日本大百科全書(ニッポニカ) 「咳どめ」の意味・わかりやすい解説
咳どめ
せきどめ
鎮咳剤(ちんがいざい)ともいう。咳は、気道粘膜の分泌物や異物を除去するための生体の防御反射で、延髄の咳中枢を刺激することによっておこる。鎮咳剤は一般的には痰(たん)をとる薬(去痰剤)といっしょにして、鎮咳去痰剤とよばれることが多い。鎮咳剤の作用機序(メカニズム)には、延髄の咳中枢に抑制的に働いて鎮静するもの(リン酸コデインなど)、咳の反射経路を抑制して咳の発作を抑えるもの(ノスカピン)、肺の伸展受容器を特異的に麻酔するもの(ベンプロペリン)、気管支平滑筋を弛緩(しかん)して咳の発作を抑えるもの(交感神経興奮剤、塩酸エフェドリンなど)があげられる。作用機序から、咳中枢に直接作用するものを中枢性鎮咳剤、その他を末梢(まっしょう)性鎮咳剤という。それぞれの鎮咳剤の作用機序はかならずしも1種でなく、このほか抗ヒスタミン作用、パパベリン様作用、気道分泌促進作用などがあげられる。
[幸保文治]
中枢性鎮咳剤
(1)麻薬性鎮咳剤 代表的鎮咳剤にアヘンアルカロイドのコデインがある。コデインの作用機序は咳中枢を抑制することによる。習慣性、耽溺(たんでき)性はモルヒネより少ないが、麻薬に指定されている。通常、リン酸コデインとして用いられる。ほかに、リン酸ジヒドロコデイン、オキシメテバノールがある。(2)非麻薬性鎮咳剤 咳中枢の抑制のほか、肺伸展受容器の麻酔作用、気管支筋弛緩作用を有する。デキストロメトルファン(「メジコン」)、リン酸ジメモルファン、クエン酸カルベタペンタン、ヒベンス酸チペピジン、オキセラジン、クエン酸イソアミニル、塩酸エプラジノン、塩酸クロブチノール、塩酸クロベラスチン、グアイフェネシン、リン酸ベンプロペリン(「フラベリック」)などがある。
[幸保文治]
末梢性鎮咳剤
(1)ノスカピン アヘンアルカロイドの一種で、鎮咳作用はコデインより弱いが、習慣性はない。咳中枢の反射経路の抑制と肺伸展受容器に対する作用をもち、気管支拡張作用と分泌増大作用を有する。非麻薬性鎮咳剤として繁用されている。(2)交感神経興奮剤(アドレナリン作動薬) 麻黄(まおう)の有効成分であるエフェドリンは気管支拡張作用を有し、気管支喘息(ぜんそく)に用いられる。合成品である塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリンも同様の目的で繁用されている。塩酸イソプロテレノール(イソプレナリン)は吸入で気管支喘息に用いられる。同じくアドレナリンのβ(ベータ)受容体刺激薬で気管支拡張作用を有するものに、硫酸オルシプレナリン(「アロテック」)、硫酸テルブタリン、硫酸ヘキソプレナリン、硫酸サルブタモール、塩酸ピルブテロール、塩酸クロルプレナリン、塩酸ツロブテロール、塩酸トリメトキノール、塩酸プロカテロールなどがある。(3)その他 クロモグリク酸ナトリウムが、気管支喘息、アレルギー性鼻炎に粉末または吸入液が吸入剤として繁用されている。この作用機序は、抗原抗体反応によっておこるヒスタミンなど化学伝達物質の遊離を阻害することによる。同じ作用機序のものにトラニラストがある。生薬(しょうやく)製剤には杏仁(きょうにん)水、車前草(しゃぜんそう)エキス(「フスタギン」)、桜皮(おうひ)エキス(「ブロチン」)などがあり、漢方薬では麻黄剤が用いられる。
[幸保文治]