古代ローマの作家アプレイウスの手になる伝奇小説。『黄金のロバ』の別名で有名。ペトロニウスの『サテュリコン』は一部しか残っていないので、全体が今日まで伝えられている最古の小説でもある。青年ルキウスがロバに変えられ、異様な体験を重ねたのち、女神イシスの力で人間に戻るまでの物語で、唯一の変身を主題としている点でオウィディウスなどの同名の作品とは趣(おもむき)を異にしている。ロバに変えられた人間の体験談という趣向は、ルキアノス作と伝えられる『ルキオスあるいはろば』およびパトライのルキオスの『変形譚(たん)』がすでにあり、アプレイウスの作品もこれらをモデルにしたものと考えられるが、当時流行のミレトス風物語やプシュケとクピドをめぐる美しい挿話、魔術やイシス信仰への強い関心が加わって、彼独自の世界が展開されている。著作年代については、30歳ごろのローマ滞在時代(155ころ)とするものと老年(180ころ)のカルタゴ時代の作とするものと二説ある。
[土岐正策]
『呉茂一・国原吉之助訳『黄金のろば』上下(岩波文庫)』
「歓喜の歌」の合唱で知られ、聴力をほぼ失ったベートーベンが晩年に完成させた最後の交響曲。第4楽章にある合唱は人生の苦悩と喜び、全人類の兄弟愛をたたえたシラーの詩が基で欧州連合(EU)の歌にも指定され...
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