改訂新版 世界大百科事典 「塑性設計法」の意味・わかりやすい解説
塑性設計法 (そせいせっけいほう)
plastic design
延性に富み,破断せずに大きな塑性変形に耐えることのできる材料からなる,主として不静定骨組構造物を対象とし,塑性ヒンジの概念を導入して崩壊荷重を求め,この崩壊荷重に対してある安全率(荷重係数と呼ばれる)が確保されるように構造物を設計する方法。さらに広い意味をもつ極限設計法に包含される設計法の一つとして位置づけられ,米英を中心に1960年代中ごろから建築物の設計などに広く採用されている。日本では,比較的構造形式の単純な橋に実施例が見られる程度であるが,塑性設計法の考え方も勘案しつつ,信頼性に基づいてより合理的に構造物を設計する規範の策定を目ざし,土木建築工学の分野で調査研究が続けられている。
鋼材の引張試験から得られる応力-ひずみ曲線を理想化すると図1となる。いま,鋼材でできた長方形一定断面の両端固定ばりに等分布荷重w1が作用している場合を考えてみよう(図2-a)。w1が小さいときには,はりに生ずる応力は図1のOYの区間にあり,はりの上側が引張・下側が圧縮となる最大応力は断面AとCに生じ,逆に上側圧縮・下側引張となる最大応力は断面Bに生ずる。この状態では断面AとCの最大応力は断面Bの最大応力の2倍である。等分布荷重を漸増すると,まず初めに断面AとCの上下縁の応力がσyに達し,さらに荷重を増やすと図2-bの状態となる。荷重がw3まで達すると断面AとCは完全に塑性化し(図2-c),このとき断面AとCに作用している曲げモーメントをこの断面の全塑性モーメントという。荷重がこれ以上増加しても,断面AとCでは全塑性モーメント以上の曲げモーメントを伝達できないから,これらの位置にあたかもヒンジができたようになり(これを塑性ヒンジという),自由に回転変位が増大する。荷重がwPになると,塑性ヒンジが断面Bにも形成され,この構造系は不安定になって崩壊する(図2-d)。wPがこの場合の崩壊荷重というわけである。
→極限設計法
執筆者:片山 恒雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報