改訂新版 世界大百科事典 「地黄煎売」の意味・わかりやすい解説
地黄煎売 (じおうせんうり)
地黄煎は漢方の強壮補血剤で,地黄煎売は典薬寮を本所とする座を結成し,地黄煎販売の特権を認められた供御人の薬売をいう。室町時代の《三十二番職人歌合》には,番匠笠をかぶり小さな桶を棒先につるして担いだ地黄煎売の姿が描かれている。その源流は,令制下,諸国から草薬を納め,天皇をはじめ諸司,諸臣に諸薬を調進した典薬寮の薬戸にあったと考えられるが,とくに地黄煎供御人の形成には,〈供御薬〉という宮中行事が深くかかわっていた。これは,天皇が典薬寮より献上の屠蘇(とそ),白散(びやくさん)という薬を年の初めに酒にひたして飲んで長寿を祝うというものであるが,その屠蘇,白散の主薬材が地黄であった。そして典薬寮は,毎年11月1日に地黄煎を調進することになっており,ここから地黄煎供御人身分が形成されてきたのである。地黄は諸国から集められたが,とくに摂津,和泉には地黄御薗(みその)があり,山城国葛野(かどの)郡には供御地黄を植えるための土地2町が存在した。鎌倉初期の〈典薬寮地黄供御人等解〉によると,彼らは,〈仁明天皇御宇承和年中〉に地黄御薗が置かれて以降,〈良薬之供御〉のほか一切の課役を免除されてきたと言っている。ところで,1578年(天正6)の記録では,往古より地黄煎商売を免許されていた座供御人は15人であったにもかかわらず,近年,諸国で抜売りをする者があるのでこれを禁ずるよう命じており,地黄煎座の衰退と座外商人の進出をうかがわせるものがある。
執筆者:丹生谷 哲一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報