日本大百科全書(ニッポニカ) 「城下の人」の意味・わかりやすい解説
城下の人
じょうかのひと
軍人・諜報(ちょうほう)活動家石光真清(いしみつまきよ)(1868―1942)の自伝四部作の第一部。嗣子(しし)真人の編により、著者自身の生活記録とともに「「日本」自らの生活史であり、また東亜諸民族の歴史の歩」を示すものとして、1958年(昭和33)から59年にかけて、本書および『曠野(こうや)の花』『望郷の歌』『誰のために』が刊行された。本書の前半は、熊本藩士の家に生まれた著者の目に映じた文明開化の波に翻弄(ほんろう)される士族階級の人々、神風連(しんぷうれん)の志士との交流や乱の実相、西南戦争における悲惨な戦闘状況や戦禍のなかの人々の生活などが、両親や周辺の人々への暖かな追憶とともに叙述される。後半は、上京して陸軍士官学校に進み、近衛(このえ)連隊の尉官として軍人の道を歩む経緯が簡潔に描かれ、大津事件や日清(にっしん)戦争出征、台湾におけるゲリラとの戦闘などの場面はとくに生彩に富む。ロシア研究の必要性を痛感し、軍の了解を得てウラジオストクに留学の第一歩を記したところで終わる。
[荻野富士夫]
『『城下の人』(中公文庫)』