疹のほか、せきや目の充血もひどくなり、病人は衰弱します。ふつうは、発病7日目ごろが病気のピークで、以後は、急速に回復にむかいます。しかし、この時期には、合併症を併発して重症になったり、異常な経過を示す子どももいます。
●回復期
 ふつうの経過をたどると、発病後8日目ごろから熱が下がって元気になり、食欲も出ます。発疹も出た順に色が薄くなり、こまかいふけのように皮膚がむけてきます。あとには褐色のしみが残りますが、これもやがて消えます。
●合併症と異常経過
 はしかの合併症で多いのは肺炎(はいえん)で、ときに生命にかかわることもあります。まれに、麻疹脳炎(ましんのうえん)がおこることもあります。
 発病後8日目をすぎても解熱(げねつ)の傾向がみられなかったり、解熱後に再発熱がみられたりしたときは、合併症が疑われます。
 また、虚弱児がはしかにかかると、はしかそのものが重い経過をたどり、発疹期に意識消失、けいれん、心衰弱(しんすいじゃく)などの中毒症状が現われ、発疹が急に薄れて死亡することもあります。これをはしかの内攻(ないこう)といいますが、まれなことです。
 もう1つ、はしかにかかると結核(けっかく)にかかりやすくなります。ツベルクリン反応が陽転して1年間は、はしかにかからないように注意してください(この項目の予防)。
 はしかが治って数年後に、亜急性硬化性全(あきゅうせいこうかせいぜん)(汎(はん))脳炎(のうえん)がおこることもあります。
●受診する科
 小児科か内科を受診します。ふつう自宅で治療できますが、異常経過の場合は2週間程度の入院が必要です。
[検査と診断]
 経験の豊かな医師であれば、診察だけで診断がつきますが、ふつう、血液を少し採取して白血球(はっけっきゅう)の数や種類を調べます。また、血清(けっせい)中の抗体(こうたい)の有無を調べることもあります。
◎家庭での看病が主
[治療]
 麻疹ウイルスに有効な薬はありません。症状に合わせて治療します。
 家庭では、つぎのような注意を守りましょう。
●家庭看護のポイント
 病室は20℃ぐらいの暖かさにします。やたらに厚着をさせないようにしましょう。
 高熱のときは、気持ちがよくなる程度に頭を冷やしてあげます。食欲がありませんから、栄養の高いものを与え、飲料を十分に飲ませます。
 朝、昼、夕と体温をはかり、症状の変化に気づいたらメモをして、医師に報告しましょう。
●してはいけないこと
 家族が頻繁(ひんぱん)繁に病室に出入りすると細菌やウイルスをもちこみ、抵抗力の衰えている病人に二次感染の肺炎を併発させる危険があります。
 また、はしかにかかったことのない人が病室に入るとうつりますから、病気の子どもが回復期になるまで入室を控えましょう。
 はしかが治って、幼稚園や学校へ行く時期は、医師に相談しましょう(コラム「はしかで幼稚園や学校を休ませる期間」)。
[予防]
 はしかにかかっている人のせきや会話の際、飛び散る麻疹ウイルスが、周囲の人の鼻やのどに付着すると、免疫のない人は感染して発病します。
 はしかは、幼い子ほど合併症をおこして重症になりやすいので、3歳くらいまではかからせたくはないのです。
 それには2つの方法があります。
 1つは、健康なとき生(なま)ワクチンの接種を受けておく予防接種です。
 もう1つは、潜伏期(感染は受けたが、まだ発病していない状態)にある人ならば、緊急予防法があります。
●はしかの緊急予防法
 兄弟姉妹や幼稚園・学校の友だちのなかにはしかにかかった子どもが出て、まだ、はしかにかかっていないとか、はしかの予防接種を受けていない場合は、早く小児科医か内科医に相談しましょう。たとえ、麻疹ウイルスの感染を受けていても、発病させずにすませる方法があります。
 これは、人の血液から、麻疹ウイルスに対する免疫抗体だけをとり出してつくったガンマグロブリン(ヒト免疫グロブリン)を注射するという方法で、うつってから2~3日のうちに注射すれば、完全に発病を防ぐことができますし、5~6日以内であれば発病しても軽くすませることができます。
 このグロブリンの効果は1~2か月しか続きませんから、その後は、はしかの予防接種を受けて、完全に免疫をつくっておくことがたいせつです。
 ただし、ガンマグロブリンの注射と予防接種の間隔は、3か月くらいあけることが必要です。
 ガンマグロブリンの効果が少しでも残っているうちに予防接種を受けると、免疫が完全にはできないのです。

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六訂版 家庭医学大全科 「はしか」の解説

はしか(麻疹)
はしか(ましん)
Measles
(子どもの病気)

どんな病気か

 (せき)、高熱、発疹を特徴とする小児期の急性ウイルス性疾患です。伝染力が強く、体の免疫が強く侵され、重い合併症も多い病気です。最近の小児の急性疾患では重症度の最も高い疾患のひとつです。

原因は何か

 麻疹ウイルスが原因で、麻疹患児から離れたところにいても、うつってしまいます(空気感染)。

症状の現れ方

 潜伏期は10~12日で、発熱、カタル症状(咳、鼻みず、涙がたくさん出る)で発症します。図46に臨床経過を示しますが、病期をカタル期(前駆期)、発疹期、回復期の3期に分けます。

 カタル期は2~3日で、強いウイルス血症(血液中に麻疹ウイルスがたくさんいる)があり、ウイルスはこの時期に全身に広がります。発熱、くしゃみ、鼻汁、咳、流涙(りゅうるい)(うる)んだ目)、目やに、羞明(しゅうめい)(光がまぶしい)などの症状があります。この時期の後半には、(きょう)粘膜の臼歯に面する部位に小さな白斑(白い粘膜疹で、まわりが炎症のため赤くなっている)が現れます。小児科医はこのコプリック斑と呼ばれるものを見て、麻疹の発疹が出る前に麻疹の診断をします。

 発疹期は3~4日で、ウイルスによる皮膚の感染と炎症の時期になります。カタル期の終わりに熱が一時下がり、また上がり始める時に発疹が現れます(図47)。発疹は耳後部から始まり、顔面、胴体、四肢に広がります。この時期は高熱が続き、咳もさらに強くなります。

 熱が約1週間続いたあと、下降し回復期に入ります。発疹は現れた順に退色し、褐色の色素沈着を残します。

 麻疹の異常経過や合併症には重いものが多く、麻疹の内攻(発疹は現れず、病変が体内だけにある)、出血性麻疹、脳炎などがあります。頻度の高い合併症として中耳炎肺炎喉頭炎などがあげられます。

検査と診断

 末梢血の白血球数がかなり少なくなります。麻疹の診断は検査をしなくても難しくありません。麻疹患者との接触が10~12日前にあり、潤んだ目や咳がかなり強いことも参考になります。小児科医はコプリック斑を確認し、発疹が現れる前に診断します。

 区別するものとして、風疹突発性発疹症猩紅熱(しょうこうねつ)薬疹(やくしん)多形滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)川崎病敗血症(はいけつしょう)など、多くの熱性発疹性疾患があります。

治療、予防の方法

 麻疹ウイルスの特効薬はありません。発病したらもちろん小児科医にかからなければなりませんが、安静、水分と栄養補給、解熱薬、鎮咳薬(ちんがいやく)など対症療法が中心になります。細菌感染症を合併すれば抗菌薬が使用されます。ビタミンAを補給する場合もあります。

 麻疹患者に接触しても6日以内であればγ(ガンマ)­グロブリンを注射し、麻疹の予防、軽症化を図ることができます。いちばん重要なことは1歳の誕生日を迎えたらすぐに麻疹ワクチンの接種を受けることです。

 現在、麻疹ワクチンは麻疹・風疹混合(MR)ワクチンとして接種、第1期(1歳児)と第2期(小学校入学前年度の1年間にあたる子)に計2回接種します。これは1回の接種では免疫が長く続かないため、2回目を接種し免疫を強め、成人になってから麻疹や風疹にかからないようにするためです。

 2008年4月1日から5年間の期限付きで、麻疹と風疹の予防接種対象が、第3期(中学1年生相当世代)、第4期(高校3年生相当世代)にも拡大され、接種機会を逸し1回しか接種されていない子も2回接種が可能になります。

 麻疹は伝染力が強く、重い病気で、合併症も重いものが多いため、麻疹ワクチンの接種を受けることが大切であることを強調しておきます。

病気に気づいたらどうする

 すぐに小児科を受診する必要があります。熱は約1週間続きます。とくに消耗の激しい病気ですから、脱水や合併症には注意してください。解熱後3日を経過するまでは登園、登校はできません。

浅野 喜造


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百科事典マイペディア 「はしか」の意味・わかりやすい解説

はしか

麻疹(ましん)とも。麻疹ウイルスによる小児の急性伝染病。まれに成人もかかる。伝染力は強いが,終生免疫となる。10日前後の潜伏期を経て発熱,咳(せき),鼻流,結膜炎が現れ(カタル期),3〜4日めごろ熱がいったん下がってからさらに上昇するとともに顔・躯幹(くかん)・四肢に紅色斑点状の発疹が生ずる。発疹は3〜4日で最高潮となり,解熱とともに漸次消退する。カタル期には頬(きょう)部粘膜のコプリック斑(青白色のやや隆起した斑点)と口内疹とが特有。治療は対症的。肺炎中耳炎などの合併病に注意。母親の血清γ(ガンマ)‐グロブリンが予防に用いられたが,1960年,アメリカの細菌学者エンダーズによりワクチンが開発され,1978年以降生後12ヵ月から90ヵ月の間に定期接種が実施されて患者(児)数は減少している。→対症療法
→関連項目エマージング・ウイルス学校伝染病届出伝染病風疹予防接種ラージー

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知恵蔵 「はしか」の解説

はしか

麻疹ウイルスによる感染症で、発熱と発疹を特徴とする。日本では「はしか」と呼ばれることが多い。感染経路には空気感染、飛沫(ひまつ)感染、接触感染があり、ヒトからヒトへとうつる。感染力は強く、免疫抗体を持っていない人が麻疹ウイルスに接触するとほぼ100%が発病する。
潜伏期間は10~12日。発熱を伴う風邪のような症状に続いて、赤い発疹が現れ、40℃前後の高熱になるが数日で熱は下がり、発疹も退色する。発症後には特別の治療法はなく、死亡や後遺障害のリスクのある脳炎や肺炎などの合併症を防ぐためには、予防接種によって免疫抗体を獲得する必要がある。
麻疹の致死率は、我が国を含む先進諸国では0.1~0.2%だが、発展途上国の中には乳幼児で20%を超えている国もあり、世界全体ではなお年間十数万人の死亡者が報告されている。事態を改善するため世界保健機関(WHO:World Health Organization)は世界麻疹排除計画に沿って生ワクチンの接種率向上に取り組んでいる。2005年、同機関の日本を含む西太平洋地域委員会(WPR:Western Pacific Region)はその一環として「2012年までに地域から麻疹を排除する」という目標を発表。この計画を受けて日本では、乳幼児期に2回の定期接種を実施することになり、患者数も一部の小児科からの定点報告ではなく全数報告で把握するようになった。結果、08年に年間1万1000例に上った症例が、09年には740例へと激減。その後も年々減り続けている。また、10年6月から国内の流行株による麻疹の伝搬がないことなどをもって、13年9月に厚生労働省は、我が国が麻疹排除状態であるとの報告をまとめWPRに認定を求めることを決めた。

(石川れい子  ライター / 2013年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「はしか」の意味・わかりやすい解説

はしか

麻疹

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

栄養・生化学辞典 「はしか」の解説

はしか

 →麻疹

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「はしか」の意味・わかりやすい解説

はしか

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