国防心理学(読み)こくぼうしんりがく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「国防心理学」の意味・わかりやすい解説

国防心理学
こくぼうしんりがく

ナチス・ドイツの時代、心理学軍部の必要に応じて軍事問題に適用する方向で、イデオロギー的に体系化する試みがなされた。「国防心理学」Wehrmachtpsychologieとは、その際に用いられた用語で、ドイツでは国防心理学が高等文官試験にまで取り入れられるようになった。ナチス・ドイツに学問思想の範を求めた当時の日本の心理学者は、早速『現代心理学』全12巻中の第7巻として、『国防心理学』を刊行し、紹介している(河出書房、1941刊)。国防心理学の内容は、アメリカにおける心理学の軍事領域への応用と同じく、広い意味での軍事心理学Wehrpsychologie, Military Psychologyの領域をカバーしている。たとえば、軍事体制の心理学、軍事作業の心理学(行軍、自動車操縦、飛行、観察、斥候、射撃など)、選抜と振り分けの心理学、養成と教育の心理学、攪乱(かくらん)の心理学、宣伝の心理学、戦争指導の心理学などである。これは、アメリカの心理学者が第一次世界大戦に際して心理学の軍事への応用を決議したときあげられた13項目の提案(徴募兵の心理学的検査、特殊技能任務選定など)よりも広い内容を含んでいる。しかし、第二次大戦後に開花したアメリカ系の社会心理学あるいは産業心理学の領域と重なり合っている部分がほとんどである。ただ、ナチス時代に、この領域は心理学の応用というよりは民族心理学Völkerpsychologieの重要部分にイデオロギー的に組み入れられたことが注目されるべきである。

[関 寛治

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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