改訂新版 世界大百科事典 「天界の一般自然誌と理論」の意味・わかりやすい解説
天界の一般自然誌と理論 (てんかいのいっぱんしぜんしとりろん)
Allgemeine Naturgeschichte und Theorie des Himmels
I.カントの一連の自然哲学に関する論説中もっとも著名なものであり,1755年の著作。副題に〈ニュートンの原理に従って論述した全宇宙構造の編成と力学的起源についての試論〉とある。カントは太陽系の現状に見られる特色,すなわち惑星・衛星の公転,太陽の自転の向きと面が共通していることに着目し,これらが偶然の所作によるとは考えられないとして,物質粒子のこんとんとした始源状態から,ニュートンの万有引力の作用により必然的に太陽系が生成されることを導こうとした。そしてさらに太陽系は他の諸恒星ともども銀河系宇宙を構成して共通の中心の回りを回転するものと考えた。また付録には地球以外の惑星にも居住者がいるとしてそれらを比較している。この付録は論外として,本書に展開されたカントの太陽系,銀河系宇宙に関する構想は,定性的には現代にも通用するものを含んでいて興味深い。ところで本書は市販される前に出版社が破産したため学界に知られるのが遅くなったことと,その41年後に天体力学者として著名なP.S.ラプラスが類似の構想の太陽系生成論を提唱したことから,カントの論説は〈カント=ラプラスの星雲説〉と呼ばれている。
執筆者:堀 源一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報