「宿紙(しゅくし)」と呼ばれる檀紙に定められた書式に従って書かれる。上卿の宣を弁・史が受けて下達する形式の「官宣旨」が普通である。伝達の段階で口頭で伝えられる内容を書き留めたものが「口宣」「宣旨書」とよばれるものであり、これに基づいて宣旨が清書され、あるいは記録に残された。
文書様式の一つ。元来は律令官制で上司が配下に口頭で命を下すことを〈宣〉といい,宣の内容を宣旨といった。また,宣をうけた配下が宣旨を備忘のために紙上に書き留めたものを宣旨書といった。宣旨書の様式は,次のようである。
(1)(上司名)宣 (2)……者
年月日 (3)(配下名)奉
(1)は宣を発した上司の官位氏姓名,(2)はその宣の内容(〈者〉はテエリと読み,〈といへり〉の意),(3)は宣をうけた配下の官位氏姓名等を書く。宣をうけた者の覚書であるから,差出所・宛所がなく,伝達・施行の文言がない。公式様(くしきよう)文書や下文では,その作成・発給過程では宣奉行という段階があるが,宣旨書は,本文が上司の宣ではじまり〈者〉で終わり,位署の下に〈奉〉と書くように,宣奉はあるが行(執行)のない文書ということができる。これが第三者に伝える必要のある場合は,宣をうけた者が宣旨書を土台にして正式の文書を作成したのである。ところが,その内容が軽易なもの,あるいはあらかじめ関係者に承知させておいたほうがよいものは,宣旨書を写して(清書),関係者に便宜的に与えた。この第三者に与えた宣旨書の案文が,文書としての宣旨である。ここまでくると,宣旨は,文面では宣を発した者から受けたものへの命令の形をとり,機能的には宣を受けた者から第三者への伝達という形となり,文面=文書形式と機能とのずれが生ずる。このずれの構造は,のちの書札様文書における奉書の機能と相通ずるものをもっている。つまり,宣旨は,結果として上司の宣を配下が奉って第三者に伝える構造をとるのである。
宣旨の種類は,奈良時代には多種多様であるが,平安時代にみられるのは,天皇の口勅を蔵人が奉り上卿に伝える口宣(くぜん)(ただし,11世紀末には宣旨と異なる様式となる),内侍の伝宣を検非違使庁官人が奉る内侍宣,使別当の宣を使庁官人が奉る検非違使別当宣,上卿の宣を外記(げき)が奉る上卿宣旨(外記宣旨),上卿宣を弁官が伝宣し史が奉る弁官宣旨等である。このうち,外記宣旨と弁官宣旨は,太政官から出される宣旨で,とくに重要である。外記宣旨の初見は,《類聚符宣抄》所収の大同4年(809)1月11日付の右大臣藤原内麻呂宣旨と思われるから,平安初期すでに外記宣旨が使用されている。外記は,朝儀・公事の召集,任官・待遇付与に関する雑務を職掌としたが,外記宣旨はこれらに関する軽易な命令に使用された。また摂政・関白の補任,摂関への賜随身兵仗,准三宮(じゆさんぐう)への充封戸,賜師号等,本来詔勅で行われる事項についても使用され,外記宣旨はその面で詔勅の略式文書という側面も有している。
弁官宣旨も,外記宣旨と同じころから使用されはじめたと思われ,朝儀・公事の用度,さらには諸官司,諸国,諸院家,諸寺社からの申請に対する官裁のうち,比較的軽易な事項に用いられた。とくに11世紀中ごろから13世紀中ごろにかけては,官宣旨とともに,荘園の収公をめぐる国司と権門勢家・寺社との相論における訴訟手続文書として使用された。同じ弁官局から発せられる官宣旨が諸国,諸院家,諸社寺にあてられるのに対し,弁官宣旨は主として在京の諸院家,諸社寺に与えられた。また弁官宣旨は諸寺社の長吏・別当の補任,諸氏の長者・氏の院別当の補任にも使用された。総じて弁官宣旨は官符・官牒・官宣旨の略式文書という側面をもっている。弁官宣旨,外記宣旨とも,13世紀中ごろ以降は,ほとんどが任官・補任・身分待遇等の人事事項に使用が限定されるようになる。このような人事事項に関する文書としては,このころ太政官の最も略式文書である口宣案が現れ,宣旨の機能を吸収し,叙位をも扱うようになるが,反面,宣旨はより厳粛な人事文書として位置づけられ,江戸時代末まで用いられた。
平安時代,太政官上卿の宣を官符・官牒以外に弁官局から文書を出す方法がいくつかあったが,これらを区別するそれぞれの名称が使われていた。大宣旨とは朝儀・公事の用度の申請書の裏に加えた弁官奉の外題宣旨,小宣旨とは京官司にあてた官宣旨,国宣旨は諸国に下す官宣旨,口宣とは史が宣旨の代りに口頭で第三者に伝え,第三者が認めた宣旨のことであるが,鎌倉時代以降はこうした名称は使用されなくなる。ただし,単に宣旨という場合は,口宣や官宣旨を指す場合があり,その判断には十分注意する必要がある。宣旨の内容による名称として,衾宣旨(ふすまのせんじ)や永宣旨(えいせんじ)/(ようせんじ)などがあるが,永宣旨とは,本来勅許・官裁を経るべき事項を将来いちいちの申請なしにその者の判断でなしうる権限を付与した宣旨をいう。しかしこれは必ずしも宣旨によらず,官符・官牒・官宣旨・院宣・綸旨等による場合も永宣旨と称した。その付与される権限の内容は,平安時代には,寺社への封禄の付与,鎌倉時代以降では,僧位・僧官の叙任権などであった。
執筆者:富田 正弘
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古代において上級者の口頭命令を下級者が奉り,その内容を記したもの。奈良時代には多様な場面,多様なかたちで用いられたが,平安初期からしだいに文書様式が定まった。太政官では,勅命をうけて上卿(しょうけい)が宣した奉勅と,上卿が独自に下した上宣との別があり,内容によって弁官が伝宣し史(ふひと)が奉じたもの,外記(げき)が奉じたものなどがあった。これにもとづき史や外記が諸司に下したが,これを諸司官人が承って宣旨として書き記す場合や,史や外記が奉じた宣旨そのものが伝達される場合もあった。諸司でも長官の命を部下が奉じて書き記した宣旨があった。形式は宣者と宣の内容,年月日を記し,日の下に「某奉」などと受命者の名を記す。このほか太政官から諸司・諸国や寺社に命令を伝達するための下文(くだしぶみ)形式の文書(弁官下文)を官宣旨と称したが,これは太政官符や牒(ちょう)と異なり捺印が不要で迅速に発給でき,官符・牒と併用された。
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平安時代以降、天皇の命令を下達するとき出された文書。公式令(くしきりょう)の規定では、天皇の命令は詔書、勅書で下されたが、平安時代には手続の簡単な宣旨が多く用いられた。手続は、勅命が女官から蔵人(くろうど)、上卿(しょうけい)(担当の公卿(くぎょう))へと伝達され、上卿は内容に応じて担当の官庁に命じ宣旨を作成、発行させた。中央官庁内の任官、勤務などは多く太政官(だいじょうかん)の外記(げき)局が、一般庶務は多く弁官(べんかん)局が担当した。外記局関係の宣旨には外記の奉書、弁官局の宣旨(官宣旨という)には弁官の下文(くだしぶみ)と弁官局の書記である史(し)の奉書とがあった。以上のほか、勅命である旨の記載がない上卿の宣旨や弁官・蔵人の宣旨もある。弁官下文はこの後盛んとなる下文の始めである。
[百瀬今朝雄]
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…位署は,弁官局構成員(左右の大中少弁各1人計6人,左右の大少史各2人計8人)のうち弁1人(日付次行上段)と史1人(同下段)とが,当官職,氏,姓,名(花押)を書き,位階,兼官職等は省略する。官宣旨の初見は,写ながら《寺門伝記補録》に載せる貞観11年(869)9月15日付の延暦寺にあてたものであるが,とくに盛んに用いられるようになるのは11世紀以降のことである。このころから権門勢家と国司との荘園をめぐる相論が激しくなっていくが,太政官におけるこの裁判進行の文書として,天皇御璽・官印の請印や文書授受の儀式の厳格な官符・官牒は,あまりにも手数と時間がかかり,煩わしいものであった。…
…その淵源は二つに分けられる。一つは奈良時代に,仰せ,命令の意で広く用いられていた宣の系譜を引く内侍宣(ないしせん),宣旨(せんじ),口宣案(くぜんあん),官宣旨(弁官下文),国司庁宣,大府宣などである。内侍宣は,天皇に近侍して奏宣をつかさどる内侍司の女官が天皇の仰せを伝えるものであるが,薬子の変を機に蔵人所が置かれ(810),蔵人が天皇の仰せを,太政官の上卿に伝えるようになった。…
…職事蔵人は天皇の口勅(口頭による勅命)を奉り,太政官の陣座に赴き,上卿に勅旨を口頭で伝えた。この口頭伝達を,職事の仰詞(おおせことば)または口宣ないし宣旨といった。しかし,このような勅旨伝達は,いつも陣儀として行われるわけではなく,臨時に陣座以外でも行われた。…
…(B)令外様文書 律令制の崩壊とともに,公式様文書に代わって,重要な政治文書として用いられるようになったのが令外様文書である。すなわち公式様文書の繁雑な発給手続を省略して,上卿(しようけい)の仰(おおせ)を直接当事者に伝えるようになったのが宣旨で,それを太政官の正式文書として発給したのが官宣旨である。官宣旨は〈左(右)弁官下……〉という書式をとることから弁官下文(くだしぶみ)ともいわれ,これから院庁(いんのちよう)下文,公家あるいは寺社の政所(まんどころ)下文という文書が成立した(下文)。…
※「宣旨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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