日本大百科全書(ニッポニカ) 「対比列伝」の意味・わかりやすい解説
対比列伝
たいひれつでん
Bioi Paralleroi
古代ギリシアの伝記作家プルタルコスの作品。日本では『プルターク英雄伝』の名でよく知られる。作者晩年(60歳以後、2世紀初め)の大著。ギリシア、ローマの政治家、軍人50人の伝記を集めたもので、とくに「対比」列伝と称されるのは、1人のギリシア人(たとえばデモステネス)の伝記に、それに見合うローマ人(この場合キケロ)を配して一組とし、2人の伝記を述べ終わったあとに両者の「比較」の章を設けているからである。60歳を超えた老人が10年以上をかけてこれほどの大著を手がけたわけだが、友人の勧めで書き始め、書いているうちに興がのり、やめられなくなったという。したがって、全体の構成や個々の伝記の並べ方は一貫した方式に即してはいない。彼自身の言によると、人物の性格を明らかにするのがねらいで、読者が主人公の優れた性格に発奮し、劣った性格を戒めにするように配慮している。まず話題のおもしろさと生き生きとした教訓、また作者の健康な常識、さらに16世紀、アミヨによる名訳の出現で、この伝記集は近代の読者からも大いに歓迎された。
[柳沼重剛]
『河野与一訳『プルターク英雄伝』全12冊(岩波文庫)』