みそ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「みそ」の意味・わかりやすい解説

みそ
みそ / 味噌

大豆を主体とし、これに、米、麦などを配した醸造調味料の一つで、非常に多くの種類がある。

河野友美・山口米子]

歴史

紀元前2000年ごろ、中国にみその前身と推定される調味料の存在が記録に残されている。日本へは、醤(しょう)、豉(し)といった発酵調味料が中国から直接、あるいは朝鮮半島を経て、奈良時代よりすこし前に渡ってきたと思われる。朝鮮(高句麗(こうくり))伝来の醤を高麗醤(こまひしお)といい、これを美穌(みそ)と訓(よ)ませた例もある。高句麗の方言で醤を密祖(みそ)といったことに由来するともいう。大宝律令(たいほうりつりょう)(701)には、醤(ひしお)、豉(くき)とともに未醤(みそ)という調味料がみえ、大膳職(だいぜんしき)の醤院主醤(ひしおのつかさ)がその製造をつかさどっていた。この未醤がみその前身であると考えられる。平安京には未醤を市販する店もあった。

 753年(天平勝宝5)来日した唐僧鑑真(がんじん)は種々の食品をもたらしたが、そのなかにみえる「甜豉(てんし)」も、みその一種であった。

 鎌倉時代には、禅宗寺院でみそなどの大豆加工品が多くつくられた。径山寺(きんざんじ)みそ(金山寺みそ)は、禅僧心地覚心(かくしん)が中国から紀州(和歌山県)由良(ゆら)にその製法をもたらしたものと伝えられ、これから湯浅醤油(ゆあさしょうゆ)が生まれたともいう。戦国時代には、みそは兵食として重用された。武田の陣屋みそ、上杉越後(えちご)みそなどがそれである。伊達政宗(だてまさむね)も城内に御塩噌蔵(おえんそぐら)を建てて軍用みその大量製造を行っている。都市部では江戸初期に企業生産が始まったが、零細な家内工業的な規模であった。

[河野友美・山口米子]

種類

みそは種類が非常に多く、全国各地に特徴のあるみそがある。みそは材料の違い、気候、風土の差によって各地に独自のものが発達した。そのため、すこし地域が変わると味もまったく変わったものができる。「手前みそ」は、自分の家でつくっていたみその味をそれぞれ自慢したことからきたことばである。

 みその分類法はいろいろある。色では赤みそと白みそと、中間の淡色(たんしょく)みそ、味では甘みそ、辛みそ、使用する麹(こうじ)の別では米みそ、麦みそ豆みそ、粒の有無では粒みそ、漉(こ)しみそ、産地別では江戸みそ(赤色の甘口米みそ)、仙台みそ(赤色の辛口米みそ)、信州みそ(淡色の辛口米みそ)、八丁みそ(赤色の辛口豆みそ)、京風白みそ(白色の甘口米みそ)などといったように区分する。製法の変わったものでは、しょうゆ醸造と同時につくる溜(たまり)みそや、赤だしみそのように豆みそに他のみそと調味料をあわせた調合みそもある。加工みそには径山寺みそや五斗みそ、練りみそなどがある。

 みその味の嗜好(しこう)は気温によっても異なる。一般的な傾向としては寒い地方では辛みそが、暖かい地方では甘みそが多い。塩分濃度は、甘みそが6~7%に対し、辛みそは10~13%程度である。

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製法

大豆を蒸してつぶし、これに米、麦、あるいは大豆などでつくった麹と塩を混ぜて発酵、熟成させてつくる。一般に全国的に用いられているのは米みそ(米麹使用)で、製造法は次のようにする。まず、大豆を水に浸したのち、蒸して搗(つ)き砕き、米麹と塩、水を混ぜて容器にきっちりと詰めてもろみをつくる。そして、ゆっくり発酵させる。普通、仕込みは晩春から初夏にかけて行い、一夏を過ごして1年でできあがりとする。麹の分量や食塩使用量により、できあがりまでの時期に長短ができる。また、工業的には、加温などの方法で、仕込んでから完成までの期間を短くすることも行われている。

 このほか、麹には麦、大豆を使用するものがあり、それぞれ使用した麹によって麦みそ、豆みそとよぶ。豆みそは、米みそや麦みそと多少製法が異なる。この場合は、大豆を蒸したものを固めてみそ玉をつくり、コウジカビをつけて麹にする。これをつぶして塩水を加えて仕込む。米や麦は使用しない。この製法は大陸から渡ってきたものの原形に近いと考えられる。

 みその良否は香りで判断できる。よくできたみそは、ふくよかなよい風味をもっている。また、味わってみて、舌の上で丸みのある塩辛さの広がるものがよいみそである。熟成のよくできていないものは塩味が遊離して感じられる。

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栄養

みそは、大豆のタンパク質が、醸造によってアミノ酸などの消化吸収しやすい状態に変化しており、過去の日本では、重要なタンパク源としての役割を果たしてきた。大豆のタンパク質は、米に不足するリジンなどの必須(ひっす)アミノ酸を補う形となるので、米飯を主体にした日本人の食生活にとって、みそは古くから大きな役割を果たしてきた。ビタミンや無機質の給源にもなる。癌(がん)を予防するなどの生理機能性が注目されている。しかし一方では、食塩の摂取過剰を招くおそれがあり、多く使いすぎないよう注意しなければならない。

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料理

みそには、生臭みなどを消す矯臭効果がある。これは、みその主成分であるタンパク質によるものである。タンパク質はいろいろのにおいを吸着する性質があり、これが働くのと、みその強い風味が、におい消しに大きく効果を現す。そこで、コイやサバなどの生臭い材料に多くみそが用いられる。とくに、みそを溶いた状態で長く加熱すると、みその粒子が互いに結合しざらっぽくなるが、一方では、このときに多くのにおい成分が吸着され、におい消しの効果をより強くする。鯉濃醤(こいこくしょう)(鯉こく)、サバのみそ煮、カキの土手鍋(なべ)、イノシシ肉のぼたん鍋(猪鍋(ししなべ))など、みなこの性質を利用したものである。料理としては、みそ汁がもっとも多いが、ほかに、みそ煮、土手鍋、田楽(でんがく)、みそ和(あ)えなどがある。みそ和えには調味みそが用いられ、酢みそ、ゆずみそ、木の芽みそ、ごま酢みそ、卵みそ、からし酢みそなどがある。みそは他の調味料と違い、粘着性がある。田楽、和え物などにみそが使われるのは、みそのこの性質を利用したものである。また、魚や鳥獣肉では、みそに漬けると矯臭のほか、みそのうま味と塩味がしみ込み、塩分の多いみそでは保存効果もある。

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加工品

加工みそとして、なめみそ、練りみそ、乾燥みそがある。なめみそには、直接なめみそとして醸造したものと、みそを調合し加工してつくったものがある。醸造なめみそには径山寺みそ、五斗みそ、醤(ひしお)みそ、かつおみそなどがある。加工なめみそにはたいみそ(甘みそとタイのそぼろ)、ゆずみそ(甘みそとユズの汁や皮)、鉄火(てっか)みそ(甘みそに炒(い)り大豆、ゴボウ)、ごまみそ、さんしょうみそ、時雨(しぐれ)みそ(甘口の赤みそとハマグリのむき身)など多数のものがある。いずれもそのまま食べられる。

 練りみそは、みそにみりんなどの調味料を加えて練ったものである。調味みそのベースにするもので保存性に富む。みそを加工したものには、このほか、だしの成分を入れ、そのまま湯に溶いてみそ汁ができるように配合したインスタントみそ汁や、赤だし用に豆みそや米みそを何種か配合した赤だしみそなどがある。練りみそを材料にして、なめみそをつくることもある。

 乾燥みそは、みそを凍結乾燥法で乾燥し、粉末化したもので、インスタントみそ汁などの加工食品の味つけ材料として用いられる。

[河野友美・山口米子]

『前田利家著『作物・食物文化選書8 味噌のふるさと』(1986・古今書院)』『海老根英雄・広瀬義成著『味噌・醤油入門』増補改訂3版(1994・日本食糧新聞社)』『森浩一編『味噌・醤油・酒の来た道』(1998・小学館ライブラリー)』『東和男編著『発酵と醸造1 味噌・醤油の生産ラインと分析の手引き』(2002・光琳)』『今井誠一著『食品加工シリーズ6 味噌――色・味にブレを出さない技術と販売』(2002・農山漁村文化協会)』


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