中・近世,太政官の事務をつかさどった壬生(みぶ)官務家の文庫。官庫あるいは官務文庫ともいう。宣旨や官符案などの太政官文書や朝儀・公事の記録類は,本来太政官の文殿(ふどの)が保管し,大夫史=官務が文殿別当として管理していた。平安中期ごろから大夫史は小槻(おづき)氏の世襲するところとなり,小槻氏の文庫に官文書が混在していった。1226年(嘉禄2)官文殿が焼失し,それ以後は再建されなかった。ために太政官文書記録のすべてが官文庫に襲蔵されることになった。〈官文庫の儀は全く私文庫にあらず,官文殿断絶の後,官文庫を以て官文殿に準ぜらる〉と称されるように,官文庫は公的性格をもつものであった。そのことは,室町時代における修造費用が,幕府の国家的段銭によってまかなわれ,近世にも幕府,朝廷の保護を受けたことからも明らかである。襲蔵された文書記録の大部分は明治になって宮内省に移され,現在宮内庁書陵部蔵となり《図書寮叢刊壬生家文書》として公刊中である。
→壬生家
執筆者:田沼 睦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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