坑夫(宮嶋資夫の小説)(読み)こうふ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「坑夫(宮嶋資夫の小説)」の意味・わかりやすい解説

坑夫(宮嶋資夫の小説)
こうふ

宮嶋資夫(みやじますけお)の中編小説。1916年(大正5)1月近代思想社から、堺利彦(さかいとしひこ)・大杉栄(さかえ)の序を付して刊行題材は、茨城県のタングステン鉱山に事務員として1年数か月勤めた体験による。かつて「野州の山」の暴動の際主唱者よりも勇敢に闘った石井金次は、怯懦(きょうだ)な仲間たちの裏切りにあい、放浪坑夫となって、いまは池井鉱山に流れてきている。しかしここでも、怠惰な坑夫仲間への激しい反発は、石井を酒とけんかと女との凶暴な生活と出口のない寂寥(せきりょう)に落とし込み、ついには渡り者との決闘に倒れてしまう。石井の反発は個人的な域にはとどまるが、労働者と労働現場の生き生きとした描写が、『坑夫』を大正期労働文学の秀(すぐ)れた先駆作品とした。

[大塚 博]

『『宮嶋資夫著作集1』(1983・慶友社)』

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