現在,血液型は広義,狭義二つの使われ方をしている。すなわち狭義には,(1)ヒトその他の赤血球抗原の多型(一生物集団内に多数の遺伝的な型が共存する現象)についていう。つまり赤血球膜に存在するある種の抗原の構造のちがい(特異性)によって決められる遺伝的な個体差(型)で,それが同一集団内でかなりの頻度で認められるようなものをさす。ヒトの血液型は,被検赤血球をヒトまたは動物からとった特異抗体(血液型判定用試薬)と混ぜたときに,凝集が起こるかどうかで決められる。ウシの血液型は通常,特異抗体による溶血の有無で判定され,ウマ,ブタなどの血液型の検査には凝集と溶血の両者が利用される。広義の血液型は,(2)赤血球抗原の多型を含めた血液の細胞成分および液体成分の多型についての総称で,赤血球酵素型,血清型,白血球および血小板の抗原型などがある。しかし,これら赤血球抗原以外の血液成分の多型が発見または体系づけられたのは20世紀の後半に入ってからで,20世紀の初頭から約半世紀の間赤血球抗原の多型が〈血液型〉と呼ばれてきた。このような歴史的な背景から,現在でも〈血液型〉は(1)で述べた狭い意味の用語として使われることが多い。用語の混乱をさけるために狭義の血液型を〈赤血球抗原型または赤血球型〉と呼ぶこともよくある。ここでは便宜上血液型を(1)の意味に用い,ヒトの血液型を中心にして述べることにする。
ヒトの赤血球膜には,抗原としての性質をもつ多種多様な物質が存在しており,それらの抗原のなかには,ある人はもっているが別の人はこれをもっていないといった種類のものがある。これが血液型抗原といわれるもので,その種類は250以上ある。血液型抗原の産生は,すべて遺伝子に支配されるが,数ある血液型抗原のなかには遺伝学的に互いに密接な関係をもっているものがあり,それによってこれらの抗原をいくつかの系に分けることができる。たとえばMとNの2種の抗原をしらべてみると,M抗原のない(-,陰性)人はN抗原をもち(+,陽性),逆にN陰性の人はM陽性であり,両抗原の間に対立関係があることがわかる。これはM抗原とN抗原の産生を支配する遺伝子が同じ染色体の同じ場所(座)を占めているからで,MとNとは一つのグループとして扱われる。このようなグループに対して血液型システムという語が使われ,MN血液型システムあるいはMN血液型というように呼ばれる。一つのシステムのなかで,たとえばM抗原をもちN抗原をもたないものをM型,その逆をN型,両抗原をもつものをMN型というふうに二つ以上の型(表現型)を区別することができる。血液型には後述のように異なったいくつものシステムがあり,それぞれいくつかの表現型があるが,いずれも単純なメンデル遺伝をするので,遺伝標識として遺伝学の研究や親子の鑑別によく利用され,型の出現頻度に人種差・民族差があるので,人類学の研究にも欠かせないものとされてきた。血液型はまた犯罪捜査などの際に個人識別に役立つが,最近ではDNA多型(DNA型)に遺伝標識としての主役の座が取って代わられるようになった。しかし,血液型抗原が輸血や妊娠や臓器移植に際して健康上不利益に振る舞うことがあるところから,臨床医学上では非常に重視されている。
1901年にK.ラントシュタイナーがABO血液型を発見したことに始まる。彼は当時33歳,ウィーン大学医学部卒業後,同大学病理学教室で助手をしていたが,他人どうしの赤血球と血清とを互いに混ぜ合わせると,その赤血球が凝集する(多数の赤血球が寄り集まって凝固とは別のメカニズムにより塊として見えるようになる)場合と凝集しない場合とがあり,これに一定の法則性があることを発見した。そして,これによってヒトの血液をA,B,Cの3群に分けることに成功した。この発見には,肺炎患者の赤血球と血清とを試験管内で混ぜると凝集が起こるという報告が一つのいとぐちになったと伝えられている。翌02年,別の研究者によって第4群が追加され,その後多くの学者によっていろいろな名称が提案されたが,結局27年に国際連盟の専門委員会でO型,A型,B型,AB型の名称を用いるよう決議された。これより先1925年にはABO血液型の遺伝法則が確立され(ベルンシュタインF.Bernstein,古畑種基ら),血液型が遺伝学上でも重要な地位を占めるにいたった。ABO血液型の発見は,それまで危険で不確実とされていた輸血療法を飛躍的に発展させ,多くの人命がこれによって救われるようになった。ラントシュタイナーは27年にはMN血液型とP血液型を相次いで発見したが,これら血液型に関する研究に対して30年にノーベル生理・医学賞が授与された。MNとP血液型はヒトの赤血球をウサギに注射して得られた血清を使って発見されたが,その後(1937ころ。発表は1940)ラントシュタイナーはウィーナーA.S.Wiener(1907-76)と共同で,これと同じ手法でRh因子を発見した。すなわち,アカゲザルrhesus monkeyの赤血球でウサギを免疫したところ,アカゲザルだけでなく白人の約85%の血球を凝集させる抗体が産生され,その反応はABO,MNおよびP血液型とは無関係であった。この抗体に対応する因子はアカゲザルとヒトとに共通なものであるところからRh因子と名づけられた。この発表と相前後して(1939,41)レビンP.Levine(1900-1987)らは,8ヵ月の胎児を死産した婦人が,同じABO血液型の血液を輸血されたのに溶血性副作用を起こし,その血清中に約77%の白人血球と反応する抗体が認められたという症例を報告した。この抗体はラントシュタイナーらの抗Rhと同じであると判定され,Rh因子が輸血の副作用や胎児障害の原因になりうるものとして臨床医学上注目されるようになった。ただし,ヒトのRh抗体とサル免疫ウサギ血清中のRh抗体とに対応するRh因子は,特異性が似てはいるが異なるものであることが後に明らかとなり,サルと共通のRh因子はLW抗原と呼ばれるようになった。1940-50年代にかけて,抗体の検査法が画期的な進歩を遂げ,それにともなって新しい血液型が続々と発見されたが,輸血や妊娠に際しての検査など偶然の機会にみつかったものが多い。
いくつもある血液型システムのうち,臨床医学上でとくに重要なのはABOとRhの血液型である。
この血液型はABO1(A),ABO2(B),ABO3(A,B),ABO4(A1)の四つの抗原で構成されているが,通常はそのうちのAとBがどのように組み合わさって赤血球に存在しているかにより,四つの型(表現型)に分けられる。すなわち,(1)AをもつものをA型,(2)BをもつものをB型,(3)AとBをもつものをAB型,(4)AもBもないものをO型とする。多少の地域差はあるが,日本人における型の出現頻度はおおむねA型40%,O型30%,B型20%,AB型10%といったところである。ABO血液型が他の血液型と異なる(そして輸血の際とくに重視される)最も大きな特徴は,自分のもっていない抗原に対応する抗体が血漿(または血清)中に規則的に存在するという点である。すなわち,A型の人の血漿中には抗Bが,B型の人には抗Aが,またO型の人には抗Aと抗Bが,それぞれ存在する。AB型の人はAとBの両抗原をもつので血漿中には抗Aも抗Bもない。この事実を利用して血漿中にどんな抗体が含まれているかをしらべれば,その人の型がわかるということになる。そこで実際のABO血液型の検査では,赤血球について抗原の存否をしらべ(通称オモテ試験),さらに血漿について抗体の検査(ウラ試験)を行い,両者の結果を照合したうえで何型かの最終判定を下すことになっている。検査には赤血球凝集反応が利用される。被検者の血液を5mlぐらい静脈から採って血球成分と血漿(または血清)とに分け,抗原検査のためにはその赤血球を食塩水でうすめて(誤判の危険を少なくするため),これを血液型判定用試薬(厳重な国家検定に合格した抗Aおよび抗B抗体)と混ぜ,また抗体検査のためには血漿にA型,B型およびO型の人の赤血球のうすめたものを加えて,凝集の起り方により型を判定する。
このような方法でたくさんの人の血液をしらべてみると,ふつうのA型,B型,AB型,O型とはちがう反応を示し,そのため型を間違えたり何型か決めかねたりすることがある。これには遺伝的な原因によるもの(変異型)と後天的な環境(病気など)によるものとがある。前者の定型例としてBm型,Oh型(通称ボンベイ型),シスA2B3型があり,後者の例としてA型の直腸癌・子宮癌患者における〈B様抗原〉の獲得(病気の経過中にB様抗原を一時的に獲得してAB型にみえる)があげられる。Bm型(5000~6000人に1人)は,B抗原を赤血球にもっているのに,それが極端に弱いため日常の検査法では証明できずにO型とみまちがわれやすい(マカク類のサルの血球と同じような反応態度であることからmonkeyにちなんでmという名称が与えられた)。血漿中の抗体の検査(ウラ試験)では抗Aのみ検出されるので(もしほんとうにO型なら抗Aと抗Bが証明されるはず),B型らしいことがわかる。唾液をしらべるとB型であることがはっきりする場合が多い。シスA2B3型(約5万人に1人)は赤血球のB抗原が弱く(AB型と判定できる程度に),血漿中に弱い抗Bが認められることが多い。AB型とO型との間に親子関係が存在するという変わった遺伝のしかたをする(後述)。
Oh型は,AやB抗原の基礎物質であるH抗原を欠く型で,AやBの遺伝子をもっていてもA抗原やB抗原が作られないので,通常の検査法ではA,B,AB,Oのいずれの型に属するかわからない。頻度としてあらわせないほどごくまれな存在であるが,血漿中に強い抗A,抗Bおよび抗H(O型の血球とも反応する)をもっているので,輸血上では重要である。〈後天性B〉は赤血球のA抗原がある種の腸内細菌の酵素の働きで変性するために生ずるが,これは一時的な変化で,病状の回復にともなって本来のA型の反応を示すようになる。
AやBおよびその基礎となるH抗原としての働きをもつ物質(ABH血液型物質)は赤血球だけでなく,ほとんどすべての細胞や体液中に存在する。したがって,どうしても血液がしらべられないような場合には,毛髪やつめなどからその型を判定することも可能である。唾液などの分泌液中に認められるABH物質の量には著しい遺伝的な個体差があり,これによってヒトを分泌型と非分泌型の2型に大別することができる。
→分泌型
この血液型システムに属する抗原(Rh抗原)は45種あるが,それらのうち最も基本的なものとして日常検査の対象にされるのはD,C,E,c,eの五つである(Rh血液型の遺伝にはA.S. ウィーナーの説とフィッシャー=レースR.Fisher-R.R.Raceの説とがあり,説によって抗原構造に対する考え方も,また抗原・抗体・型の命名法も異なるが,ここではよりわかりやすいと思われる後者の説をとり,CDE命名法にしたがう)。これら五つの抗原をしらべると型の種類は18型以上にもなり,遺伝学上きわめて有力な情報を提供してくれるが,輸血など臨床医学上の目的でRh血液型をしらべる場合には,まずD抗原だけを対象とするのが通例である(その理由については後述の〈血液型と輸血〉参照)。D抗原をしらべることによって,Rh+(陽性,D+型)とRh-(陰性,D-型)の2型を区別することができる。Rh+,Rh-の出現頻度は人種や民族によって異なり,白人の間ではRh-が15~20%,黒人では3~10%もあるのに,日本人では平均して0.5%(約200人に1人)ぐらいしかない(ただし沖縄では約1%と多い)。ABO血液型の場合とちがい,Rh抗原に対応する抗体(Rh抗体)は自然にはまず存在しない。Rh-だからといって抗Dを必ず血漿中にもっているというようなことはないのである。輸血や妊娠・分娩によって他人の赤血球が入り込んできたときに,その刺激で抗体が作られるようになるが,それも人によりけりで,いくら輸血を受けても抗体のできない人もあれば,すぐに抗体を産生してしまう人もある。Rh血液型の検査も,Rh血液型判定用試薬(抗Dなど)を用いる赤血球凝集反応によって行われるが,ABO血液型の検査よりもずっと専門的な知識と技術を必要とする。ごくまれではあるが,D抗原が非常に弱くて一見Rh-にみえるようなRh+の変異型(Du型)もある。このような人が輸血を受ける患者になったときはRh-とみなし,血液を与える側(供血者)にまわったときはRh+とみなす。
ABOとRh以外に21血液型システムが国際輸血学会のワーキングパーティで承認されている。それらのうち,日本人の間で型の出現頻度に著しいかたよりのないものの代表的な例を表2に示しておく。表示したシステムのほかに,コルトンColton式,Yt式,ケルKell式,ルセランLutheranなどのシステムがあり,白人または黒人の間では有意義なことが知られているが,日本人の間では変異がほとんどない(同じ型ばかり)。表に掲げた各種の血液型は,輸血や妊娠の際問題になることもあるが,それよりもむしろ遺伝標識としての意義のほうが高い。たとえばMNSs血液型は,型の種類が多いうえ各型が適当な割合で出現するので,遺伝標識としてはABOやRh血液型以上の価値をもつし,ディエゴDiego血液型は,これを構成するDiaとDib抗原のうちの一つ(Dia)がほとんどモンゴル系人種の間でしか認められないという点で人類学上興味ぶかい。
輸血を安全かつ効果的に行うためには,受血者である患者と同じABO血液型の表現型の供血者の血液をつかうことが必須の条件である。なぜなら,前述のようにABO血液型に関しては自己のもたない抗原に対応する強い抗体が規則的に血漿中に存在し,その抗体に対応する抗原をもつ赤血球がその人に注入されると,生体内でその人にとって不都合な抗原抗体反応(溶血性副作用)が起こり,そのため死亡することもまれではないからである。たとえばO型の患者にA型の赤血球を輸血すると,患者の血漿中に存在する抗Aが,輸血された供血者血球のA抗原と選択的(特異的)に反応し,その結果輸血血球が短時間のうちに破壊され,その患者に耐えがたい負担を与える。昔はよくO型の人の血液はどの型の人にも輸血できるといわれ,O型の人は〈万能供血者〉と呼ばれていた。しかし,赤血球と血漿とが混ざったままのO型血液を,たとえばA型の患者に輸血すれば,供血者の血漿に含まれている抗Aが患者の赤血球と当然反応するはずである。たまたま供血者血漿中の抗Aが弱いものであったりすれば,患者赤血球の数にくらべて侵入して来た抗Aの量が少ないので,患者赤血球が壊される度合は小さくてすむが,抗Aが強いものであったり,また繰り返し注入されたりすれば,患者赤血球が壊される危険が高くなる。このような理由から,現在では,よほどやむをえない事情がないかぎり,O型の血液をA型やB型やAB型の人に輸血するようなことはしなくなった。
ABO以外の血液型システムの抗体は原則として規則的には存在しないから,型違いの輸血が行われてもさしつかえないようにみえる。しかし,ある種の抗原をもつ人の血液は,これをもたない人にとっては一種の異物であり,たびたび輸血されると免疫応答をひき起こして,侵入した血液型抗原に対応する抗体を産生するようになることがある。その端的な例がRh血液型の抗D抗体で,Rh-(d型)の人にRh+(D型)の血液を1回輸血すると,少なくとも50%の確率で抗Dが産生されるといわれる。Rh血液型でD抗原が臨床医学上とくに重視される理由はここにある。RhのE抗原やc抗原に対応する抗体(抗E,抗c)も,抗Dの産生率よりはずっと低いが,比較的産生されやすい抗体の一つに数えられる。Rh以外の血液型では,輸血副作用の原因になるような強い抗体は一般にできにくい。そこで実際の輸血では,型の検査はABOとRhのDについてのみ行い,その他の血液型に関しては特殊な抗体があるかどうかをしらべて輸血の安全を確保するという便法がとられている。そのような検査によって,ごくまれにほとんどすべての人の赤血球と強く反応する抗体に遭遇し,これに合う輸血用血液(適合血)がみつからなくて困ることがある。前述のABO血液型のOh型もその一つであるが,このような場合にそなえて〈まれな血液型〉の仲間づくり(登録)が輸血や血液型の専門家の団体によって進められている。
なお,血液型は輸血だけでなく,妊娠に際しても問題になることがある。たとえばRh-の女性がRh+の子を妊娠し,しかも母であるその女性の血漿中に強い抗Dが存在していると,(1)その抗体が胎盤を通って子の血流中に移行し,(2)それが子の赤血球にあるD抗原と反応して,(3)その結果子の赤血球がはやく壊れる(溶血)ようになる。このような状態を新生児溶血性疾患といっているが,近ごろではRh-の女性がRh+の血液を輸血されることがほとんどなくなったので,抗Dによる子の重症の溶血性疾患は激減した。Rh-の母が輸血を受けていなくても,最初のRh+の子を妊娠・分娩したときの刺激で抗Dが産生されるようになり,その影響が第2子に及ぶこともあるが,その場合の抗体産生率はわずか5~6%で,それも弱いものであることが多い。しかも,第1子分娩直後に抗D免疫グロブリンをRh-の母に注射して抗Dの産生を予防する方法が普及したのと少子化により,抗Dの産生率は著しく低下している。子の溶血性疾患は抗D以外の血液型抗体によってももちろん起こりうるが,頻度としてはそう高いものではないし,検査や治療法が発達しているので,それが原因で死亡したり後遺症に悩まされることもまずない。
→輸血
ABO血液型はNo.9染色体の長腕(q34)に座を占めるA,B,O(IA,IB,IOとも表記)三つの対立遺伝子に支配される。AとBとはともに優性でOは劣性(不活性)である。したがって,表現型A型にはAA(ホモ接合体)とAO(ヘテロ接合体)の,B型にはBBとBOのそれぞれ二つの遺伝子型があり,O型にはOO,AB型にはABの一つの遺伝子型しかないことになる。ただしこれにも例外はある。前述の〈シスAB型〉がそれで,(1)No.9染色体の1本にAとB遺伝子がごく近い位置に並んでおり(不等交差の結果),もう1本にたとえばO遺伝子が乗っていて,AB/Oといったような遺伝子型になっているか,(2)遺伝子突然変異によると説明されている。H抗原の産生を支配する遺伝子はABO座とは別のところ(19q13)にあり,AやBとは独立して遺伝する。通常のABO表現型の親の組合せから,どのような型の子がどれくらいの割合で生まれるかは表3を参照されたい(最近O遺伝子産物である酵素不活性物質の検査やDNA解析によりAAまたはBBホモ接合体とAOまたはBOヘテロ接合体とを試験管内で区別できることが明らかにされたが,まだ日常検査に使えるまでにはなっていないので,表では子の表現型の出現頻度を平均確率で示してある)。
Rh血液型のD抗原は優性のD遺伝子(No.1染色体の短腕p36.2-p34)に支配され,対立遺伝子dは不活性でD抗原に対応するd抗原はみつかっていない。したがってRh+(D)には遺伝子型DDのものとDdのものとがあり,Rh-(d)の人の遺伝子型はddの1型しかない。このことからRh+どうしおよびRh+とRh-の親の組合せからRh+とRh-の子が生まれることがわかる。RhのCとc,Eとeはそれぞれ対立関係にあり,おのおの優劣のない(共優性の)1対の遺伝子Cとc,Eとeに支配される。これらの対立遺伝子が,たとえばDCeというように組み合わさって(ハプロタイプとして)子に伝えられる。このようなRh遺伝子の組合せは8通りあり,これらが二つずつ組み合わさるから遺伝子型は計36となる。日本人では8通りのハプロタイプのうちDCeとDcEがそれぞれ0.65,0.26という高い頻度で認められ,白人(dceが0.4と多い)の場合とは著しく異なっている。まれではあるが,-D-,RhD遺伝子も欠く---といった欠失型も認められている。MNSs血液型では通常2遺伝子座の,ダフィーDuffy,キッドKidd,ディエゴDiego,ドンブロックDombrockの各血液型では1遺伝子座の二つから四つの対立遺伝子が考えられている。Xg血液型はX連関遺伝を示す唯一の血液型で,優性のXga遺伝子と劣性のXg遺伝子とに支配される。
ABO血液型のA,Bおよびその基礎となるHの抗原性をもつ物質(ABH血液型物質)は糖タンパク質または糖脂質である。構成糖は両者ともにL-フコース,D-ガラクトース,N-アセチルガラクトサミン,N-アセチルグルコサミンなどで,抗原の特異性を決定しているのはこの部分である。骨格となっているタンパク質や脂質のほうには免疫原性や血清学的反応性に関与する働きはあるが,型特異性とは直接関係がない。型特異性は糖鎖の非還元末端の構造で決まる。すなわち,前駆物質のオリゴ糖鎖の非還元末端のガラクトースにフコースが結合したのがH物質で,H物質のガラクトースにN-アセチルガラクトサミンがつくとA特異性を,またガラクトースがつけばB特異性を示すようになる。A遺伝子は,ウリジン-二リン酸(UDP)-N-アセチルガラクトサミンの存在下で,N-アセチルガラクトサミンをH物質のガラクトースに結合させるα-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(転位酵素,合成酵素)の産生を支配し,同様にB遺伝子はα-ガラクトシルトランスフェラーゼの産生を支配する。H遺伝子(α-フコシル・トランスフェラーゼの産生を支配)が欠如するか,あるいはその働きが他の遺伝子の働きで抑えられるとH物質がつくられず,その結果AやB遺伝子によってAやB合成酵素が産生されてもAやB物質はできない(Oh型)。AやB合成酵素を使ってO型血球を試験管内でAやB型に転換させることができ,またAやB分解酵素を用いてAやB型血球を試験管内でO型に転換させることも可能である。AやB合成酵素のcDNAは353個のアミノ酸残基をコードし,AとBcDNAには七つのヌクレオチドの違いがあって,AとB合成酵素間にアミノ酸4個の変異を生じさせる。ヒトのABH血液型物質とまったく同じではないが類似の物質は微生物界にも広く分布しており,ヒトの抗A,抗Bはそれによる免疫刺激の結果生じたものであろうと考えられている。ルイス物質やP1物質でも型特異性を決定するのは糖で,糖鎖の構造も明らかにされている。MNSシステムの抗原は,グリコホリンAおよびグリコホリンBと呼ばれるタンパク質上に存在する。Rh抗原は推定分子量約3万のポリペプチドで,赤血球膜の構造や生物学的性質に重要な役割をもつと考えられている。
血液型と病気(たとえば癌)との関連については研究されているが,血液型と性格については専門的な研究がなされていないのでその関係はわからない。動物にもヒトと共通な血液型があり,たとえばチンパンジーはA型とO型,テナガザルはA,B,ABの3型に分けられる。家畜には独特の血液型が多種類あり,血統登録,親子鑑別など多方面で貢献している。
→親子鑑別
執筆者:中嶋 八良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
広義での血液型とは、血液にみられる遺伝形質の個体差によって、さまざまに区別される型(遺伝的多型)、ないしはその分類様式をいう。当初、血液型は赤血球を対象として発達した学問であったが、近年、各種血液成分についても多型性のあることが確認されるようになった。その結果、広義での血液型は現在、次のように区分される。(1)赤血球にみられる多型(赤血球型)、(2)白血球・血小板にみられる多型(白血球型・血小板型)、(3)血清にみられる多型(血清型)、(4)血球上あるいは血清中の酵素にみられる多型(酵素型)の4区分である。しかし、一般に血液型という場合には、(1)の赤血球型を意味するのが普通であり、これを狭義の血液型という。以下、4区分に沿い、それぞれの血液型について解説する。
[小谷淳一]
赤血球の多型を表現、規定しているのは抗原とよばれる物質である。したがって、赤血球抗原の多型が、狭義での血液型ということになる。抗原は、それに対応する抗体という物質と特異的に結合し、抗原抗体反応といわれる現象を引き起こす。赤血球型の抗原抗体反応では、血液型抗体(凝集素)の作用によって、対応する血液型抗原(凝集原)を有する赤血球が、抗体を仲立ちとして次々と結合し、肉眼で確認できる大きさの赤血球塊(凝集塊)を形成する。この塊をつくる現象を凝集反応という。また、ある特定の血液型に関して抗原抗体反応を示す性質を型特異性とよび、この型特異性を示す抗原物質を血液型物質または型物質という。血液型は、1900年ランドシュタイナーらのABO式血液型の発見に始まり、1927年にMN式血液型とP式血液型が発見された。そして1940年ランドシュタイナーとウィーナーによるRh式血液型因子の発見により、新生児溶血性疾患とよばれる病気の原因が、母―児間のRh式血液型因子の違いに起因することが実証され、臨床医学における血液型の重要性が認識された。すなわち、ヒトとヒトとの間に異なった血液型因子の交流が生じたとき(輸血、妊娠など)、他人より移入された血液型因子が抗原としての働きを示し、その結果、生体内の既存抗体との反応、ないしは新たなる血液型抗体の産生などによって、いろいろな臨床上のトラブルの発生がつきとめられたわけである。このように、血液型因子の違いによって臨床上のトラブルの生じる可能性がある血液型の組合せを血液型不適合という。Rh式血液型の発見以後、新生児溶血性疾患、輸血の副作用の症例などから、次々と新しい血液型抗原が発見され、現在では、少なくともその数は250種以上となっている。
血液型分類に用いる抗体(抗血清)には次のようなものがある。(1)生体内に自然状態で存在している自然発生抗体、たとえば正常なヒト血清中に規則的に常在する同種・規則抗体(ABO式)、まれに存在する同種・不規則抗体(ルイスLewis式)、ブタなどの動物血清中にまれに存在する異種・不規則抗体(P式)を利用する。(2)異型輸血・血液型不適合妊娠により後天的に産生された免疫抗体(Rh式以降のほとんどの血液型)を用いる。(3)抗体産生を目的として人工的に動物(MN式、ルイスLewis式)、ヒト(Rh式)を免疫して作製する。(4)レクチンLectinという主として植物の種子浸出液中に含有される植物性凝集素(ABO式、MN式)などを利用する。
[小谷淳一]
ヒト血清中の抗Aおよび抗B抗体に対する凝集の有無によって、A、B、AB、O型の4型に分類する血液型である。遺伝様式はA、B、Oの3複対立遺伝子の支配を受け、遺伝子間の優劣関係はA=B>Oで、メンデルの法則に従う。ABO式血液型の基本的抗原はA、BおよびH抗原(H型物質)である。H抗原はすべての型に認められる共通抗原で、H抗原を土台にしてAやB抗原が合成される。対応する抗H抗体はハリエニシダUlex europaeusの種子中にレクチンとして存在し、また、ウナギの血清中にも含まれる。なお、ボンベイ型Bombay type(Oh型)といってH物質をもたない特殊な赤血球も発見されている。ABH型物質は赤血球膜だけではなく、毛髪、骨はもとより、全身の細胞に存在する。また、分泌液(唾液(だえき)、精液、胃液など)では水溶性の型物質として存在し、その分泌量に基づいて分泌型と非分泌型に分類したのがSe式血液型である。分泌腺(せん)におけるABH型物質の分泌性とルイス式血液型との間には密接な関係がある。ルイス式血液型は、抗Leaと抗Leb抗体によって、Le(a+b+)型、Le(a+b-)型、Le(a-b+)型、Le(a-b-)型の4型に分類され、日本人(成人)の出現頻度は、順に0%、約22%、約68%、約10%で、Le(a+b-)型のヒトはすべて非分泌(se)型、Le(a-b+)型はすべて分泌(Se)型、Le(a-b-)型では大多数が分泌(Se)型である。赤血球膜存在性の型物質は糖脂質glycolipidで、唾液などの水溶性型物質は糖タンパク質glycoproteinである。そして糖部分(糖鎖)の末端に種類の異なった糖が位置することによって型特異性が発揮される。これらのABH型物質、ないし類似物質は種々の動物、微生物などにも認められる。
[小谷淳一]
抗M・抗N血清によってM、N、MN型に分類されるMN式血液型は、優劣のないM、N遺伝子に支配され、遺伝子型はMM、NN、MNである。MやN抗原は赤血球のみに存在する。M、N型物質は、シアル酸という物質を含んだ糖タンパク質と推定されている。1947年に発見されたSs式血液型は、抗S・抗s血清によって、S(SS)、s(ss)、Ss(Ss)型に分類される。MN式とSs式との間には遺伝的関連性が認められ、現在ではMNSs式とよばれている。この結果、MS、Ms、NS、Nsという優劣のない4種の対立遺伝子が設定され、この組合せによって赤血球上にM、N、S、s抗原が発揮される。M・N因子は臨床上のトラブルの生じにくい因子とされているが、S・s因子はまれに免疫抗体産生などがみられるので、輸血の副作用、新生児溶血性疾患の原因として考慮する必要がある。
[小谷淳一]
現在は表現型として、P1、P2、P、P、p型の五つに区分される。日本人の出現頻度はP1型約35%、P2型約65%である。ごくまれに輸血副作用などの原因となる。日本で発見されたQ式血液型は、旧P式(P型とp型に区分)と同一のものとされている。
[小谷淳一]
1940年、ランドシュタイナーとウィーナーは、アカゲザルの血球で、ウサギ、モルモットを免疫して得た抗体によって、ヒト赤血球が2群に区別できることを発見し、凝集される血球をRh(+(プラス))型、凝集されない血球をRh(-(マイナス))型と名づけた。Rh式血液型は、基本的には優劣のない8種類の遺伝子群、cDe(R0),CDe(R1),cDE(R2),CDE(Rz),cde(r),Cde(r′),cdE(r″),CdE(ry)に支配され、このなかの2種が組み合わさって個体のRh式血液型(因子型)が決定される。各遺伝子は同名の抗原を支配するため、Rh式血液型の基本抗原はC(rh′)、c(hr′)、D(Rh0)、d(hr)、E(rh″)、e(hr″)の6種となるが、d抗原の存在は、抗d抗体の確実なものが発見されていないために未確認のままである。したがって、現在検査に用いられる基本抗体は、抗C、抗c、抗D、抗E、抗eの5種である。抗D抗体に対する反応によって、D抗原をもつD型〈Rh(+)〉と、もたないdd型〈Rh(-)〉に分類される。D抗原は他のRh抗原と比較すると、その抗原性はきわめて強く、D抗原をもたないdd型のヒトにD型血液を輸血した場合、抗D抗体が産生される可能性がきわめて高くなる。D‐d因子型不適合による新生児溶血性疾患も多く、そのため、Rh因子のなかでも、D‐d因子が臨床的にもっとも重要視されている。
[小谷淳一]
ルゼランLutheran式のLua抗原、ケルKell式のK抗原などは日本人には認めにくい形質である。ダフィーDuffy式の抗原のうち、Fya陰性の形質も日本人に少なく、Fy(a+b-)型約81%、Fy(a+b+)型約18%、Fy(a-b+)型約1%となる。キッドKidd式では、日本人の場合、Jk(a+b-)型約22%、Jk(a+b+)型約51%、Jk(a-b+)型約27%と頻度に極端な偏りがないので、親子鑑定などにしばしば用いられる。ディエゴーDiego式のDia抗原は白人にはなく、モンゴル人種に特異的な抗原で、Di(a+)型の日本人は2~10%くらいである。Xg式はX染色体上にXga遺伝子の座があり、Xg(a+)型の頻度は、日本人の場合、男性で約70%、女性で約90%となり、性差がみられる。
[小谷淳一]
組織・臓器などの移植に際し、拒絶反応をコントロールするような働きを示す抗原を組織適合性抗原という。その最たるものが前述したABH抗原であり、HLA(Human Leucocyte Antigen)といわれる白血球抗原である。HLA抗原は、リンパ球、顆粒(かりゅう)白血球、血小板に共通して存在する。現在、HLA抗原は、A、B、C、D、DR群に分類され、さらにA群は20種以上、B群は40種以上の多型性を示す。そのほか、HLA抗原系以外の白血球抗原も報告されている。一方、血小板(栓球)型においてはかならずしも分類法が確立しているとはいいにくいが、血小板独自の抗原系として、現在、少なくとも3系統の抗原が確認されている。
[小谷淳一]
血液のタンパクにみられる多型は、赤血球抗原の遺伝標識による血液型とは異なり、血液中の一定の血清タンパクや酵素、血球酵素の組成の差による遺伝的多型現象である。型判定は、主として支持体電気泳動法(血漿(けっしょう)タンパク質などの分子の水溶液に正負の電極を入れ、タンパク質を分別する方法)や免疫学的判定で行われるが、なかには、疾病との関係において特異性がみられるものもある。これらの血清型、酵素型は、法医学の分野では親子鑑定や個人識別に応用されており、また人類遺伝学、免疫血清学においても活用されている。
[小谷淳一]
ヒト血清中の遺伝的多型性を示す形質は、1955年にアメリカの生理学者スミシーズがデンプンゲル電気泳動法を開発し、ハプトグロビンhaptoglobinという血清タンパクの多型を報告して以来、数多くの発見がなされている。現在、物理的、化学的、その他の技術によって明確に決定されているものは約14種類である。
[小谷淳一]
デンプンゲル電気泳動法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などによって酵素成分を泳動すると、同一活性度の酵素でも、遺伝的に決定される異なった種類の酵素系(アイソザイム)に分類される。このように遺伝的多型を示す酵素型は約20種以上みられる。そのうち、日本人についてよく検査されているものには、PGM、PGD、AcP、ADA、GPTなどの型である。
[小谷淳一]
20世紀初頭ヒトのABO式血液型が発見されたころ、家畜の血液型についても研究されていたが、本格的な研究が始められたのは1940年以降である。血液型は赤血球の細胞膜の抗原性の違いにより分類される。特定の赤血球抗原に対する抗体を含む抗血清に赤血球浮遊液を加え、もし赤血球がその抗原をもっていれば、赤血球が固まる凝集反応がおこる。また、この混合液に補体としてウサギまたはモルモットの新鮮血清を加えると、赤血球が溶解する溶血反応がおこる。反応が陰性であれば凝集も溶血もおこらない。一般に、ウシ、ヒツジおよびヤギの赤血球は凝集しにくいので溶血反応が用いられ、ウマ、ブタおよびニワトリでは凝集反応が用いられる。
血液型抗原は通常顕性形質として遺伝し、家畜の血液型ではいくつかの血液型抗原が一つの遺伝子によって支配されている。たとえば、ウシの赤血球抗原のうちB、G、Kの三つの抗原は同一遺伝子によって支配され、単独で検出される場合もあるが、多くはBGKとしていっしょに検出される。このような複合抗原をフェノグループphenogroupまたは単に抗原とよび、同一の遺伝子座に属する対立遺伝子によって決定される血液型はシステムsystemとよばれる。血液型遺伝子の記号は、遺伝子座すなわちシステムを表す記号の右肩にフェノグループを記すのが一般的である。ウシのBGK因子はBシステムに属する遺伝子によって決定されるのでBBGKと書く。
家畜の血液型は大部分のシステムが複対立遺伝子よりなっているのみならず、遺伝子数が非常に多く、もっとも極端な例はウシのBシステムで、現在までに300以上の遺伝子が知られている。またヒツジのRおよびブタのAシステムのように、Rに対してRとI、Aに対してAとSの二つの遺伝子座の相互作用によって生ずる血液型もある。
血液型は通常、同種免疫によって検出されるが、ニワトリのHiおよびThシステムのように、前者はマメ科植物の種子に含まれる凝集素、後者は培養動物細胞をトリプシンで処理して得られた凝集素によって分類されたものもある。
血液型をもっともよく利用するものの一つに親子鑑別がある。家畜では人工授精する場合が多く、誤って別の精液を授精したり、連続した2発情時において別々の雄の精液を授精した場合に、親と子の血液型を調べることによって、高い確率で判定することができる。
[西田恂子]
『松本秀雄著『血液型の知識』(1976・金原出版)』▽『石山昱夫著『血液型の話』(1979・サイエンス社)』▽『松田薫著『「血液型と性格」の社会史』改訂第2版(1994・河出書房新社)』▽『横山三男著『血液型物語』(1997・日本医学館)』▽『R. R. Race & Ruth SangerBLOOD GROUPS IN MAN(1950, Blackwell Scientific Publications, London)』
<ABO式血液型> A型、B型、O型、AB型
<Rh式血液型> Rh陽性(+)、Rh陰性(-)
■献血時の検査
《血球抗原》
A 型:A
B 型:B
AB型:A、B
O 型:なし
《血清抗体》
A 型:抗B
B 型:抗A
AB型:なし
O 型:抗A、抗B
《本邦割合》
A 型:40%
B 型:20%
AB型:10%
O 型:30%
赤血球表面に抗原Aのある人をA型、抗原Bのある人をB型、両方ある人をAB型、両方ない人をO型と呼ぶ。一方、A型の人の血清中には抗B抗体、B型の人には抗A抗体、AB型の人には両方なく、O型の人には両方ある。
■献血時の検査
・血液型:ABO式、Rh式
・肝炎ウイルス検査:HBs抗体、HBs抗原、HCV抗体
・梅毒試験
・HIV抗体
・ATLA抗体
・肝機能検査:AST(GOT)、ALT(GPT)
・貧血検査:赤血球、ヘモグロビンなど
■ABO式血液型判定試験の手順(オモテ試験)
血液型を調べる方法はいろいろありますが、輸血で測定されるのはABO式とRh式です。同じ血液型でも、輸血前には必ず交差適合試験を行います。
輸血、献血のときに必要
輸血を行うときは、血液型が同じであることが必要です。そのために輸血をする前には、患者(受血者)と献血者(供血者)の血液型を検査します。また、献血をするときにも血液型を調べます。
血液型とは、赤血球の表面に存在する抗原と、血清中に存在する抗体の種類による分類です。血液型を調べる検査にはいろいろな方式がありますが、臨床検査領域(輸血)で測定されているのは、ABO式とRh式です。これらは抗原性が強く、輸血での副作用が出現するためです。
●ABO式
A、Bと呼ばれる抗原が赤血球の表面に存在するか否か、また、これらの抗原に対する抗体が血清中に存在するか否かで分けた血液型です。この抗原と抗体には規則性があるため、両方を調べて血液型を判定します。
例えば、A型の人にO型の血液を輸血すると、O型の人の赤血球の表面にはA、Bの抗原がありませんから、A型の人の血液中に入っても何ら悪さをしません。しかし、O型の人の血清中には抗A、抗Bの抗体があるため、これらがA型の人の赤血球表面のA抗原と反応して、A血球は凝集・溶血(赤血球が壊れること)してしまいます。
●Rh式
Rh式には、C、c、D、E、eの5つの抗原が知られており、この中で、D抗原が最も強い抗原性をもつため、このD抗原が赤血球の表面に存在するか否かで分けた血液型です。存在する場合をRh陽性(+)、しない場合をRh陰性(-)といいます。
例えば、Rh陰性の人に陽性の血液を輸血すると、D抗原が入るために陰性者に抗D抗体がつくられます。すると、次にその人に陽性の血液を輸血すると、その赤血球と反応して副作用をおこします。
輸血の前には交差適合試験を
同じ血液型でも、血清中に通常は存在しない抗体をもつ人がいます。これは、前に輸血をしたことのある人では、そのときの輸血液のために抗体ができてしまうためです。このため、たとえ同じ血液型でも輸血の際には受血者と供血者の血液との適合性を試験管内で調べます。これを交差適合試験といい、輸血をするときは毎回必ず行います。
医師が使う一般用語
「けつがた」=血液型の略
「クロスマッチ」=cross matching test(交差適合試験)の略
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
赤血球表面に存在する抗原物質(凝集原)の特徴によって,ヒトの血液をいくつかの型に分類したものを血液型という.赤血球には系統の異なる多くの凝集原がある.ABO式血液型は,正常人の血球・血清間における血球凝集の有無によって発見されたのであるが,他方,ヒトの血球と他種動物血清間の凝集反応の観察によって,ABO式とは異なるほかの血液型が次々と発見されている.血液型は,幹細胞の移植を受けない限り,個人については終生不変であり,一定の様式に従って遺伝する.それぞれの血液型を決定する凝集原(糖タンパク質や糖脂質の糖鎖部分)の化学構造も明らかになり,血液型物質とよばれる.オーストリア生まれの病理学者,K. LandsteinerがABO式血液型を発見し,輸血法を確立したのは1901年である(1930年にノーベル賞受賞).[別用語参照]糖転移酵素
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…ゲノムDNAやミトコンドリアDNA上の塩基配列の差によって生じる遺伝的個体差)が検査の主役を担うようになっている。血液の多型形質のなかでとくに利用価値の高いのは,型の種類が多くて各型の出現頻度にかたよりのあまりないもので,その例としてABO,MNSs,Rh,キッドKiddなどの血液型(赤血球抗原の型),Gm・Gc・トランスフェリン(TF),ハプトグロビン(HP),α1‐アンチトリプシン(PI)などの血清タンパク型(血清型),ホスホグルコムターゼ‐1(PGM1),酸性ホスファターゼ(ACP),エステラーゼD(ESD),グルタミン酸‐オキザロ酢酸‐トランスアミナーゼ(sGPT)などの赤血球酵素型,白血球抗原(HLA)型,などがあげられる。DNA多型のなかでは,MCT118(D1S80)型のようなシングルローカス高変異縦列反復配列(VNTR)多型やCSF1PO型,D3S1744型,VWA型,THO1型,TPOX型などの短鎖縦列反復配列(STR)多型がよく利用される。…
…抗体の解離現象を利用して抗原や抗体の検査をすることを抗体の吸収‐解離試験あるいは単に解離試験または溶出試験という。この試験法の利用範囲は広いが,鋭敏度が高いうえ操作も比較的簡単なところから,通常のABO式血液型検査法ではO型とまちがえられるほど反応の弱いA型やB型の人の血液の検査や,血痕・毛髪・爪・歯などからのABO式血液型判定によく利用される。検体(血痕など)に血液型判定用の試薬(抗A,抗B,抗H)を加えて反応させ,抗体がその活性を失うことなく抗原から解離してくるような条件を与え,どの抗体が解離されてきたかをみて,その検体の血液型を間接的に判定する。…
…血液の緩衝能力以上の変動が生じて,血液が酸性(酸性症,アシドーシス),あるいはアルカリ性(アルカリ性症,アルカローシス)になると,組織の至適環境が乱れ,細胞が十分な機能を発揮できなくなる。酸塩基平衡
[血液型]
ヒトの赤血球の表面には凝集原とよばれる物質があり,血漿には特定の凝集原とだけ反応して赤血球に凝集をおこす凝集素が存在する。今日広く用いられているABO式分類は1901年,ウィーン大学で研究していたK.ラントシュタイナーにより発見された。…
…アメリカ大陸へは数万年前の比較的新しい時代に,アジアの原モンゴロイドから分かれた小集団が何度かの波をなして渡っていった。
【人種特徴】
人種を区分する形質は遺伝的なものでなくてはならないが,環境の影響をまったく受けない形質はまれであるし,遺伝様式のわかっている形質は疾病と血液型,血清蛋白を除けばきわめて少ない。また各人種の形質の多くは組織的進化圧が環境ごとに異なって作用した結果として現れたものであるから,環境に対して適応的であると考えられるが,頭型や血液型など適応という観点からは説明不能の形質も多い。…
…試みは失敗したが,医学の発展にはしばしばこの種の悲惨な試行錯誤が伴っている。K.ラントシュタイナーがABO血液型を発表したのは1901年以降のことであった。キリスト教も魂と血との関連を重視している。…
…血液型の発見(1901)をはじめ,抗原抗体反応全般にわたって幾多の新生面を開き,1930年ノーベル生理学・医学賞を授与されたオーストリアの血清化学者。ウィーンで生まれ,1891年ウィーン大学卒業後,衛生学教室,病理学教室を経て1909年病理解剖学員外教授となり,その後22年ロックフェラー医学研究所に招かれニューヨークへ移り,40年人間の血液中にRh因子を発見した。…
※「血液型」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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