日本大百科全書(ニッポニカ) 「富士額男女繁山」の意味・わかりやすい解説
富士額男女繁山
ふじびたいつくばのしげやま
歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。四幕。通称「女書生(おんなしょせい)」。河竹黙阿弥(もくあみ)作。1877年(明治10)4月、東京・新富座で、5世尾上(おのえ)菊五郎の妻木繁(つまきしげる)、初世市川左団次の御家直(ごけなお)らにより初演。上州熊谷(くまがや)で男装の女が警察に連行されたという新聞記事を脚色。伊香保(いかほ)の私立学校主の娘で、男児として育てられた妻木繁は、上京して、男装のまま高官神保正道(じんぼまさみち)の書生となるが、父が病と聞き神保から金を盗んで帰郷の途中、熊谷宿で悪車夫御家直に女と知られ、強迫されて身を任せる。帰京後、神保に罪を告白、その妾(めかけ)になるが、御家直が父を殺したのを知り、隅田堤で直を討って自首する。明治の新時代の風俗を描いた「散切(ざんぎり)物」で、男装の女の倒錯的エロティシズムに特色がある。
[松井俊諭]