洞機能不全

内科学 第10版 「洞機能不全」の解説

洞機能不全(徐脈性不整脈)

 徐脈性不整脈には,洞不全症候群徐脈性心房細動,房室ブロックなどがあり,日常診療で遭遇する機会の多い重要な不整脈である.
(1)洞機能不全(洞不全症候群を含む)
定義・概念
 洞機能不全(sinus dysfunction)は,自律神経や薬剤関与による機能的(一過性)の原因,あるいは変性や器質的心疾患に伴って起こる慢性の原因があり,洞結節自動能の低下や洞房間伝導障害が生じるために引き起こされる病態である.このうち,慢性的な原因によって高度な障害が生じ,Adams-Stokes症候群,心不全,易疲労感が出現するものを洞機能不全症候群 (洞不全症候群, sick sinus syndrome)とよぶ.したがって洞機能不全症候群は,洞不全と関連した種々の不整脈を含めた心電図上の診断である.病理学的には,障害が洞結節に限局せず結節周囲組織の傷害を含むと理解される.Ferrerは,洞結節とその周囲組織の傷害およびそれに関連した種々の不整脈を総称して洞不全症候群と命名した(Ferrer, 1973).したがって,洞不全症候群は右房全体の電気的異常を呈する疾患群として考えた方が心電図で認められる多彩な不整脈を解釈するのに理解しやすい.
分類
1)原因と経過からの分類:
機能的(一過性)または器質的(慢性).
2)心電図からの分類(Rubensteinの分類(Ruben-stein ら, 1972)):
①洞性徐脈(<50/分) (図5-6-35A),②洞停止(図5-6-35B)または洞房ブロック(図5-6-35C),③徐脈頻脈症候群(図5-6-35D)
原因・病因
 特発性のものが多いが,次のようなものに由来して生じる二次的な場合がある.①一過性のものとして副交感神経緊張状態,薬剤,電解質異常,内分泌異常,脳圧亢進,低体温など,②慢性のものとして,虚血性心疾患,高血圧,心筋症,アミロイドーシス,心膜炎,心筋炎,膠原病などがある.一過性の因子が慢性の洞機能不全を悪化させている場合があるので,両者鑑別が難しいことがある.
疫学
 特発性のものでは加齢が重要な因子で,一般に発症年齢は60〜70歳代の罹患が最も多く男女差はない.家族内発症はまれで2%以下とされている.小児に生じる場合は先天性疾患に伴う場合が多い.
臨床症状
 自覚症状は心拍出量低下による全身倦怠感・息切れおよび一過性脳虚血によるめまい・失神・眼前暗黒感である.全身倦怠感・息切れは持続性徐脈が原因の場合が多く,めまい・失神の症状は洞房ブロックや洞停止の場合が多い.徐脈頻脈症候群では,頻拍による動悸が停止した後にめまい・失神の症状を訴えるのが特徴的である.洞不全症候群の合併症として塞栓がありこの塞栓による症状が初発であることもある.
診断
1)12誘導心電図・Holter心電図:
洞性徐脈は50/分以下の原因不明の持続性洞徐脈(図5-6-35A).洞停止はPP間隔が基本調律のPP間隔の150%以上に突然延長した場合に診断され,PP間隔が基本調律のPP間隔の整数倍に延長する場合を洞房ブロックと診断する.徐脈頻脈症候群の頻脈は,心房細動が多いが心房粗動や心房頻拍の場合もある.洞停止は夜間に認められることが多いため,日中の心電図記録では診断しがたく,Holter心電図が有用である.
2)電気生理学的検査:
洞機能不全と症状との因果関係が確立していない場合,電気生理学的検査の絶対適応となる.①洞機能不全の診断および重症度・タイプの評価,②最適なペースメーカ部位とペーシングモードの決定を目的として施行される.電気生理学的検査による洞機能評価の指標には,①洞結節回復時間,②洞房伝導時間,③洞結節有効不応期がある.このうち,今日最も用いられている指標は洞結節回復時間 (sinus node recovery time:SNRT)である(図5-6-36).心房頻回刺激(overdrive suppression test)にて,心房ペーシング後の洞調律回復までの時間を表すもので,正常値は1500 msec以内である.自己の基本調律の影響を考慮したSNRTとして,補正洞結節回復時間(SNRT-基本洞周期,正常値は550 msec以内)や基本洞周期で除したもの(SNRT/基本洞周期,正常値は150 %以内)がある.
治療
1)増悪因子(機能的因子)の治療:
一過性の因子(心筋虚血,薬剤,高カリウム血症など)が原因となっている場合は,これらの因子の除去が重要である.また慢性の洞不全症候群患者でも上記の一過性因子で増悪するため,できるだけ原因を同定し,除去することが重要である.
2)薬物治療:
徐脈に対して,主として交感神経作動薬や副交感神経遮断薬が使用される.これらの薬物療法は洞機能回復あるいは補充調律レートの増加を目的として使用されるが,ペースメーカ治療に比べて不確実であるので効果不十分の場合は速やかに一時ペーシングを使用すべきである.薬物としては,イソプロテレノールの持続点滴静注や硫酸アトロピンの静注を行う.慢性投与にはアトロピン,硫酸オルシプレナリンの経口投与がある.徐脈頻脈症候群の場合は,徐脈に対してペースメーカ治療を行ったうえで,頻脈に対する治療を行うのが一般的である.
3)ペースメーカ治療:
慢性の洞機能不全で徐脈に伴う症状がある場合はペースメーカ植え込みが第一選択である【⇨(3)の表5-6-6】.
4)塞栓予防:
洞不全症候群のうち,徐脈頻脈症候群は塞栓を合併しやすい.この場合は心房細動と同じ基準で抗凝固療法を行う.[草野研吾]
■文献
Ferrer MI: The sick sinus syndrome. Circulation, 47: 635-641, 1973.
Rubenstein JJ, Schulman CL, et al: DeSanctis RW. Clinical spectrum of the sick sinus syndrome. Circulation, 46
: 5-1, 1972.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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