サテュリコン(その他表記)Satyricon

改訂新版 世界大百科事典 「サテュリコン」の意味・わかりやすい解説

サテュリコン
Satyricon

紀元後1世紀にペトロニウスによって書かれたと伝えられるローマ小説。もとは全16巻から成る長編小説だったらしいが,現在はそのうち最後の3巻からの抜粋が残っているにすぎない。主人公のエンコルピウスとその友人アスキュルトス,それに奴隷の美少年ギトンが中心人物で,3人が南イタリアの港町を舞台にして何者かに追われながら放浪の旅をつづけていく物語になっている。その中でもとりわけ有名なのは〈トリマルキオ饗宴〉と呼ばれている部分で,かつては奴隷だったトリマルキオが現在では解放されて大金持になって,想像を絶する豪華な宴会を催している。この宴会に参加した主人公たちによって,ぜいたくな食事のメニューやそこで交わされる会話が詳細に紹介されるが,この成上り者の趣味の悪さは皇帝ネロを批判したものとも考えられる。またエウモルプスという名の詩人を登場させ,大げさな叙事詩を発表させているが,これは同時代の詩人ルカヌスを風刺したものらしい。ほかにもエフェソス寡婦にまつわるミレトス風の滑稽な小話が挿入されているのが有名である。ギリシアの小説が恋愛ロマンスであるのに対して,この作品下層階級の猥雑さも含めて現実社会を写実的に描き,風刺を加えている点で注目される。当時の社会の実態を知るうえに貴重であるばかりでなく,ルネサンス以降確立するピカレスク小説最古の例として高い評価を受けている。現代ではフェリーニによる映画化(1969)も知られている。
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百科事典マイペディア 「サテュリコン」の意味・わかりやすい解説

サテュリコン

ペトロニウス作と伝えられるローマの小説。二人悪童が大胆ないたずらを繰り返しながら放浪して歩く,悪者小説一種で,散文韻文の入り混じった形式で書かれ,帝政初期のローマの風俗を活写している。現存するのは《トリマルキオの宴会》など一部にすぎない。フェリーニによって映画化された(1969年)。

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世界大百科事典(旧版)内のサテュリコンの言及

【男色】より

…ハドリアヌスはその寵児アンティノオスのために町を建て,神格化さえ行った。当時の乱れた性風俗を描くペトロニウスの《サテュリコン》には美少年との愛欲を争って楽しむ2人の男の話がある。ラテン語には男色にまつわる語彙が約90あって,マルティアリスらは男色行為をうたいあげている。…

【ラテン文学】より

…ほかにウェレイウス・パテルクルスVelleius Paterculus,クルティウス・ルフスCurtius Rufus,フロルスなどの歴史家の名がみられる。またそのほかの散文作家には,小説《サテュリコン》の作者ペトロニウス,百科全書《博物誌》の著者の大プリニウス,《書簡集》を残した雄弁家の小プリニウス,農学書を残したコルメラ,2世紀に入って,《皇帝伝》と《名士伝》を著した伝記作家スエトニウス,哲学者で小説《黄金のろば(転身物語)》の作者アプレイウス,《アッティカ夜話》の著者ゲリウスなどがいる。 詩の分野ではセネカの悲劇のほかに,叙事詩ではルカヌスの《内乱(ファルサリア)》,シリウス・イタリクスの《プニカ》,ウァレリウス・フラックスの《アルゴナウティカ》,スタティウスの《テバイス》と《アキレイス》など,叙事詩以外ではマニリウスの教訓詩《天文譜》,ファエドルスの《寓話》,カルプルニウスCalpurniusの《牧歌》,マルティアリスの《エピグランマ》,それにペルシウスとユウェナリスそれぞれの《風刺詩》などがみられる。…

【ローマ】より

…また尿意を催しても臥台を立つことすらせず,奴隷がささげ持つ尿瓶で用を済ませてしまう横着者もいた。 財力を誇示するためのばかげた浪費の極致は,ペトロニウス作《サテュリコン》に登場する解放奴隷トリマルキオTrimalchioの宴席であろう。そこでは単に珍味にとどまらず,たとえば大盆を天空に模して各星座にちなんだ料理を載せたり,木製鶏の下から取り出された孔雀の卵のなかに調理された小鳥が丸まっていたりなど,さまざまな奇趣を凝らした料理が供され,宴は終わるかと思えばまた始まり,総計62種の料理・飲物が出されている。…

※「サテュリコン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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