改訂新版 世界大百科事典 「唇裂」の意味・わかりやすい解説
唇裂 (しんれつ)
cleft lip
先天性奇形の一つ。上くちびるが裂けている状態から兎唇(としん)とか三つ口といわれ,遺伝的要因が強調されている。しかし,唇裂患者の子どもでは約2%くらいに発生するので遺伝がうかがわれるが,同一家系内にまったく同じ唇裂患者が見いだされない場合が多い。唇裂の発生頻度は全出産の0.08%,唇顎口蓋裂と口蓋裂を含めると0.2%である。唇裂といえば通常,上唇裂をいい,下唇裂は非常にまれである。唇裂は単独に発生するほか,歯槽骨の破裂(顎裂)を伴ったり,さらに口蓋の破裂(口蓋裂)と合併することがある。片側(左側が多い)のことが多いが,ときに両側性にも起こる。ミルクを吸う力が弱く,審美的に悪いため精神的な障害を伴う。同時に,上顎の発育異常や歯並びの異常,ひいては歯の種々の疾患を伴うことが多いので,口唇形成手術が済んだ後も,系統だった一貫した歯科治療が必要である。また,鼻変形を伴うので,通常顔面の成長がとまってから鼻修正手術が行われる。成立ち方には,古くから組織融合不全説(1892)があり,内側鼻突起と上顎突起の融合不全により生ずるという説と,上唇,歯槽骨,歯を作る中胚葉塊の欠損説(1954)がある。なお口唇形成手術の時期は,全身麻痺および手術侵襲に耐えることができる生後3ヵ月,体重5.5kg以上が必要である。
執筆者:塩田 重利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報