射撃競技は散弾銃を使用するクレー射撃,それにライフル射撃,ピストル射撃に大別される。広義には弓,弩(ど)などによるものも射撃だが,銃器の性能がそれらと比較し格段に向上したことで,射撃競技は銃器での射技を競うスポーツとして世界的に普及している。なお,銃器を使用する他のスポーツとしては狩猟がある。
銃器による射撃(以下射撃)が競技として定着したのは,銃器の性能が弓などよりも優れていることを示した16世紀ころであった。ヨーロッパには当時創立された射撃クラブが現在も活動している例は少なくない。国際的な近代射撃競技の出発は1897年フランスのリヨンで開催された第1回世界射撃選手権大会で,以後オリンピックでは陸上競技につぐ多くの参加国があるまでに普及している。現在,射撃競技を統轄する国際組織には1907年創立の国際射撃連合Union internationale de tir(略称,UIT)がある。日本では1882年に東京共同射撃会社(のちの日本帝国小銃射的協会)が設立され,近代射撃競技の母体となった。1925年には学生射撃連盟が誕生し,36年には大日本射撃協会が設立されて,国際射撃連合に加盟し,国際的スポーツ競技として発展した。国内組織として53年に改組された日本クレー射撃協会と日本ライフル射撃協会があり,後者はピストル競技も統轄している。
散弾銃本来の用途は鳥猟だが,その練習として飼い鳩を撃つ競技が行われていた。この生きた鳩にかわる標的としてクレー(粘土)の皿状の標的を飛ばす方法が1880年ころイギリスではじめられ,クレーピジョン(粘土の鳩)射撃と呼ばれた。これがクレー射撃のはじまりで,現在では射撃方法から,トラップとスキートの2種がある。いまでは単にクレーと呼ばれる標的は石灰とピッチを混合して焼いた割れやすい円盤で,これを放出機(トラップ)から放出,飛行中に撃ち割る競技である。公式規格は直径110mm(±1mm),高さ25~26mm,重さ105g(±5g),色は黒,白,黄,オレンジとされる。
(1)トラップ射撃競技 一線上に5ヵ所設けられた射台の前方15mの地下ないし半地下のトラップハウス内から,角度,方向とも一定範囲内で不定に,射手に対し飛び去るように放出されるクレーを射撃する(図)。1射台で1個放出されるクレーに2発まで撃つことができ,各射台で1個ずつ,5巡して合計25個撃ちで1ラウンドとなる。クレーは射手から遠ざかる方向に飛ぶので追い撃ちとなり,散弾銃の射程ぎりぎりで勝負する競技といってよい。オリンピックでは8ラウンドを2~3日間で撃つ200個撃ち競技が行われ,世界選手権では1日4ラウンドを3日間,300個撃ち競技が実施される。
(2)スキー射撃競技 トラップ射撃が追い撃ちのみの競技で変化にとぼしいことから,実際の狩猟に近いようにさまざまな角度からクレーを撃つようにくふうされた射撃である。スキートとはスカンジナビア古語で〈撃つ〉という意味である。1番から7番までの射台を半円状に配置,1番と7番の中間に8番射台を設け,1番射台背後にハイハウス,7番射台背後にローハウスを設ける(図)。この両ハウスからクレーを一定方向に放出し,射手は1番から8番射台を順にめぐって撃つ。これによってクレーに対する角度は大きく変化し,狩猟に近い射撃がたのしめることになる。1個のクレーに対しては1発の射撃しか認められない。1,2,3,5,6番射台では1個の標的を撃つシングルと,両ハウスから同時に放出される標的を撃つダブルとが行われ,4,8番射台ではシングルのみ,7番ではダブルのみが競技される。全射台を一巡する1ラウンドは25発で,オリンピック,世界選手権では8ラウンド,200個撃ちを2~3日間で実施している。
銃器の多様化によって多くの種目に分かれている。両射撃とも原則的には,一定距離の静止標的を規定された銃器弾薬を使用し,一定の射撃姿勢で射技を競うが,ピストル射撃競技では一定時間だけ射手に対面する隠見的(いんけんてき)も使用され,またランニングボアライフルでは移動的が使用されている。
(1)ライフル射撃競技 口径5.6mmのスモールボア(SB)ライフルが使用され,射程は50mで実施される。銃は規格制限のゆるやかなフリーライフルと,標準的な銃スタンダートライフルの2種があり,それぞれに競技される。
(a)フリーライフル競技は立射,膝射(しつしゃ)伏射の3姿勢競技と伏射のみの2種があり,前者は各姿勢40発,後者は60発の競技である。(b)スタンダードスモールボアライフル競技は,3姿勢で(a)のハーフコースの各姿勢20発で競技される。このほか,世界選手権大会の任意種目として,口径8mm以下の(c)フリービックボア競技がある。射程300mで3姿勢120発競技だが,広大な射場施設を必要とするので開催は減る傾向にある。(d)エアライフル競技はちょうどこの逆で,経済性と手軽さ,しかも精密射撃が味わえることから世界的に普及している。国際ルールは立射60発(男子),立射40発(女子)の2種目で実施されているが,射場設備の負担が比較的軽いことから,日本ではスモールボアライフルのルールをとり入れて,3姿勢,伏射競技も行われている。以上はすべて静止標的での競技だが,つぎに述べる競技はライフルによる唯一の動的射撃競技である。(e)ランニングターゲット競技がそれで,イノシシ(ボア)の形をした的が使用されるのでランニングボア競技とも呼ばれる。50mの射程で,幅10mの空間を遅速2速度で移動する(ラン)標的に各ラン1発ずつ,各速度30発ずつ計60発射撃する競技である。使用銃は口径5.6mmで,この種目にかぎりレンズを用いた光学照準器(スコープサイト)の使用が認められている。
(2)ピストル射撃競技 銃種,使用弾薬など一定規格内で競技されるが,姿勢はすべて立射で,銃は片手保持で射撃する。
(a)フリーピストル競技は射程がピストル競技最大の50mで,銃には口径5.6mmという以外に制限はなく,ピストル射撃の精度を追求する競技といえる。60発で射技を競う。(b)ラピッドファイアピストル競技は,シルエット競技とも呼ばれる自動拳銃による競技である。射程25mに5個の人像的が一線上に設置され,短時間一斉に回転し射手に正対するのを各標的1発ずつ5発,順に射撃する,いわゆる限秒射撃である。正対する時間は,8秒,6秒,4秒の3種で各限秒射を2回,計30発を撃ち,これを2回射撃し計60発で競技される。銃は口径5.6mmで重量1.26kg以下,内径30cm×15cm×5cmの箱に収まらなくてはならないという規定がある。以上は使用銃器が競技専用銃による競技だが,実用拳銃による種目として,(c)センターファイアピストル競技がある。口径7.62~11.4mmの実用自動拳銃あるいは回転弾倉拳銃(リボルバー)を用い,25mの射程で〈おそ撃ち〉と〈はや撃ち〉とで構成される。おそ撃ちにはフリーピストル標的が使用され,5発1シリーズを6分以内に射撃する。はや撃ちはラピッドファイアピストル標的を使用,5発1シリーズを1回3秒で7秒間隔で正対する標的に各1発ずつ射撃,おそ撃ち,はや撃ち各30発の計60発競技である。(d)スタンダードピストル競技は小型の実用拳銃による競技で,口径5.6mmの自動拳銃あるいはリボルバーを使用する。標的にはフリーピストルのものが使用され,25m射程で150秒,20秒,10秒の限秒射撃を5発1シリーズ,各時間4シリーズ20発で計60発競技である。細部についてはセンターファイアピストルのルールが準用される。また,本種目と同一銃器を用い,センターファイアピストルと同様の内容で行う種目があり,スダンダードピストルセンターファイアプログラムと呼ばれる。別名レディスマッチと呼ばれ,女性のみのピストル種目として制定され,実施されている競技である。(e)エアピストル競技はエアライフルとともに,手軽にしかも精密な射撃をたのしめるため,世界的に普及している競技である。エアライフル同様,射程は10mだが使用標的は少し大きい。やはり立射,片手保持で射撃し,60発,40発,20発の種目があるが,多くは40発で競技されている。なお,圧縮ガスを用いるガスピストルはその性能から,エアピストルと同様に分類され,エアピストル競技に用いることが認めれられている。つぎに銃器所持に厳しい日本の法律(銃砲刀剣類所持等取締法)が生んだ独特の種目がある。まず(f)ハンドエアライフル競技がその一つで,エアピストルの所持数が全国で制限されているため,銃刀法で認められる範囲で最小の規格につくられ,片手保持で射撃可能な短いエアライフルでの競技種目である。ルールはエアピストルに準じており,この種目で一定の成績を得た射手は,エアピストル所持が認められることになる。ついで,エアピストルで一定の成績水準に達したら,装薬拳銃の所持が認められるのが,日本での民間人の拳銃所持の条件である。つぎは,(g)ビームライフル(光線銃)競技で,これは光線による射撃シュミレーターであって,銃から発射されるキセノン光線を標的側で受感,そのXY軸への光量の偏差を小型コンピューターで計算し,弾着点を表示するというシステムになっている。日本ライフル射撃協会が開発したもので,1975年三重国民体育大会から正式種目となっている。射程は10m,立射と射台上に両肘(ひじ)をおく,肘射との2姿勢,各20発計40発競技だが,各40発の単独姿勢競技も行われている。光線式のシュミレーターとはいえ,その精度は高く,国外でも注目されている種目である。
以上が射撃競技の各種目についての概要だが,オリンピック種目として2008年の北京大会で採用された種目はつぎのとおり。(1)クレー射撃 トラップ,スキート(以上男女),ダブルトラップ(男子)。(2)ライフル射撃 スモールボア3姿勢,エアライフル(以上男女),スモールボア伏射(男子)。(3)ピストル射撃 エアピストル(男女),フリーピストル,ラピッドファイアピストル(以上男子),スポーツピストル(女子)。以上のように男子9種目,女子6種目の計15種目。
執筆者:岩堂 憲人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
散弾銃・ライフル銃・空気銃・拳銃(けんじゅう)・空気拳銃・古式銃など各種の銃器を使用して標的を狙撃(そげき)する競技。
射撃競技はヨーロッパ各地に銃が普及し始めた15世紀から16世紀にかけて急速に広まった。国際的な競技大会は、1897年、フランスのリヨンで行われた第1回世界射撃選手権大会である。オリンピック大会では、第1回アテネ大会(1896)から実施されている。
日本の射撃競技は、明治維新後まもなく民間人が室内射撃場を設置し、銃器、弾薬を政府から購入して射撃練習をした記録があり、これが民間射撃の始めとされている。1925年(大正14)の第2回明治神宮競技大会から射撃競技は正式種目として採用され、一般、学生、在郷軍人の3部に分かれて実施された。1937年(昭和12)には大日本射撃協会が結成され、翌年には国際射撃連合に加盟した。第二次世界大戦終戦とともに大日本射撃協会は解散したが、1949年(昭和24)には日本射撃協会が設立され、翌年には第1回全日本ライフル射撃選手権大会を開催した。1951年には日本体育協会(現、日本スポーツ協会)に加盟。同年の国民体育大会に正式種目として参加し、現在に至っている。また、1951年12月には国際射撃連合に復帰、再加盟した。
[日本ライフル射撃協会 2018年11月19日]
射撃競技は、国際的にはシューティングshootingという名称が使われ、ライフル射撃競技rifle shooting、ピストル射撃競技pistol shooting、クレー射撃競技clay target shootingほかに分けられる。
なお、日本国内ではライフル射撃競技という名称のなかにライフル射撃競技とピストル射撃競技が包括されている。このほか、空中に放出されるクレー・ピジョン(動標的)を散弾銃で撃つクレー射撃競技や、限られた時間内で地上を走行する紙製動標的を射撃するランニングターゲット射撃競技、火縄銃・同短筒など古式銃による前装銃射撃競技などがある。また、複合種目のなかにピストル射撃競技を加えた近代五種競技(2012年オリンピック・ロンドン大会からは光線銃ピストルを使用)、スキーの距離競技にライフル射撃を加えたバイアスロン競技(冬季近代二種)もある。これらの射撃競技を統括する組織として、ライフル射撃競技およびピストル射撃競技には日本ライフル射撃協会、クレー射撃およびランニングターゲット射撃競技には日本クレー射撃協会、近代五種競技には日本近代五種協会、バイアスロン競技には日本バイアスロン連盟がある。
なお、日本国内では競技で使用する銃砲であっても、光線銃(ビームライフル、ビームピストルなど)を除き、銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)によりその所持、使用について厳しい制限が課せられている。
[日本ライフル射撃協会 2018年11月19日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新