尿を増量して,体内に余分に蓄積された水分を排出させる薬剤。浮腫(水腫)などに際して用いられる。利尿薬はその作用によって,糸球体濾過を促進させるもの,水利尿を起こすもの,尿細管での再吸収を抑制するもの,の三つに大別される。
(1)糸球体濾過を促進させる薬剤 心臓の拍出量を増加させ,糸球体を流れる血量を増加させるか,腎臓の血管を拡張して,糸球体濾過量を増大させる。前者では,強心配糖体のジギタリスが代表的である。茶やコーヒーに含まれるカフェインの利尿作用は有名であるが,その作用は後者に属する。このグループに属するものには,カフェインに類似の化合物であるテオフィリンやテオブロミン,カンタリジンなどがある。テオブロミンの利尿作用はカフェインより強く,テオフィリンより弱いが,中枢神経に対する作用は最も弱いため,よく用いられる。副作用として,頭痛,吐き気,めまいなどがある。
(2)水利尿を起こす薬剤 抗利尿ホルモン(ADH)が減少すると尿の排出が促進される。これを水利尿というが,血液量を増加させることによって,ADHの濃度を低下させ,水利尿を起こさせる薬剤である。塩化カリウムや塩化アンモニウム,クロラザニルなどトリアジン誘導体が含まれる。塩化カリウムは肝臓で変化を受けて,塩化水素を生成し,血液を酸性に傾けるため,組織から水分が血液中に移行する。
(3)再吸収を抑制する薬剤 尿細管におけるナトリウムイオンNa⁺やカリウムイオンK⁺の再吸収を抑制することによって,水分の排出を増加させる薬剤。マリーサルなどの水銀利尿薬,アセタゾールアミドなどの炭酸脱水素酵素阻害薬,アルドステロン拮抗薬などがある。水銀利尿薬は強力な利尿作用を有するが,毒性があり,副作用として,筋痛,発熱,不整脈などの急性症状や腎臓障害などがある。炭酸脱水素酵素阻害薬は,水素イオンH⁺濃度を低下させ,H⁺-Na⁺交換を抑制することによって,Na⁺の再吸収を抑制するもので,水銀利尿薬よりも毒性は低い。しかし耐性が生じやすく,胃液分泌抑制などの副作用もある。チアジド系製剤などのサルファ剤が含まれる。
アルドステロン拮抗薬も遠位尿細管に作用して,Na⁺の排出を促進させる。副作用は少ないが,肝臓障害や腎臓障害に対しては禁忌である。スピロノラクトンがこれに含まれる。
執筆者:松崎 正直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
利尿剤。腎臓(じんぞう)における尿の生成を促進し、尿量を増加させて浮腫(ふしゅ)(むくみ)を消退させる薬剤をいう。腎臓に直接作用する腎内性利尿剤と、間接的に作用する腎外性利尿剤に分けられる。腎内性利尿剤には、(1)糸球体濾過(ろか)を促進するものとして、カフェインなどキサンチン誘導体、(2)遠位曲尿細管の再吸収を抑制するものとして、チアジド系や抗アルドステロン薬があり、(3)ヘンレの係蹄(けいてい)(Henle's loop)および近位曲尿細管の再吸収を抑制するものに、水銀利尿剤やフロセミドなどがある。腎外性利尿剤には、(1)強心利尿剤としてジギタリスなどの強心配糖体、(2)浸透圧性利尿剤としてカリウム塩(酢酸カリウムなど)、尿素、マンニトール、イソソルビドなどの高張糖液、(3)アシドーシス性利尿剤として塩化アンモニウムなどがある。最近では水銀利尿剤は、毒性のためまったく使用されなくなり、フロセミドなどのループ利尿剤、チアジド系や抗アルドステロン薬が降圧利尿剤として繁用されている。
また、効力の強さから次の三つに分類される。(1)強力な効力をもつものとしてループ利尿剤、(2)中等度の効力をもつものとして炭酸脱水素酵素阻害薬(アセタゾラミド)や抗カリウム利尿剤(カリウムの排泄(はいせつ)の少ない利尿剤で、スピロノラクトンなど)および浸透圧性利尿剤がある。ループ利尿剤にはフロセミド、ブメタニド、メフルシド、エタクリン酸などがあり、チアジド系にはヒドロクロロチアジドをはじめ、トリクロルメチアジド、ベンツチアジド、エチアジドなど多くの薬剤がある。チアジド類似薬にはキネタゾン、クロルタリドン、クロレキソロンがあり、抗アルドステロン剤にはスピロノラクトン、カンレノ酸カリウム、トリアムテレンなどがある。
利尿剤では電解質のバランスが問題で、とくにカリウムイオンの排泄が大であることから低カリウム血症をおこすことがある。また、ナトリウムイオンも排泄することから降圧作用を現すものが多く、降圧利尿剤とよばれる。ジギタリスのような強心作用をもつものは、強心利尿剤といわれている。
[幸保文治]
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