社会心理学(読み)しゃかいしんりがく(英語表記)social psychology

  • しゃかいしんりがく シャクヮイ‥
  • しゃかいしんりがく〔シヤクワイ〕
  • 社会心理学 social psychology

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

社会的行動についての諸現象を研究する社会科学の一分野。社会環境のなかで,個人集団がどのような条件のもとでどのような行動を示すかについて科学的方法によって研究を行う。そこではおもに,(1) 社会的要因の個人への影響,たとえば,社会的知覚社会的学習社会化の過程など,(2) 集団内の個人と個人,個人と集団との相互関係,たとえば,相互交渉過程,指導性,集団の形成,分化,社会規範など,(3) 集団行動,たとえば流行,世論,宣伝に対して集団が全体として反応する行動など,が扱われている。 (→集団心理学 )

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百科事典マイペディアの解説

社会環境の中におかれた個人の経験や行動を,その環境の諸条件や諸特性との関係に基づいて分析研究する学問。英語ではsocial psychology。1908年米国の社会学者E.A.ロスと英国の心理学マクドゥーガルにより別々に体系的な理論が発表された。その後1920年初頭,メーデ等による組織的な実験法の採用や質問紙法・態度調査・ソシオメトリー等の技術の導入によって,客観的研究手続を具備した科学として大成された。特に米国では,リーダーシップ,世論,宣伝,偏見,態度の形成と変容,モラル,コミュニケーション,価値の葛藤(かっとう)等のテーマが活発にとりあげられている。
→関連項目行動科学産業心理学ル・ボンレヴィン

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世界大百科事典 第2版の解説

社会的諸条件の下におかれた人間心理や行動を,それらの条件に根ざす諸要因と関連づけて理解し,説明しようとする社会科学の一部門。ただし,ここでいう社会的諸条件とは,他の人間,集団,集合(群集聴衆など),社会過程制度社会構造文化等を含むものである。社会心理学は,実際には心理学と社会諸科学の境界科学という性格が強く,その立場によって関心焦点アプローチの方法にもかなりの差がある。大別すると,社会的因子を重視しつつ個人の心理や行動の理解をめざす心理学的な社会心理学の立場,および社会構造やその変動の心理的諸帰結,もしくは集合行動や集合的心理現象それ自体に関心を示す社会学的な社会心理学の立場が区別されよう。

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大辞林 第三版の解説

社会の中で行動する個人または集団の意識や行動を研究対象とする心理学。対人関係、グループ間の関係、制度・習慣・文化などとの関係を個人または集団の心理的反応と関連づけて研究する。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

人間の社会的行動の理解およびその説明、あるいは予測を企図する社会科学の一部門。[佐藤 毅]

研究対象

人間の社会的行動の範囲は広範に及ぶので、その研究対象も広いが、さしあたり、その対象を個人レベル、小集団レベル、大集団レベルに分けてとらえることができる。今日、その各レベルごとにどのようなテーマが研究対象として取り上げられているかを例示してみると次のようになる。個人レベルでは、社会的認知、欲求と価値、自我とアイデンティティ、役割行動など、小集団レベルでは、小集団における各種の相互作用や群集行動など、大集団レベルでは、流言や流行、あるいは社会運動などの集合行動をあげることができる。しかし、各レベルは密接に関係しており、この区分は便宜的なものである。したがって、日本人の国民性といった研究は、各レベルに関係しており、この区分には入らないで、全体に関係するものである。また、同調行動の研究といった場合も、各レベル全体に関係するといってもよいだろう。いずれにしても、社会心理学は人間の社会的行動を広範に対象としている学問分野である。
 このように社会心理学は人間の社会的行動を広範に扱うが、それゆえに、力点の置き方や方法の点で異なりを示すとはいえ、同じように人間の社会的行動をその対象としている多くの学問領域、心理学、社会学、文化人類学、言語学、地理学、宗教学あるいは歴史学などと交差する学問領域である。したがって、各学問領域間の学際的協力が望まれる分野でもある。また、社会心理学を全体としてみた場合、さまざまなアプローチがあり、大きくいって、心理過程に研究の中心を置き実験的方法を重視する実験社会心理学と臨床的方法を用いる臨床社会心理学からなる心理学的社会心理学と、社会過程に研究の重点を置き、質問紙法や観察法などによるフィールド調査や事例研究をおもに用いる社会学的社会心理学とに分かれている歴史と現状があることを付け加えておく。[佐藤 毅]

社会心理学の成立

人間の社会的行動に関する哲学的・思想史的考察は、ギリシアの昔のプラトンやアリストテレスの業績にまでさかのぼることができる。また、近代でもホッブズやアダム・スミスの人間性論をあげることもできる。しかし、今日の社会心理学の直接の基礎づけは、19世紀後半の学問的動向のなかにある。その一つは、ドイツのラツァルスとシュタインタールが提唱し、ブントによって大成された『民族心理学』(1900~20)の大著であり、また一つには、フランスのル・ボンの群集心理学や『模倣の法則』(1890)で有名になったタルドの業績である。
 アメリカでも19世紀末からデューイなどにみられるように社会心理学的研究への動きがおきていたが、1908年にはE・A・ロスによる『社会心理学』が刊行された。これはアメリカにおいて社会心理学という名を冠した最初の書物となった。ロスは、タルド、ル・ボン、バジョットなどヨーロッパの学問的業績に影響を受けていた。イギリスでは、ロスが『社会心理学』を発表した同じ年に、マクドゥーガルが『社会心理学入門』を発表し、有名な本能論に基づく社会行動の説明を試みた。このマクドゥーガルで代表される本能論は、この当時、非常にポピュラーとなったが、各種の本能をもって行動の説明概念に用いることは非科学的であるとした非難が高まったこと、また行動主義心理学がおきてきたことがあって、1920年代には下火になっていく。オートメーション技術で象徴される機械制工業が発展し、相対的繁栄期にあったアメリカでは、環境や習慣を重視する心理学(行動主義心理学)が一般化してくる。しかし、この1920年代、フロイトの精神分析が通俗化していった一面も見逃せないものである。欲望や自己が正当化される風潮も生まれていた。1924年に刊行されたF・H・オールポートの『社会心理学』は、この間にあって、科学主義を推し進め、個人心理のほかに群集心理といった実在しない観念を設定することを攻撃し、自ら実験的研究を進め、その後の心理学的社会心理学の発展の道を開くことになった。行動主義の心理学は、やがて新行動主義の心理学へと転換していく。[佐藤 毅]

新たな展開

他方、行動主義の影響を受けつつ、人間の内部環境としての自我の働きを重視し、社会によってつくられる自我(客我)と、それに働きかける自我(主我)との相互過程を明らかにし、社会行動主義を提唱したのが、G・H・ミードであった。『精神・自我・社会』(1931)をはじめとするミードの諸著作は、その後の役割論や準拠集団論に大きな影響を与え、また今日では、ミードの再評価の気運のなかでシンボリック相互作用論という社会学的社会心理学の流れを生み出すほどになっている。
 1930年代後半に至ると、現代の社会心理学に連なる新しい研究の動きが現れる。一方で社会的認知の研究など実験社会心理学の成果が出てくるとともに、他方でソシオメトリーを提唱したモレノや、場の理論を提唱してその後のグループ・ダイナミックスという分野の先駆けをつくったK・レビンなどの業績が生まれたのであった。また、新フロイト派の精神分析や文化人類学が現れ、パーソナリティーに及ぼす「文化」の影響を強調し、社会心理学を大きく刺激するようになっていった。新フロイト派では、フロム、ホーナイ、サリバン、あるいはカーディナーなど、文化人類学では、リントン、ベネディクト、M・ミード、ゴーラーなどが活躍した。この時代、ナチズムが現れたが、そのことが、フロムの『自由からの逃走』(1941)を生み、権威主義的パーソナリティー論を提起し、また、レビンが小集団における民主的リーダーの重要性を取り上げたことの意味は大きい。[佐藤 毅]

アメリカの社会心理学

第二次世界大戦は、社会心理学を新たな局面に展開させる契機となったが、アメリカでは、たとえばリーダーシップと志気(モラール)の研究、世論や宣伝、あるいは大衆説得の研究、さらに国民性の研究など「人間操作」にかかわる多方面の研究を促進させた。戦後、アメリカは明確に世界の指導的位置につくことになったが、そのなかで、アドルノらによる『権威主義的パーソナリティ』(1950)は、アメリカにある権威主義の土壌を問い直す意味をもった。また、リースマンの『孤独な群衆』(1950)は、大衆社会化したアメリカ社会の行動様式としての「他人志向型」という類型を皮肉にもえぐり出し、ミルズの『ホワイト・カラー』(1951)は、同じアメリカで増大してきたホワイトカラーがいまや陽気なロボットと化していることを暴いてみせた。
 1960年代、70年代と世界におけるアメリカの地位が大きくなった反面、ベトナム戦争、石油ショックなどを抱え、そこに陰りがみえてくるなかで、社会心理学が取り組むテーマも多彩となったが、同時に、方法論の反省も行われ、今日は、社会心理学の一種の転換期にきているように思われる。[佐藤 毅]

最近の動向

1960年代あたりから、心理学的社会心理学の分野では、たとえば社会的認知や対人魅力の研究に関し、認知的不協和の理論、帰属理論、適合性理論などの一般化モデルの提起が行われた。しかし、70年代に入ると、早急なモデル化や一般化への反省が出てくると同時に、一部では社会心理学の再建の声も聞かれる状況にある。
 他方、社会学的社会心理学の分野では、1960年代に入って、パーソンズを頂点とする構造機能主義への批判ということもあり、ポスト・パーソンズの動きが活発化し、シンボリック相互作用論、現象学的社会学、エスノメソドロジー、ラベリング理論、ラジカル社会学など多彩な学派がにぎわいをみせている。このなかで、シンボリック相互作用論は、社会学的社会心理学の中心をなす動きを示し、エリクソンやゴフマンなどの業績に刺激され、自我と役割、あるいは社会化をめぐる研究を広げてきている。また、日常性の世界への考察がみられてきていることも注目される。[佐藤 毅]

社会意識論

アメリカの社会心理学のなかでは、個々の研究はあるにせよ、社会意識論という枠組みのなかでの研究はほとんどみられていない。しかし、日本では、政治意識、階級・階層意識、青年意識、あるいは家族観や結婚観、さらに政治文化や大衆文化のような対象に関する研究などが、社会意識論のなかで行われてきている。この社会意識論は、社会心理学、とくに社会学的社会心理学の重要な部門である。社会意識とは、一定の集団や社会の成員の多くが共有している意識とされ、それは自覚的、体系的な観念であるイデオロギーと、自然発生的、日常的な意識である社会心理からなり、そのいわば「土台」には一定の経済・社会構造があるとされている。しかも、このような社会意識は、土台に対して相対的独自性をもち、人々の社会的行動に大きな影響を与えているがゆえに、重要な位置をもつものとされている。このような社会意識論を社会心理学の重要な部門として位置づけていくことが、今後の社会心理学の一つの課題でもある。[佐藤 毅]
『清水幾太郎著『社会心理学』(1951・岩波書店) ▽佐藤毅編『社会心理学』(1971・有斐閣) ▽見田宗介著『現代社会の社会意識』(1979・弘文堂) ▽末永俊郎・池内一・水原泰介編『講座社会心理学』全3巻(1977~78・東京大学出版会) ▽南博著『人間行動学』(1980・岩波書店)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 社会に関係した心理学。個人や集団の意識現象や行動を他の個人、または社会集団の意識現象や行動との関連で研究する。集団心理学、宣伝・流行の研究、マスメディアの心理的影響の研究など多くの領域を含む。

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最新 心理学事典の解説

オルポートAllport,G.W.(1954)は,社会心理学を「個人の思考・感情・行動が,他者の現実の存在,想像上の存在,暗黙の存在によってどのように影響を受けるかを理解し,説明しようとする試み」と定義した。この定義は基本的に多くの社会心理学者によって受け入れられているが,現状に即して説明を加えるべき点がある。第1に,社会的行動を理解しようとする試みは,科学的方法に基づいて行なわれる。研究領域によって重点は異なるが,独立変数を統制することによって因果関係を明らかにする実験法をはじめとして,社会調査,事例研究,フィールドワークなどを用いて得られた結果から社会的行動を説明するための理論を構築することが目標とされる。第2に,この定義に示唆されているように,社会的(あるいは対人的)影響の分析が社会心理学の基本的スタンスであるが,これは個人のパーソナリティや動機を無視するものではない。人間行動は個人属性と状況(環境)双方によって決定されるが,一般的に状況的要因(周囲に存在する他者の特徴など)の影響が過小評価される傾向がある。社会心理学が強調するのはまさにこの「状況の力」であり,この点で個人内のダイナミックスを分析して一人ひとりの人間の総合的理解を追究するパーソナリティ心理学とは異なる。第3に,状況の力の影響を検討する際,研究の対象とされるのは客観的な状況ではなくその「認知」である。そして,社会的行動を理解するうえで,その基底にある心的過程に焦点を当てる社会的認知研究が大きな位置を占めるようになった。第4に,この定義では他者や集団が個人に影響を与える方向性が示唆されているが,人は単に影響を受けるだけの存在ではない。自らの欲求に応じて状況を選択することもできること,他者や集団に積極的に影響を及ぼす方向性も重要であることが認識されている。

【社会心理学の研究領域】 代表的な研究領域を以下に挙げる。

 個人の心理過程に関しては,人が自己を含め社会的環境をどのように理解・評価するのかについて,その心理過程を主として情報処理的な視点からのアプローチがなされている。対人行動をはじめ多くの形態の社会的行動を理解するための,最も基礎的な側面である。自己,感情,動機,態度,印象形成,対人認知,帰属過程,社会的推論などが含まれる。

 対人行動・対人関係に関しては,二者間のコミュニケーションや,他者に向けられた行動,他者とのかかわり合いなどが扱われる。援助,攻撃,自己呈示,対人魅力,親密な関係,説得,協同,競争,対人葛藤,ソーシャル・サポートなどが含まれる。

 集団・組織に関しては,集団や社会組織における個人の行動や成員間の関係,集団と集団の関係が扱われる。社会的アイデンティティ,社会的促進,社会的手抜き,社会的排除,リーダーシップ,同調と逸脱,服従,集団生産性,集団葛藤,集団意思決定,偏見・差別,社会的ジレンマなどが含まれる。

 集合行動に関しては,あまり組織化されていない人びとの集合体における相互作用が研究の対象とされる。流言,流行,暴動,マス・コミュニケーション,消費行動,広告,ソーシャル・ネットワーキング,政治行動などが含まれる。

 これらのほか,社会心理学は現実のさまざまな社会問題,社会病理の解決に向けた研究や実践にかかわっており,その対象は,高齢者,いじめ,犯罪・非行,ジェンダー,環境,災害,宗教など多岐にわたっている。

 社会心理学の理論や研究方法を,関連分野における問題の理解に生かそうとする試みも盛んである。たとえば社会心理学やパーソナリティ心理学は,臨床心理学やカウンセリング心理学が扱ってきた対人関係や組織への不適応問題の解決に向けて,積極的にかかわる。この領域は臨床社会心理学とよばれており(坂本真士・丹野義彦・安藤清志,2007;田中共子・上野徳美,2003),社会的認知の研究がその接点の一つとなっている。法と心理学の領域では,裁判過程にかかわる問題(目撃証言の信頼性など)が実践的に検討されており(菅原郁夫・サトウタツヤ・黒沢香,2005),裁判員制度の導入もあり,今後の発展が期待されている。

【近年の研究動向】 近年の社会心理学の研究動向として,以下の特徴が認められる。第1は,社会的行動に及ぼす非意識的(自動的)過程の影響がこれまで想定されていた以上に大きいことがしだいに明らかにされ,人間を「活性化された行為者activated actor」(Fiske,S.T.,& Taylor,S.E.,2007)としてとらえる視点が一般的になってきたことである。現在では,この非意識的過程と意識的(統制された)過程の二つが基本的な心理過程であるとする立場をとる研究者が多い。第2に,社会的行動の理解に進化心理学が大きな役割を果たすようになったことが挙げられる。進化心理学では人間の心理的諸特性も進化の産物としてとらえられる。とくに,人は集団生活を営むことによって自然環境に適応してきたために,さまざまな心理的特性が集団内の社会的環境に適応するために獲得されてきたものと考えられる。第3に挙げられるのは,文化心理学の影響である。この立場では,文化(慣習や意味構造)が人びとの心理過程を規定する一方で,人びとの心理過程が逆に文化を維持したり変容したりするという形で,両者が相互に構成するという仮定がおかれている。文化による行動のバリエーションに関する知見は,理論の一般化可能性だけでなく,対象とする心理過程そのものの理解に大きく貢献している。第4に,以上すべてにかかわる問題として,脳科学や神経科学との連携が注目されている。神経系や免疫系と社会文化的過程との関係を追究する社会神経科学social neuroscienceという領域も生まれている。

 以上のように,現代の社会心理学は,オルポートの定義にも見られるように心理学の枠組みからの分析が主流となっているが,以前は社会学との距離がより接近していた。社会学的なアプローチは,社会構造や制度・組織が個人の行為や集団に及ぼす影響が検討される点で「心理学的」社会心理学と立場を異にするが,自己あるいはアイデンティティなどミクロな問題に関しては現在でも二つのアプローチが重なることもあり,より良い関係への模索が続いている。全体的に見れば,研究方法と研究対象の多様性を保ちつつ,個人と社会,そして文化とのかかわりを科学的に追究し社会問題の解決につなげようと試みるのが現在の社会心理学の基本的姿勢となっている。 →集合行動 →集団 →進化心理学 →対人関係 →文化心理学
〔安藤 清志〕

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