予防接種(読み)ヨボウセッシュ(その他表記)prophylactic inoculation

デジタル大辞泉 「予防接種」の意味・読み・例文・類語

よぼう‐せっしゅ〔ヨバウ‐〕【予防接種】

感染症の発生・流行の予防のため、毒性を弱めた病原体などを抗原として体内に注入し、長期間の免疫をつくること。全額公費負担の定期接種と、希望者が自己負担で受ける任意接種がある。

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精選版 日本国語大辞典 「予防接種」の意味・読み・例文・類語

よぼう‐せっしゅヨバウ‥【予防接種】

  1. 〘 名詞 〙 伝染病の発生や流行を予防するために、ワクチンを接種すること。人工的に免疫状態をつくり、その伝染病に対して抵抗性を得させる。予防注射
    1. [初出の実例]「王越村の住民に対しては予防接種(ヨバウセッシュ)を行ふ筈なり」(出典:風俗画報‐三二〇号(1905)衛生門)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「予防接種」の意味・わかりやすい解説

予防接種
よぼうせっしゅ
prophylactic inoculation
preventive vaccination

感染症の予防方法の一種。あらかじめその病原体のすべてまたは一部(ワクチン)を経皮的・経口的に体内に入れる(接種する)ことで免疫(抵抗力)をつけておくこと。その後、実際にその病原体と触れた場合に、感染したり、重症化したりしないよう、予防することをさす。ただし、予防接種の効果は完全ではない。

 ワクチンはその性質により、生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイド(不活化に含めることもあり)、そして新型コロナワクチンにあるような、メッセンジャーRNAウイルスベクターワクチンに分けられる。生ワクチンとは、病原性を弱めたウイルスや細菌を用いたもの、不活化ワクチンとは、ウイルスや細菌を集めて精製したあと加熱や薬剤処理によって病原体の活力を失わせたもの、トキソイドとは、病原体が増殖する過程で産生される毒素(トキシン)を処理し無毒化したものである。接種後に獲得される免疫力は、生ワクチンではほかと比較し強固である。日本で使われているのは、
(1)生ワクチン:ロタウイルスBCG、麻疹(ましん)・風疹(混合含む)、水痘、おたふくかぜ、黄熱
(2)不活化ワクチン(トキソイド含む):B型肝炎、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib(ヒブ))、13価肺炎球菌結合型、百日咳(ひゃくにちぜき)ジフテリア破傷風不活化ポリオ(混合)、百日咳ジフテリア破傷風(混合)、ジフテリア破傷風(混合)、破傷風、不活化ポリオ、日本脳炎ヒトパピローマウイルス(HPV)、インフルエンザ、23価多糖体肺炎球菌、A型肝炎、狂犬病、髄膜炎菌帯状疱疹(ほうしん)
などがあげられる。

 また、予防接種法による定期接種(予防接種を受けるよう努めなければいけないもの)として、小児期におけるロタウイルス、BCG、麻疹・風疹、水痘、B型肝炎、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型、13価肺炎球菌結合型、百日咳ジフテリア破傷風不活化ポリオ(混合)、ジフテリア破傷風(混合)、日本脳炎、ヒトパピローマウイルス、中年男性における風疹、高齢者におけるインフルエンザ、23価多糖体肺炎球菌があげられる。臨時接種(2022年(令和4)6月現在、新型コロナワクチンのみ)の意義は、おおむね定期接種に準じる。

 予防接種の歴史では、18世紀のエドワード・ジェンナーによる種痘(天然痘に対するワクチン)が有名である。その後上述のように数々のワクチンが普及した。なかでも、日本脳炎ワクチン(1954)や水痘ワクチン(1987)は、世界に先がけて日本で開発されたワクチンである。一時期、欧米と比較して国内導入が遅れたもの(インフルエンザ菌b型、不活化ポリオ、肺炎球菌結合型など)が目だったが、近年ではその差は縮まってきている。

[新庄正宜 2022年7月21日]

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改訂新版 世界大百科事典 「予防接種」の意味・わかりやすい解説

予防接種 (よぼうせっしゅ)
preventive inoculation

感染源対策や感染経路対策と並んで伝染病の流行を予防する方法の一つで,人または家畜に免疫を獲得させるためにワクチンなどをあらかじめ接種することをいう。ワクチンには,弱毒化した病原体を生きたまま(これを生ワクチンという),あるいは病原体を不活化したり(これを死菌ワクチンまたは不活化ワクチンという),病原体の産生した毒素を不活化したもの(これをトキソイドという)があり,これを注射,経口的内服などの方法で接種し,人工的に免疫を与える。獲得した免疫の接続性の点では生ワクチンが長期間にわたり,すぐれているが,副作用が強かったり,接種された人の体内で,感染力の強い元の病原菌に変性することがある。不活化ワクチンは,副作用が少ないが効果が弱い。そのために免疫効果を上げるために,かなり濃度の高いものを接種するので,アレルゲンとして働いて発熱やショックを起こすこともある。しかし,そのような副作用はまれであり,伝染病予防には効果的である。
執筆者:

日本で最初の強制予防接種は,1876年の天然痘予防規則に基づく種痘の強制にさかのぼることができる。その後,1909年に種痘法が制定され,種痘の徹底が図られた。しかし,種痘以外の予防接種の法制化は,48年の予防接種法の制定をまたねばならなかった。この法律は,その後十数回の改正をへて,今日,おおよそ次のような内容をもっている。

 予防接種の対象疾病は,(1)ジフテリア,(2)百日せき,(3)急性灰白髄炎,(4)麻しん,(5)風しん,(6)日本脳炎,(7)破傷風,(8)その発生およびまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められた疾病として政令で定めるその他の疾病である(2条)。1994年の法改正により,1980年にWHO(世界保健機関)により根絶宣言が行われた痘そう,他の治療方法等が存在するコレラおよびワイル病,流行するウイルスの型がとらえがたく,ワクチンの構成成分の決定が困難なインフルエンザ等が対象疾病から外され,症状が重篤でありながら有効な治療方法が存在しないため,予防が特に重要な破傷風が新たに加えられた。予防接種の実施は,定期の予防接種(3条)と臨時の予防接種(6条)とに分けられる。前者は,現在のところ前掲(1)~(7)の疾病について行われている。ただし,(6)については,発生状況等を勘案し,指定された区域において行われないことがある。後者は,前掲(1)~(8)の疾病について,まん延予防上緊急の必要があると認められるときに,その対象者および期日または期間を指定して臨時に行われる予防接種である。

 予防接種の実施者は,市町村長(定期),都道府県知事(臨時)が原則である。これらの実施者は,予防接種を受けようとする者について,厚生省令で定める方法(問診,検温および診察の方法)により健康状態を調べ,当該予防接種を受けることが適当でない者に該当すると認めるときは,予防接種を行ってはならない(7条)。予防接種による健康被害を防止するための規定であるが,今後,より安全な予防接種を実施するためには,本人の個人的な体質等をよく理解したかかりつけ医による個別接種が推進されなければならない。予防接種の対象者は,当該接種を受けるように努めなければならない(8条)。94年の法改正により,一部罰則を伴う義務規定から努力規定に緩和された。

 1976年の法改正により創設された予防接種健康被害者救済制度は,94年の法改正により拡充された(11条以下)。予防接種を受けたことによって疾病,障害,死亡等の健康被害が生じた場合,医療費および医療手当,障害児養育年金,障害年金,死亡一時金,葬祭料等の給付が行われる。日常生活において介護を必要とする在宅の障害年金受給者に対しては介護加算がなされる。また,これらの者の医療,介護に関し,国は,その家庭からの相談に応ずる事業その他の保健福祉事業の推進を図るものとされている(18条)。なお,結核予防法にも予防接種の規定があり,定期および定期外の予防接種が行われている。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「予防接種」の意味・わかりやすい解説

予防接種
よぼうせっしゅ
vaccination

感染症の発生を予防し,流行を抑える目的で,不活化もしくは弱毒化した細菌類ウイルス毒素などをワクチン(免疫原)として接種し,免疫力を得ようとするもの(→免疫免疫療法)。日本では,予防接種法(1948施行)および結核予防法(1951施行,2007廃止)に基づいて小児を対象の中心に広く行なわれてきたが,感染症の流行形態の変化,医療技術の進歩,ワクチンの改良・開発などに伴い,法改正が行なわれてきた。予防接種の種類には,国や自治体が強く勧める定期接種(勧奨接種)と,保護者の判断にまかせる任意接種がある。2014年現在,百日咳ジフテリア破傷風急性灰白髄炎(ポリオ),麻疹(はしか),風疹日本脳炎結核BCGの接種),ヒブ感染症,小児の肺炎球菌感染症およびヒトパピローマウイルス感染症,政令により必要と認められた疾患が定期接種の対象であり,一部高齢者にインフルエンザの定期接種も行なわれている。また任意接種としてインフルエンザ,流行性耳下腺炎(おたふくかぜ),水痘(水疱瘡),B型肝炎(→B型慢性肝炎),さらに海外渡航の際に行なわれるコレラ黄熱などの予防接種がある。接種時期や方法など,技術的な部分は法律ではなく,政令,省令レベルで改訂される。接種の方法には集団接種と個別接種があるが,どの予防接種をどの方法で行なうかは自治体によって異なる。接種に伴う事故(法律にいう健康被害)の救済,補償については,法律により医療費および医療手当,障害児養育年金,障害年金,死亡一時金,葬祭料などが給付される。なお,定期接種の接種期間は予防接種施行令により,接種の禁忌事項は予防接種法実施規則(4条)により定められている。(→防疫

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百科事典マイペディア 「予防接種」の意味・わかりやすい解説

予防接種【よぼうせっしゅ】

伝染病の発生とまん延,発病後の重症化などを予防するために,ワクチントキソイドなどを用いて人工的に免疫を与えること。予防接種法ではジフテリア百日咳(ぜき),急性灰白髄炎(ポリオ),麻疹(はしか),風疹が定期接種の対象に,天然痘コレラ日本脳炎ワイル病が流行時の臨時接種の対象に規定されている。以上9種のほか政令で定める疾病についても予防接種を行う。ほかに結核予防法で結核に対してBCGの接種が行われる。1994年に予防接種法の改訂が行われ,従来の〈予防接種を受けなければならない〉から〈受けるように努めなければならない〉に変更され,国民の自発的保健活動が期待される関係に移行した。
→関連項目国民医療費予防医学

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妊娠・子育て用語辞典 「予防接種」の解説

よぼうせっしゅ(わくちん)【予防接種(ワクチン)】

感染症の原因となる病原体の毒力を弱めたり、薬物で殺したり(不活化)、病原体や毒素の一部を精製するなどして予防接種液(ワクチン)をつくり、それを体に接種して、その病気に対する抵抗力(免疫)をつくることを予防接種といいます。 予防接種で使うワクチンには、生ワクチン、不活化ワクチンの2種類があります。

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報

知恵蔵 「予防接種」の解説

予防接種

感染症の予防のため、死滅させた、あるいは弱毒化した微生物を接種すること。予防接種に使われる製剤をワクチンという。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

栄養・生化学辞典 「予防接種」の解説

予防接種

 疾病を予防するためにワクチンを摂取すること.

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世界大百科事典(旧版)内の予防接種の言及

【育児】より

…先天的な外表あるいは内臓奇形は,乳幼児健康診査が新生児期,乳幼児期にきめ細かく行われるようになって早期に発見されるようになった。各種スクリーニング試験や予防接種は勧められるままに必ず実施し,乳幼児健診,保健指導の機会を逃さないことが親とし,養育者としての義務であろうし,また育児に失敗しないための大切な条件といえよう。
[しつけ]
 しつけは,日常生活に必要な事柄を習慣づけること,礼儀作法を身につけさせること,社会生活に必要な規律を身につけさせることであるが,その内容は,時代により,文化により,その社会のもつ児童観により,家庭によって変化するものである。…

【ワクチン】より

…病原性をもつ細菌,ウイルスなどを適当な方法で殺したもの,あるいは病原性をなくした生菌,生ウイルスなどで,ヒトその他の動物の感染性疾患の予防接種に用いられるものをいう。 ジフテリア,破傷風などの細菌は毒素を分泌し,この毒素が種々の臓器に障害を与えるが,これらの毒素を精製し,ホルマリンで処置すると毒素タンパク質は変性して無毒化する。…

※「予防接種」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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