改訂新版 世界大百科事典 「国防文学」の意味・わかりやすい解説
国防文学 (こくぼうぶんがく)
guó fáng wén xué
日中戦争の前夜,中国共産党による抗日民族統一戦線結成の呼びかけにこたえて,上海在住の周揚,夏衍(かえん)ら党員文学者グループにより提起されたスローガン。運動推進の母体として1936年に中国文芸家協会を結成したが,それに先だって,従来の文芸界における統一戦線組織である中国左翼作家聯盟(〈左聯〉)を,ソ連にいた王明(陳紹禹)の指示で解散した。このとき〈左聯〉の実質的な指導者である魯迅との意思の疎通を欠き,そのため魯迅は,胡風や中共党中央から派遣されて上海へ来たばかりの馮雪峰と相談,また茅盾にもはかって〈民族革命戦争の大衆文学〉というスローガンを提起,〈中国文芸工作者宣言〉を発した。その結果,36年の上海文化界は〈二つのスローガン〉をめぐっての論戦が激しくなり,一時的に混乱したが,両者は同年10月に〈文芸界同人の団結御侮と言論の自由のための宣言〉を出して,日本の侵略に一致して対応することとなった。
執筆者:山田 敬三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報