改訂新版 世界大百科事典 「吉備由利」の意味・わかりやすい解説
吉備由利 (きびのゆり)
生没年:?-774(宝亀5)
奈良時代後期の後宮の女官。由利の官歴は《続日本紀》に比較的に詳しく,764年(天平宝字8)9月の恵美押勝の乱鎮圧の後に従五位下から正五位上に昇り,《正倉院文書》では当時吉備命婦として初見する。その後勲四等に叙せられ,768年(神護景雲2)10月に従三位の典蔵より,のち後宮蔵司の長官の尚蔵に昇進し,774年1月2日に没した。称徳天皇の信任の最も厚い女官で,天皇が晩年病に倒れて平城宮で療養中の間,由利1人が近侍し,諸事を奉宣した。吉備真備との関係は明白でないが,姉妹かそれに近い親族であったと認められる。天平神護2年(766)10月8日の奥書をもつ吉備由利願経は,もと西大寺四王堂に奉納された一切経5282巻の遺巻で,西大寺,前田育徳会などに伝わり,かつての栄光を伝えている。
執筆者:堀池 春峰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報