完全大血管転位症

内科学 第10版 「完全大血管転位症」の解説

完全大血管転位症(その他の先天性心疾患)

(3)完全大血管転位症(complete transposition of great arteries:complete TGA
定義・頻度
 心房-心室関係は正常で心室-大血管関係が反対になっているもの,すなわち大動脈が右室から,肺動脈が左室から起始しているものである.チアノーゼ性心疾患の中ではFallot四徴症についで多く,全先天性心疾患のうち約5%を占める.心室中隔がintactであるⅠ型,VSDを有するⅡ型,さらに肺動脈狭窄を有するⅢ型がある.
発生機序
 円錐動脈幹隆起の捻じれが生じず,円錐中隔と膜様中隔が接合するために左室が肺動脈と,また右室が大動脈と結合する.
血行動態
 Ⅰ型では右室-大動脈-体組織-体静脈-右房をめぐる体循環と左室-肺動脈-肺-肺静脈-左房をめぐる肺循環が分離された循環様式となり,動脈血低酸素が生じる.体組織への酸素供給を可能にするためには動脈管および心房間短絡を介する血液混合(mixing)が必要になる.Ⅱ型で大きな心室間短絡があればその部位でのmixingが起こり得る.
徴候・診断
 程度はさまざまだが動脈血酸素飽和度低下は必発である.Ⅰ型Ⅱ型では胸部X線で肺血管陰影は増強し,心電図では右室肥大がみられる.
管理・治療
 低酸素に対して,動脈管開存を図るためにPGE1製剤が使用される.心房間短絡が十分でない場合にはバルーン心房中隔裂開術(BAS)が必要となる.近年はⅠ型Ⅱ型に対しては大動脈位スイッチ手術(Jatene手術)が,Ⅲ型に対しては心室内再ルーティング+右室-肺動脈流出路形成(Rastelli手術)が行われることが多い.大動脈位スイッチでは冠動脈移植が必要となるため,これが困難な例や左室を体心室として使用できない例に対しては心房位スイッチが選択される.[山田 修]
■文献
Fyler DC, Buckley LP, et al: Report of the New England Regional Infant Cardiac Program. Pediatrics, 65(Suppl): 376-461, 1980.
Rose V, Izukawa T, et al: Syndromes of asplenia and polysplenia: A review of cardiac and non-cardiac malformations in 60 cases with special reference to diagnosis and prognosis. Br Heart J, 37: 840-852, 1975.
Ryan AK, Blumberg B, et al: Pitx2 determines left-right asymmetry of internal organs in vertebrates. Nature, 394: 545-551, 1998. 7)~10)全体Mitchell ME, Sander TL, et al: The Molecular Basis of Congenital Heart Disease. Semin Thorac Cardiovasc Surg, 19: 228-237, 2007.
Anderson RH, Baker EJ, et al: Pediatric Cardiology,3rd ed, Churchil Livingston/Elsevier, Philadelphia, 2009.

完全大血管転位症(チアノーゼ性心疾患)

(2)完全大血管転位症(transposition of the great art­eries:TGA)
疫学
 全CHD患者の5~7%で,未手術では1歳までの生存率は約10%だが,手術成績の向上で心房内血流転換術(atrial switch operation)ではVSDを合併しないTGA患者の約8割が,動脈血流転換術(arterial switch operation)では約9割が成人期に達する.心房内血流転換術では右心室機能低下,三尖弁閉鎖不全,バッフル狭窄や洞機能不全が問題となる.Jatene手術では肺動脈狭窄,大動脈弁閉鎖不全と冠動脈関連の虚血が問題となる.Rastelli手術では導管狭窄や心室性不整脈が問題となる.
臨床症状・検査成績 【⇨5-8-10)-(3)】.
経過・予後
 心房内血流転換術では術後20年の生存率はVSD合併なしで約80%,VSD合併例は約50%である.突然死が7~15%生じる.Jatene手術の術後15年生存率は約95%だが,大動脈弁閉鎖不全の進行や冠動脈関連の心事故に注意が必要である.外導管手術の生存率は術後20年で約90%だが,外導管狭窄の進行に注意が必要である.不整脈や感染性心内膜炎罹患に注意する必要がある.
治療
 心房内血流転換術後の右心室不全や三尖弁閉鎖不全に対し利尿薬アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)など内科的治療が有効な場合もある.重度の三尖弁閉鎖不全では人工弁置換を考慮する.完全房室ブロックにはペースメーカ治療が必要である.大動脈血流転換術やRastelli術後では術後中等度以上の右室流出路狭窄は治療の対象となる.肺動脈弁狭窄はカテーテル治療が第一選択だが,困難な場合は手術適応となる.Jatene手術の重度大動脈弁閉鎖不全には人工弁置換術を施行する.冠動脈狭窄ではACバイパスが必要な場合もある.[大内秀雄]
■文献
Nakazawa M, Shinohara T, et al: Study Group for Arrhythmias Long-Term After Surgery for Congenital Heart Disease: ALTAS-CHD study. Arrhythmias late after repair of tetralogy of fallot: a Japanese Multicenter Study. Circ J, 68: 126-130, 2004.
Ohuchi H, Kagisaki K, et al: Impact of the evolution of the Fontan operation on early and late mortality: a single-center experience of 405 patients over 3 decades. Ann Thorac Surg, 92: 1457-1466, 2011.
Shiina Y, Toyoda T, et al: Prevalence of adult patients with congenital heart disease in Japan. Int J Cardiol, 146: 13-16, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「完全大血管転位症」の解説

完全大血管転位症
かんぜんだいけっかんてんいしょう
Complete transposition of great arteries (TGA)
(子どもの病気)

どんな病気か

 心臓から出る大動脈と肺動脈が入れ替わって、左心室から肺動脈、右心室から大動脈が出ている状態です(図14)。全身からもどってきた血液がまた全身へ、肺からもどってきた血液がまた肺へと流れてしまうので、心房間か心室間、あるいは動脈管を介して血液が混ざる必要があります。頻度は全先天性心疾患の約8%です。

原因は何か

 原因は不明です。胎児期の動脈幹という動脈の元になる血管の中に壁ができて大動脈と肺動脈に分かれますが、その壁の形成異常でこの病気になるとの説があります。

症状の現れ方

 出生後すぐにチアノーゼ(皮膚や粘膜が紫色になること)が出現します。静脈血と動脈血の混ざり具合によって、チアノーゼの程度が決まります。

検査と診断

 心エコー(超音波)で診断がつきます。動静脈の血液がどこで、どの程度混ざっているかを評価することも大切です。

治療の方法

 一般的には、大血管を本来あるべき位置関係(左心室­大動脈、右心室­肺動脈)に付け替える手術(ジャテン手術)をします。同時に動静脈血が混ざる経路であった穴を閉鎖します。手術の時期は生後2~3週以内が適当です。

 肺動脈の弁が小さいなどで大血管を入れ替える手術ができない場合は、人工血管を使ったり、心房のなかで血液を入れ替えたりして、静脈血を肺へ、動脈血を全身へ導くようにします。

病気に気づいたらどうする

 出生後のチアノーゼで大血管転位に気づいたら、すぐに小児循環器医と小児心臓外科医のいる病院で治療を受ける必要があります。

長谷川 聡


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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