改訂新版 世界大百科事典 「極限設計法」の意味・わかりやすい解説
極限設計法 (きょくげんせっけいほう)
limit design
弾性理論により構造物を設計する方法(許容応力度設計法)に対し,構造物の安全性,使用性の限界状態をもとに設計する手法の総称。1940年代の後半に構造物の塑性設計法の基礎概念が確立してからしばらくの間,極限設計法は塑性設計法と同じ意味で使われていたが,その後設計手法の合理化を求めて,弾性理論に基づかないいくつかの設計法が提案されるにおよんで,塑性設計法を含むこれらの方法を総括した広い意味で使われることが多い。一般に構造物の使用限界は(1)材料の降伏,(2)材料の最大強度への到達,(3)常時作用荷重のもとでの過大な変形,(4)構造系の不安定,(5)疲労破壊,(6)脆性(ぜいせい)破壊,などから決められる。許容応力度設計法では,安全性の限界が応力によって評価されるものとし,限界の応力(例えば鋼材では降伏点応力など)を安全率で割って得られる量を許容応力と称して,作用荷重のもとで構造部材断面に生ずる応力がこれを超えないように設計する。許容応力度設計法は弾性体の仮定が比較的よく合う鋼構造の設計法として確立され,長い歴史と経験の中で多くの改良を加えられながら現在に至った。しかし,部材断面の一部が限界の応力に達することがそのまま構造物の破壊,崩壊を意味せず,多くの構造物はさらにいくらかの応力の増加に耐えることができる(余剰耐力が存在する)こと,構造物の作用荷重の中にはその推定の確実度が異なるいろいろなものがあるにもかかわらず,許容応力度設計法は材料に関する一つの安全率しか考えていないことなどの欠点を是正するには,根本的に異なる合理的な設計方法が必要と認められ,50年代後半から欧米を中心に極限設計法の研究が盛んになった。現在までに提案され,部分的に実際の設計規準にとり入れられている手法としては,塑性設計法,荷重係数設計法,終局強度設計法および限界状態設計法と呼ばれるものがある。これらの設計法はいずれも,構造物の安全性を破壊,崩壊に対してより直接的に評価するとともに,性質の異なる荷重の組合せを合理的に行おうという共通の目的をもっているが,その具体化の方法と程度が違っている。したがって前述の四つの設計法をまったく独立のものとみなすことはできず,塑性強度を構造物崩壊の基準とする塑性設計法の考えは他の三つの設計法の中にも一つの重要な基礎的概念として含まれているし,荷重係数設計法と終局強度設計法はほとんど同じ意味合いで使われることもある。許容応力度設計法は通常の使用性の限界に重点を置き,必要があれば終局の安全性を検討する方法であるが,主としてアメリカで発達した終局強度設計法では,逆に終局の安全性に重点を置き,必要があれば使用性を検討するという考えがとられている。また,主としてヨーロッパを中心にコンクリート構造物を対象として発達した限界状態設計法は終局限界状態と使用限界状態を一つの設計体系の中で合理的に扱おうとしている。
→塑性設計法
執筆者:片山 恒雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報