日本大百科全書(ニッポニカ) 「大入袋」の意味・わかりやすい解説
大入袋
おおいりぶくろ
劇場用語。観客席が満員になったときに、祝儀として制作の関係者に配られるもの。江戸時代に、大入りの日に楽屋中へ「大入蕎麦(おおいりそば)」を配る習慣があった。これは「長く続く」という縁起を祝うことからおこったという。1896年(明治29)9月の明治座で初世市川左団次一座の興行のとき、25日間の全部を売り切ったことがあり、そのとき、近所のそば屋の印を押した切手を袋に入れて頭取から配ったのが、大入袋の始まりとされている。その後、2銭銅貨、さらに5銭白銅貨を入れるようになった。第二次世界大戦中は廃止されていたが、戦後復活し、現在では50円玉、100円玉を入れるのが普通である。歌舞伎(かぶき)に倣って映画館などでも出すことがある。
大入袋の体裁は、祝儀袋の表に赤く「大入」「売切祝」「当祝」などと勘亭(かんてい)流で刷り出し、櫓紋(やぐらもん)を白抜きにし、黒で座名を刷ったものを使う。もっとも、この体裁は一定しているわけではなく、そのつどデザインに変化がつけられることが多い。その大当りをとった芝居の興行に直接関係した者でなければ手に入れられないことや、祝儀の気分を尊ぶ歌舞伎の雰囲気をよく表徴していることから、これをほしがるファンもある。
[服部幸雄]