口蓋裂とは口と鼻を
遺伝的要因に加えて、赤ちゃんが母親の胎内で順調に発育していく過程を妨げようとする要因が複雑に作用して発生すると考えられています。たとえば、妊娠10週ごろには舌が口蓋突起の間に存在していますが、下顎が大きくなり舌が下方に移動して口蓋突起がくっつきます。
しかし、下顎が過度に小さい場合には口蓋突起の間にいつまでも舌が
口蓋裂にも程度によっていろいろな型があります。口蓋全体が切れている場合や、
口蓋裂の赤ちゃんでは、おかあさんのおっぱいを直接飲むことは困難です。口蓋裂専用人工乳首による哺乳をすすめます。また、裂が大きい場合にはホッツ
言語の発達面を考慮して口蓋裂の手術はおおむね生後12~18カ月ごろに行います。しかし、早期に手術をしますと、手術の方法によっては上顎の成長発育を妨げ、歯の噛み合わせが悪くなる場合があります。そのため、軟口蓋部を12カ月ごろに閉鎖し、18カ月ごろに硬口蓋を閉鎖する二期的手術を行う施設もあります。手術のあとは言語治療が必要です。また、口蓋裂の赤ちゃんは
口蓋に明らかな裂がある場合には容易に診断できますが、粘膜下口蓋裂は見落とされる場合があります。哺乳の力が弱いとか、鼻にかかったような発音である場合には、専門家の診察を受けましょう。
口唇裂の項で述べたように、口蓋裂においても手術のみならず、言語治療、耳鼻咽喉科、
西尾 順太郎
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
口蓋の形成途中になんらかの阻害因子が作用して癒合しないもの。口蓋は胎生6週になると両側の上顎突起からそれぞれ口蓋突起が出て互いに癒合して二次口蓋を形成し,内側鼻突起からできた一次口蓋と癒着して,9~12週に口蓋が形成される。しかし,この形成が阻害されると口蓋裂となる。発生頻度は0.04%で,女子は男子の約2倍の発生率を示す。口蓋裂単独に,また口唇・顎裂と合併して現れる場合もあり,これが両側性の場合は狼咽(ろういん)という。切歯孔から口蓋垂まで破裂しているものを完全口蓋裂,その途中から口蓋垂までの破裂を不完全口蓋裂,また軟口蓋のみの破裂を軟口蓋裂という。
鼻咽腔の閉鎖不全のため,吸入・哺乳障害があり栄養不良を起こす。このため胃管栄養が行われるが,口唇,舌,軟口蓋および咽頭などの機能を亢進させるためには哺乳瓶を用いて自力で哺乳させるようにしたほうがよい。さらに,発声時に呼気の漏洩のために発音障害が起こる。すなわち,母音の鼻音化や子音気流の鼻腔漏出を示す開放性鼻声や声門破裂音や咽頭摩擦音による子音(k,t,d,g)の置換,ひずみ,省略などの構音障害を伴い,とくに著しいものではカ行がア行になる。合併症として,側切歯の数,位置および萌出異常による歯列不正や,上気道感染を起こしやすく,扁桃炎や風邪に罹患しやすい。また,中耳炎,上顎骨発育不全,見掛け上の下顎前突症(反歯),さらに発音障害に起因する心理障害を伴う。口蓋裂とともに小下顎症,舌沈下による呼吸困難を起こす先天性疾患ピエール=ロビン症候群もある。
閉鎖手術を行う。これには,正常言語を獲得させる目的で言語機能が十分発達しない間に口腔の形態を修復し,正常な鼻咽腔閉鎖機能を与える早期手術と,手術によって顎の発育に障害をきたすので,ある程度手術時期を遅くしたほうがよいとする立場にたつ晩期手術がある。現在は生後1歳半ころを手術適齢期とする早期手術がもっぱら行われる。手術に先立って,出生直後から1ヵ月くらいまでに人工口蓋床(Hotzホッツ床)を装着し,顎誘導を行う。すなわち,舌位の安定,哺乳・嚥下運動や哺乳量の正常化,上顎に対する適度の刺激,床の内面を削除して顎を適切な位置に誘導するなどの利点がある。手術術式は,口蓋粘膜骨膜筋肉弁を口蓋骨から剝離(はくり)して後方へ移動させ,鼻咽腔の狭小化を図り,鼻咽腔機能を改善する口蓋弁後方移動手術が行われる。また,口蓋骨の発育に影響を及ぼす骨膜を損傷しないために口蓋粘膜を骨膜上で剝離する方法,また1歳半ころに軟口蓋部のみを閉鎖手術し,学童期になって硬口蓋部を閉鎖する方法などが行われる。口蓋形成手術後は,手術の影響で顎の発育が障害され,しばしば上顎歯列弓の狭窄や反対咬合が起こるので矯正歯科治療が必要となる場合がある。また,構音障害に改善がみられない場合には言語治療が行われる。適切な手術が行われれば,ブローイングblowing(吹く)練習を行う程度で言語は改善され,言語治療を行う必要がない場合が多い。しかし,なお鼻咽腔の開大が残存し,言語の改善が得られない場合は,義歯様のエピーチエードや口蓋挙上義歯を使用したり,外科的に咽頭弁移植術が行われ,鼻咽腔の狭小化が図られる。とくに破裂の広い場合には歯科補綴的に栓塞子が作製される。一方,患者は言語障害のために内気,内向的な性格になるので,言語治療もさることながら,家族全員の温かい理解がたいせつである。
→唇裂
執筆者:塩田 重利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
口腔(こうくう)に現れる形態異常の一種。先天的に口蓋(口腔の上壁をなし、上方に向かって強く凸湾している部分)、すなわち、硬口蓋(口蓋の前3分の2の部分で、粘膜が骨に固く付着している不動性の部分)、軟口蓋(口蓋の後ろ3分の1の部分で、中心部は筋肉であり、軟らかい可動性の部分)、および口蓋垂(軟口蓋後縁の口峡中央部の突出部)にみられる正中部の破裂をいう。破裂の程度はさまざまであり、口蓋全体にわたる完全口蓋裂、軟口蓋にみられる軟口蓋裂、口蓋垂のみの口蓋垂裂、粘膜には破裂がみられず、骨あるいは筋層にのみ破裂のある粘膜下口蓋裂などがある。さらに歯槽(しそう)突起(歯槽骨)や口唇の破裂を伴う唇顎(しんがく)口蓋裂もある。発生の原因については確たる定説がない。乳児では哺乳(ほにゅう)障害がおき、成長すると発音障害をきたすので、言語の発達する以前に形成手術を行う必要がある。手術の時期は、歯・あごの発育、言語獲得および体力の面から、生後1歳半から3歳が適当とされている。また、ときには2段階に分けて口蓋形成術を行う必要もあり、第2段階の手術は5~7歳時に行う。程度によっては、二次的な再形成術を必要とすることもある。術後、鼻咽腔(びいんくう)閉鎖機能訓練と発音訓練を必要とすることが多い。症例によっては咽頭弁手術や、スピーチ・エイドとよばれる人工物で鼻咽腔閉鎖を行い、特別な義歯で口蓋の欠損部を封鎖することもある。
[矢﨑正之]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…さらに,遺伝的要因と環境要因の両者の相互作用によって形成されると考えられる奇形もある。これは,奇形になりやすさは遺伝するが,それだけでは奇形は発生せず,なんらかの環境要因が相乗的に作用してはじめて発生するものと考えられており,口蓋裂などがこれにあたる。 ヒトの奇形は以上のように,種々の原因によって発生し,これらの原因や奇形の部位,その程度などによる分類のしかたもされるが,臨床的には,次の二つに大別されている。…
…しかし,唇裂患者の子どもでは約2%くらいに発生するので遺伝がうかがわれるが,同一家系内にまったく同じ唇裂患者が見いだされない場合が多い。唇裂の発生頻度は全出産の0.08%,唇顎口蓋裂と口蓋裂を含めると0.2%である。唇裂といえば通常,上唇裂をいい,下唇裂は非常にまれである。…
※「口蓋裂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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