日本大百科全書(ニッポニカ) 「地中海人」の意味・わかりやすい解説
地中海人
ちちゅうかいじん
Mediterranean race
コーカソイド(白色人種系)のなかの主要亜人種。地中海人種ともよばれる。地中海周辺の諸地域にわたり広範な分布を示し、人口も多いため、地方的変異がかなりみられる。共通する特徴として、長頭の傾向があることと、コーカソイドのなかでは比較的色素量が多いことがあげられる。皮膚は褐色で、日光に当たるとかなり濃褐色になることがある。目の虹彩(こうさい)は濃褐色で、毛髪は黒い。主となる集団はイベロ島嶼(とうしょ)型とよばれるが、その身体や頭部のつくりは華奢(きゃしゃ)で、顔は細長い。成年男子の平均身長は164センチメートル内外で低い。唇はやや肉厚であり、鼻幅は狭く、鼻梁(びりょう)はまっすぐか、やや凸湾。イベリア半島、南フランス、南イタリア、バルカン半島南東部、地中海西部の島々に分布する。これに対して北アフリカに住む地中海人は四肢が細く、身長はやや高くなり、体形は細長になる。なかでもサハラ砂漠の住民では、この傾向がいっそう強く、鉤(かぎ)鼻が多く、皮膚の色は濃くなる。これをサハラ型とよぶが、これらの特徴は低緯度地帯の強烈な日光、暑熱の気候条件に対する適応とみることができる。ピレネー山中およびその周辺に住むバスクはその特異な言語によって周囲の住民と区別されるが、顔幅は狭く、鼻も狭く突出する。とくに顕著なのは血液型であり、B型が3%以下という点でヨーロッパで最低率である一方、Rh(-(マイナス))型が30~40%という高率を示す。このため、バスクを初期地中海人とみる向きもあるが、内部交配を重ねた結果であるという考えのほうが強い。そのほか、ヨーロッパの各地に地中海人的な特徴を示す小集団が散在するが、そのことはこの人種の古さを物語るものであろう。なお、地中海人は近代になってから、多数のものが移住して、中南米におけるコーカソイドの過半数を占め、一部のものは先住民(インディオ)と混血して、新しい人種集団を形成している。
[香原志勢]