日本大百科全書(ニッポニカ) 「小児ニコチン中毒」の意味・わかりやすい解説
小児ニコチン中毒
しょうににこちんちゅうどく
小児期において、たばこに含まれるニコチンによる中毒で、たばこ中毒ともよばれる。軽症では悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、めまい、頭痛、流涎(りゅうぜん)(よだれを流す)などがみられ、重症ではさらに腹痛、激しい嘔吐や下痢、冷汗、脱力、精神錯乱などがみられ、意識消失、けいれん、呼吸麻痺(まひ)をおこして死亡する。
急性中毒は、たばこそのものをなんらかの形で摂取することによっておこるが、発生原因として日常的にもっとも多くみられるのは幼児の誤飲によるものである。紙巻きたばこ1本には小児致死量に相当するニコチンが含まれているが、これを幼児が食べても死ぬことはない。これは、たばこからのニコチンが酸性の胃液内に溶出する速度が遅く、胃から全部吸収される前に一部溶出したニコチンの催吐作用で嘔吐がおこり、胃の中に残っているたばこをほとんど吐き出してしまうためで、重症となる場合はまれである。しかし、灰皿などのたばこが浸った水にはニコチンがかなり多量に溶出しているとみられるので、これを誤飲すれば危険である。この場合は吐かせることが先決で、牛乳、湯冷まし、番茶などを飲ませてから吐かせると効果的である。また、ニコチンの体外排出と酸化を目的として0.5%タンニン酸、0.01%過マンガン酸カリウムを用いて胃洗浄を行う。重症例では早くから呼吸筋麻痺を生ずるので、酸素吸入および人工呼吸を行い、心停止に対しては心マッサージを行う。
なお、幼児がたばこを食べたときは、まず口中にあるたばこを吐き出させ、口の中や周りをきれいにしたら、どのくらいのたばこの量が体内に入ったかを調べる。慌てないでようすをみる。必要があれば、ただちに医療機関を受診する。
[山口規容子]